サッカー#5
小学4年生の時、親友だったようすけに
「サッカークラブ入らない?」
と誘われた
ようすけは小学1年生から
我が小学校のクラブチームに所属していたが
俺は特段サッカーが好きではなかったし
サッカーが上手かったわけでもなかった
ようすけは親友の俺と
日曜日の午前中の時間を共にしたかったのだと思う
父親に頼み込むと
「直夢はサッカー無理だろー、、」
と言われた
父親もまた、学生時代サッカーに打ち込んでいた1人だった
次男必殺の泣き落としで駄々を捏ねてようやく
そんなにやりたいならやってみればいいと
渋々承諾をもらうことに成功し
なんとかクラブチームに所属することが決まった
家電を使って
歩いて5分のようすけの家に電話をかけると
受話器の向こうで飛び跳ねているのがわかるほど
ようすけは喜んでくれた
俺もすごく嬉しかった
俺の兄貴もサッカーが上手かった
だが、兄貴はクラブチームや部活には所属していなかった
後から聞いた話だが
兄貴もまた小学生時代、
クラブチームに入りたいと頼み込んだことがあったらしい
その時は取り付く島もなく
突っぱねられたそうで
常々弟とは得な存在だと
改めて思う
初めてみたはいいが
そもそも俺は運動神経が悪かった
サッカーも、もちろん上達はしない
そればかりか
コーチが厳しく、怒られることに萎縮し
次第に日曜日が嫌になっていた
7時30分から始まる、
マジレンジャーのオープニング曲を聴くたび
また怒られるのか、と
憂鬱な気持ちでパンを齧り
エンディング曲が流れ終わると同時に
団地の駐輪場へ向かい
マウンテンバイクを漕いで校庭へ向かった
大好きだった仮面ライダーは見れなくなった
今にして思えば
ブラック企業で働かされるサラリーマンのようで
自分で望んでその場にいるのに
少々の絶望を抱えていた
往々にして
小学生にはつきものな心情であった
チームは弱かった
記憶ではほとんど負け試合だったはずだ
20人ほどのチームメイトの中
ビリから3番目くらいの直夢少年が
楽しいはずもなかったが
ようすけがいたから続けられていた
いや、コーチが怖くて辞めたいですと言い出せなかったことの方が大きかったかもしれない
そんな4年生を過ごし終え
5年生に差し掛かる春
ようすけが転校していった
親の仕事の都合とのことだった
どんな見送りをしたのかは、覚えていない
コンビニのビニール袋が風で舞い上がって
川に着水してしまった時のように
通り過ぎていくのを眺めることしかできず
ようすけは俺の前からいなくなっていった
それでも結局、
小学6年生まで、サッカーは辞めなかった
コーチと親に
辞めたいと言い出せなかった
相変わらず上達もしなかった
4年生の体育の授業で
バスケをする日があった
初めてバスケットのボールを校庭の砂地にドリブルした時に、これだと思った
シュートは入らなかった
ただ、ドリブルはなぜか上手かった
たったそれだけで
その日の放課後から
校庭にサッカーボールを持って行って
1人バスケをした
サッカーのトレシューを履いて
来る日も来る日も校庭へ向かっていた
バスケに夢中になることで
バスケ以外でも変わったことがあった
ある日の日曜日
いつも通り上手くいかないパス練習や
リフティングを終え
最後に試合形式をとっての練習時
俺にボールが回ってきた
俺はサイドバックという
弱小小学生サッカーチームにおいて
1番使えない人間が任せられるポジションについていたのだが
いつも、自分にボールが来るたびに
どこにどうボールを運んで
誰にパスを出していいのかわからず
あたふたしている間に
俺の前からボールが消えてしまっていたのだが
その時は少し違った
ボールを前に蹴り出したら
思いの外足に馴染んだ
そのまま進んだら
縦のスペースにラインが見えた
不思議な感覚だった
その時がまさに俺の
運動神経が開花した瞬間だった
その日から
サッカーも楽しくなった
相変わらずリフティングはできなかったが
プレーの質が良くなり
気づいた時には
ポジションがフォアードになっていた
印象に残っている、
俺の華々しいゴールシーンがある
鬼コーチがゴールキーパーを担当していた試合で
フォアードとしてボールを受けた
センターラインを少し超えたあたりから
狙える!と確信して放ったロングシュートが
飛び上がった鬼コーチの手をすり抜け
クロスバーの下部分を叩いてゴールラインの向こう側へ突き刺さったのだ
俺には
日本代表を長く務めた遠藤のカーブくらいいい軌道を描いてのゴールに見えていた
小学校卒業の3月
一週目の日曜日のことだった
公式戦は、とうに終わっていた
クラブチーム最後の練習を終えた日
今までお茶当番や弁当、汚れたユニフォームの洗濯など
献身的に頑張ってくれた両親たちと共に
近くの集会場に集まって
6年生を送り出す会が開かれた
最後になる俺含めた同級生一人一人、
中学生になる意気込みを発表させられる
みな、中学に行っても
このチームで学んだサッカーで
頑張っていきます!と
抱負を言っていたが
俺は中学に入ったらバスケ部に入ろうと思っていた
それが、裏切り者のような気分で
ずっと罪悪感だった
ただ、嘘はつけなかった
はっきりいうこともできず
中学生になったらサッカーを続けるか、、、
わかりません、、、、
そんな曖昧でモジモジした答えですら
その場にいた親、同級生たちは
そうなんだーと、少し悲しそうな顔をしていた
居心地が悪くて、早く帰ったことを覚えている
そんな感じで
俺のサッカー人生は
苦い思い出を残して
お前の知らないところで幕を閉じていたよ
ようすけ、元気してるか?
最近、
各地をライブやスケジュールで赴く際
一成が機材車にサッカーボールを積んでくる
一成は小学校中学校と、サッカー部だった
親父よりも兄貴よりも
おそらくサッカーが上手い
つられて昔を思い出して
パスパスなんかをやって
初心者のあんちゃんも参加して
カメラマンのなおやも参加して
スタッフのアスカも参加して
終いには打ち上げでバンドマンと
公園でサッカーをしている
今でもサッカーに思い入れは特にない
ただ、今になって
誰かに向かってボールを蹴って
その誰かからボールが返ってくることが
どうにも楽しい
根源的な部分で
今サッカーがすごく楽しい
これはきっと
ようすけのおかげではないのかもしれない