電波戦隊スイハンジャー#30

第三章・電波さんがゆく、グリーン正嗣の踏絵

夢狩り4

町の道路には街頭が少なく、辺りは闇に近い。


2人の行く道を木霊の緑色の光が指し示している。


シルバーとグリーンが乗ったバイクは町の温泉センターを背に、すぐに右側にあるメロンの上半分を模した県物産館ドームを通り過ぎた。


一応読者様に説明しておこう。


自動二輪車の法定速度は時速60キロで、


泰安寺住職が名付けた「たんぽぽ号」Hondaスーパーカブ110(市場価格25万円相当)は、


市街地を燃費効率よく走るために開発されたものであって、決して山道や林道向けではない。


いくら木霊の案内とはいえ…この馬鹿シルバー、絶対うちのバイクを壊す気だぁっ!!


半分泣きそうなのと猛スピードのバイクに乗ってる怖さで文句も出ず、グリーンはシルバーにしがみついていた。


シルバーはスーパーカブを4速時速90キロで走らせるという、非常に滅茶苦茶な運転してかつ、オフロードバイクのように山道を疾走していた。



「ちくしょう、子供2人抱えて山道走り抜けるなんざ、なんて化け物なんだ!?」


倒木を器用にかわしながらシルバーが舌打ちする。


光の道があと山2つ向こうまで続いている。


スーパーカブのエンジン部分が熱くなっている。目的地までもつか?


「頼むぜ、サリーちゃん」


シルバーは勝手に名付けたバイクを激励するように声をかけた。


「何ですか?サリーちゃんって」


スピードに慣れてきたグリーンが聞いた。


「カブの姉貴はサリーちゃんだろ!魔法使いサリー知らんの?」


ね、ネタが古っ!


それになぁ、とシルバーが続けた。


「大学時代、Hondaカブで通学しててなぁ、『サリーちゃん号』って名付けてたワケ!」


過ぎた青春時代を懐かしむような声であった。


「えっ、大学卒ですか?仕事当直あるとか…あなたの仕事って一体…」


「黙ってろ!!舌噛むぜっ」


急にバイクがスピードを上げた。多分時速100キロ超えだろう。光が切れて…崖である。


ま、まさかまさか飛び越えちゃうって!?バイクが重力を失った。



ぎゃああああああーーーっ!!グリーンは心の中で絶叫した。



4,5メートル位向こうの崖まで飛び移る、放物線の頂点で、



「ヒャッハー!!!」とシルバーはテンションMaxで叫んだ。


まるで「あの非公認ゆるキャラ」みたいな声であった。


半月から太り始めた月が、スーパーカブで宙を飛ぶヒーローコンビを照らした。


ちょうど地上の田舎町のコンビニで、たむろっている若者たちがその光景を見た。



昨日光彦にからんだヤンキー3人組である。


うわっ、なんて無茶しやがる!と少年3人は思った。


「おれ、もうバカな真似やめるわ…」


衝撃を受けた本田和吉(16才)が、金髪の頭をうなだれた。


「な、なに言ってんだよ?」


仲間の質問に本田君は答えなかった。


止める仲間を振り切ると、ヘルメットを被って法定速度でスクーターで帰った。


ヒーローコスプレであのバイクテク…


超ド級の馬鹿がいたよ。おれ、勝てねえし。


まさか馬鹿コンビの内の1人が自分の恩師とは、本田君には知る由もなかった。


本田君はその夜、「何か」を卒業した。



着地と共に、物凄い衝撃が股間と内股に来た。頭ががくん!と揺れる。


「はっはっはっ、オトコにしか分かんねえ痛みだよなぁ!!俺は腰浮かせてたけどねっ」


シルバーは豪快に笑いつつも、スピードをゆるめない。


急所の痛みでグリーンは涙目になりシルバーの背に頭を押しつける。


細身なくせに分厚い背中だった。武道をやり込んでいる背中だ。とグリーンは思った。



「ぴーぽー、おぶざ、あーす。ぴーぽー、おぶざ、あーす」



iPadからはリピートでフレディ・マーキュリーの歌声が聴こえ、シルバーが真似して歌いだす。


なんなんだよっ、このパンク野郎はっ…!!自分、この人とタッグ組むワケ?


やがてHondaスーパーカブがスピードをゆるめた。酷使したせいで、車体全体が熱を持っている。


どこかの山の頂上だろうか?水田広がる町の様子が見下ろせる。紡錘形の月が白い。


「見ろ…!」


山の頂上の真ん中に、木霊の光が密集してる…。その下に、学校の教室ほどの大きさの深い穴がある。


光が穴を、半球状に包み込んでいる。



たぶんこの下に、光彦たちと『夢狩り』サキュパスはいる。


飛び込むか?とシルバーは聞いた。グリーンはうなずいた。


「それっ!」


バイク「たんぽぽ号」はスピードを上げ、光の穴に飛び込んだ。


次の瞬間、さくっ!!と紙を切るような軽い音とともにスーパーカブ「たんぽぽ号」は座席中央から縦に引き裂かれた。


死神が持つような巨大な鎌が、宙に弧を描いて、止まった。


グリーンとシルバーには想定内の攻撃だった。バイクを裂かれる直前で飛び上がり、穴の中央の怪物を見据えて宙を浮いている…。


「なんだ、お前ら、何てったっけ?スイハンジャーも飛べるのか?」


「作者の後付け設定ですけどね。飛ぶためにスーツにスカート付いてたんですね…」


無駄口を叩いている場合か?


さくっ、次の鎌の攻撃も、二人はかわした。


怪物が、直接2人の心に語り掛けている。子供のような声である。


「見えるか?グリーン」


「ええ、外側からの木霊の光でよく見えますよ…なんだ『あれ』は…」


アメリカで間接的に28人殺害し、日本で無差別にネットユーザーを襲った『夢狩り』サキュパスは、身長130センチ位の童子の姿をしていた。


トランプのジョーカーのような、白地に黒い格子柄の道化の衣装を着ている…。


サキュパスは角の飾りが付いたフードを脱いだ。


長い髪は白と黒のマーブル柄。顔は、色白で、下ぶくれの上品な感じ。



瞳が、紅く輝いている…童子は自分の身長の二倍もある鎌を、軽々と肩に担いでいた。



「なんだ、二人だけか…」


サキュパスは、宙に浮くグリーンとシルバーを見て残念そうに言った。実に可愛らしい声だった。


「5つの色をしたふざけた義賊がおると知り、この島国に来たが…まとめて喰らおうと思ったのによ…」


シルバーの読み通りであった。


「光彦は、愛恵ちゃんはどこだっ?」


サキュパスは興味なさそうに自分の足元に手をかざした。薄いブルーの半球に包まれた近藤兄妹がいる。妹のほうは眠っているようである。


「マサー!!」半球の中から光彦が泣き叫んだ。声がくぐもっている。


「光彦!」


ぴしゅっ!鎌の攻撃を、グリーンは紙一重でかわした。


「バリアーに閉じ込められているんだ。敵さんも超能力者か」


シルバーが鎌の攻撃を杖で跳ね返した。


「ほほう、銀色のほうは膂力りょりょくがありそうだな」


サキュパスの笑顔は獲物を弄ぶ猫のようである。


「グリーン、鎌で刺されるな!精神を食われるぞ…」


あの鎌で、人の心を狩っていたのか。


鎌が半円を描いて、二人を襲い続ける。


グリーンは錫杖で、シルバーは「喧嘩上等」と文字を彫った杖で、鎌を跳ね返す。


「あっははははは、本気をお出しなさいよ!」



鎌を振り下ろすと同時にサキュパスは宙に浮いて、歌舞伎の鏡獅子のように長い髪をざんばらに広げた。


髪の毛の一本一本がむくむくと広がり、植物の蔓のように二人に絡みつこうとする。


「むん!」


シルバーは指を弾いてかまいたちのような風を作って。蔓を切り落とす。


この人、真空波が作れるのか!


真空の輪がフリスビーのようにシルバーの手に返ってきた。シルバーは人差し指で真空の輪をくるくるさせる。



「名付けてスナップ・チャクラム…『師匠』に教わったんだ」


「すごい…」


「グリーン、お前は刃物を持っているのか?」


「いいえ…あ、そうだ!」


グリーンは泰範から貰った五鈷杵をポケットから取り出した。


木製。エレメント『木』…五独杵から光の刃が伸びて、緑色のオーラを受けて輝いた。


この刃の形は不動明王の剣、倶利伽羅《くりから》ではないか!



矢のような速さで襲い掛かる髪の毛の蔓を、グリーンは倶利伽羅で切り落とす。


鎌を除け、髪の毛を切り落とすを繰り返し、二人は疲労しはじめていた。


「人の髪の毛の数は平均10万本…これじゃ消耗戦だ!グリーン、他の味方の援軍はっ?」


「とうにSOSは出してますけどね、届かないんだ。


私たちは、サキュパスの思念結界に閉じ込められている。ESPは敵の方が上ですよ…」


踊れ、踊れ、踊り疲れて、心を失くせ…それが上質の贄《にえ》になる…



「くそぅ、俺たちの作戦なんかお見通しだったのか!」


シルバーがマスクの下で唸った。



生きて、踊って、狂い果てよ…人間どもよ…


サキュパスは恍惚とした笑みをたたえている…


「疲れて理性だけは失くすな。たちまち食われるぞ。野郎、俺たちをなぶり殺す気だ」


「了解」


二人はお互い背中合わせになって髪の触手を切り落とし続けた。


マサー!!光彦の叫びは穴の外には届かなかった。



上空20メートル。



正嗣が住む町を見下ろし、他のスイハンジャー4名がうろたえながら、グリーンとシルバーを探し続ける。


「グリーンからの通信がない!!何処にいるのかも分からない。まさかもうやられたのか!?」


イエローが慌ててブルーの元に戻った。


「いや、あっさりやられるような人ではないよ。グリーンは光彦くんを守るための思念結界を作れると言っていた…まさか、逆の事をされて僕達から隠されてるのでは?」


ブルーが腕組みしながら考えた結論を言った。


「さすが自称参謀ブルーさん…じゃあどうすればいいの?」


ホワイトが尋ねた。


「なにか強烈な力を外から加えて、『逆結界』を破ればいい『夢狩り』よりも強烈な…レッドくん、ポケットの中には?」


「五円玉がひとつ、って歌ってる場合じゃねえべ、な?」


困った時の神頼み!!レッドは五円玉を空に放り投げた。


はらいたまえ、きよめたまえ!



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