電波戦隊スイハンジャー#86

第4章・荒ぶる神、シルバー&ピンクの共闘

大文字不始末記2

13日の早朝、阿蘇熊本空港の駐車場で琢磨を迎えに来たのは、弟の及磨きゅうまであった。


髪は琢磨よりかなり短めで、クルーカットを中途半端に伸ばした感じ。


肌も浅黒く日焼けしていて琢磨を精悍にした印象。


というより琢磨と及磨は、わざと髪型でも変えないと母親でも見分けがつかない似すぎている一卵性双生児なのである。



小学校低学年の頃からお互いすり替わって母親を騙すというタチの悪い悪戯を繰り返してきた為に、先代「戸隠」こと母親の里美は、わざと及磨の髪を短めに刈るようになった。


及磨はネイビーカラーのジムニーの運転席に乗り込んで風が入りやすいように運転席と助手席の窓を全開にした。


「冷房利かすまで時間かかるけんね」助手席に乗った琢磨にほい、とコンビニの小袋を手渡す、中にはお茶のペットボトルとおにぎり2個。えびマヨネーズとおかかが1個ずつ。


相変わらず気が利く弟である。おにぎりの好みも双子なんで好みがかぶるのである。


腹が減るタイミングも一緒。及磨は早速おにぎりにかぶりつき始めた。やっぱりえびマヨから先に食べる。


琢磨もえびマヨおにぎりのパッケージを剥がしてぱくつき始めると、出し抜けに弟が聞いた。


「ねえ、オニのトップに会うたてほんと?」及磨も秘密結社、隠の一員である。


コードネームは「戸隠・補欠」。


なんだか甲子園のベンチで応援している下級生のような名称である。兄の琢磨が「戸隠」のコードネームを継いでしまったのだから仕方がないが…


「会うたし、一緒に仕事しとるよ」


「ふうん、どんな人?伝説のサルタヒコがいたなんて!って哲治さん興奮しとったよ」


コードネーム黒脛巾くろはばきさんから伝わったのか…



初対面で自分を「女房に触った」という嫉妬でボコボコにし、服装はいつもダボシャツかアロハシャツ。


それも牡丹柄だのハイビスカス柄だの尋常じゃないファッションセンス。


しかも、負けると分かっていてシルバーに腕比べを申込み挙句の果てに病院送りにされる体術馬鹿。




役小角とは琢磨にとって、



「一言で言うなら…ただのイカレポンチだ」


はぁー?とおにぎりを3口で平らげてしまった弟がペットボトルのお茶を3口飲んでそれじゃ伝わらない!と不満な顔をした。



こいつは陸自に入ってから食事が早くなったな。と琢磨は思った。高校まではずっと一緒だった双子はその後の人生は対照的って位違う道を選択した。



琢磨は京大、国家公務員Ⅰ種合格、農水省入りと霞が関キャリアコースへ。



及磨は防衛大学に進み陸上自衛隊に入隊した。現在の階級は3等陸尉。



一般企業の課長さんと同じくらいのキャリアだろうか、こないだレンジャー訓練を終えたばかりなので、琢磨より少し痩せている。



「45才の部下がいきなり出来て緊張する」と及磨が笑って電話口で話していたので「サンダース軍曹と思って敬え」とかなーり昔のアメドラを例に用いてアドバイスした事がある。 


尊敬、丁寧、謙譲は世代も考え方も違う他人と接する時に妙な感情が生まれないために精神的障壁を張る、という日本人が生み出した知恵なので。



「風間さんはナイス表現したと思うよ。及ちゃんもその内会うかもしれんが、イカレポンチだ。それより…」



琢磨は弟より丁寧におにぎりを咀嚼してからお茶を一口飲むと「『真性』に会えたぞ。僕達のルーツの真実が分かるかもしれない…」



「僕達のルーツって母ちゃんからの伝承では、天手力男(アメノタヂカラオ)の直系。怪力の神のDNAを持つから子孫の中に、たまーに人間を超えた運動能力を持つ奴がいる。それが集まって日本最古の秘密結社『隠』が生まれた」



「そう、1400年前一人の異能者、役小角が山岳修行と称して同じ力を持った仲間を集めて組織化したのが始まりだ。


修験者、山伏、忍び、地走り…全ての日本史の裏に生きてきた者の『祖』だ。朝廷さえも彼らの存在を黙認した」


史実では小角は伊豆に配流されたが戻って来た。


結局処刑されるには至らなかったのは、結社の戦闘力と組織力が朝廷を凌ぐ程になっていたからである。


「でも所詮僕達は天津神と人間のハーフの子孫。寿命も能力も…天孫降臨の頃の、真性の天津神には敵わない」


兄弟が母から聞かされた伝承の天津神の容貌を、二人同時に復唱した。




その者、髪も目も、しろがねの色に光り輝き


肌に渦の模様の痣が刻まれている。


寿命は数百年、或いは永遠に近い寿命を生きる者もいる。


手刀一振りで岩をも切り裂く膂力りょりょくを持ちて、いかに傷つけても死なず、自力で傷を治す。



「天つ神、真性の高天原族たかまのはらぞく…実在したんだ!僕はこないだ2人にお会いした。いいか2人もだぜ!これから面白くなりそうだよ…」



出た!琢磨兄ちゃんの「腹黒い笑み」。



職場では可愛い好青年を演じていても、片割れの自分にしか見せない「本性」が兄ちゃんにはある。



同じ日に生まれた双子の内、なぜ琢磨が正式の隠の構成員に選ばれたのか。



答えは簡単、結社からのどんなえげつない任務も冷静にこなす腹黒さが琢磨にはあるからだ。



例えば数か月前、ある不正をした官僚の罪を某掲示板に暴いたりとか…あれは兄ちゃんの仕業に違いない!と及磨は思う。


ストレスをストレスとも思わない図太さが自分にはある。

そうじゃなけりゃ自衛隊員は務まらない、と及磨は自負しているが、願わくば自分は定年まで国防男子のままでいたいであります!


と及磨は心の中で「運命の神」に向かって敬礼した。



母ちゃんが「くの一」であるとも知らずに結婚した潜水艦乗りの父ちゃんみたく。父ちゃん今頃、何処の海潜ってんだろなー。


行こか、と及磨は車内の冷房が効いたのを見計らって中古のジムニーを発車させた。


「今日も中岳なかだけは元気だー」と琢磨が呟いた。


車窓の風景の東側には阿蘇中岳が細長い噴煙を晴れた空に吐き出している。


双子の故郷、神話の里いざ高千穂へ里帰り。阿蘇熊本空港から1時間半で実家に着いてしまう。


「知ってるか兄ちゃん、従姉弟の芽衣ちゃんのこと」


「知っとる、こないだおめでたが分かったって。嫁行って一年やろ?良かったやない」


「それが2日前のエコー検査で、双子て分かったて」


「また双子ぉ!?」


琢磨、及磨兄弟の母、里美にも悦美という双子の妹がいて、悦美も結婚して双子の女児を産んだ。その片割れ芽衣は、兄弟より2つ年上でまた双子を身ごもっている!


母、里美の実家、斉藤家の一卵性双生児出生確率、実に98.9%。


高千穂に双子だらけの一族の集いが年一回あるとかないとか、都市伝説がある事は、当の都城兄弟は知らない。






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