電波戦隊スイハンジャー#141
第七章 東京、笑って!きららホワイト
two cube too hate3
「ばかもの!」
と宙に浮かんだままうなだれる戦隊たちを叱咤したのはシルバーではなく、
シルバーの中にいるスサノオだった。
「このヒュードラーなる化物を倒す手立ては、すでにホワイトが教えてくれておるではないか!
お主ら一体、『どこ』で戦っておるのか?考えろ!」
え、あたし?ホワイトがシルバーに振り向いた時、彼女のスーツから氷と雹がこぼれ落ちる…
そうか!
ブルーの脳裏に、天啓が閃いた。
「シルバー、イエロー、あなた達は敵の攻撃を避けつつ、柳が逃げないよう見張ってて下さい。グリーンとレッドは僕に付いて製氷工場に!
ホワイトさん、今回はあなたに活躍してもらいます」
とブルーが他のメンバーに指示を出した直後に残り2人の仲間、ピンクとプリンスが倉庫地下のドアを開けて、こちらに向かって飛んできた。
「ボスの李以下2名は一命取り留めたわ、私の解毒剤が利いた。あとの2人は間に合わなかった…
どこまで命を弄ぶつもりなの!?」
プリンスは怪物の下の小部屋に居る柳を激しい非難と怒りに満ちた目で見据えている。
「それよりオトヒコ、ブルーちゃん、よく考え付いたじゃない。私が教えてあげようと思ってたのに…」
プリンスはシルバーとブルーの肩をぽん、と叩いて自分の両腕で引き寄せた。
そして「…の製法よ」と囁くとブルーとシルバーはそうそう!とでも言いたげにこくこく肯いた。
「この柳って男は自分を天才と自負してるようで、実はモンスターの飼い方も知らないスカポンタンよ。
勘違いも甚だしいっ!はいみんな!ブルーの言う通りに配置!ピンクもブルーちゃんを手伝ったげて」
プリンスが手を叩くと了解!とブルー、グリーン、レッド、ピンクは製氷室に飛んで行った。
あ、あたしが活躍できること…?あたしが教えたこと?
ヒュードラーの尻尾や手足の攻撃を避けながらホワイトは作戦が何が何だか分からず混乱しそうだった。
「ちくしょー!こいつアタマ取れた方が動き早えーぞっ!」
「なんで口もないのに吠えていられるんだ…?」
シルバーとイエローも数センチのところで回避していたが、軽口を叩けるくらいの余裕を取り戻していた。
薄紫色の毒液が、ヒュードラーの首の切断面から規則的に噴出されていく。
「くっそー、戦いながらの成分解析ってめんどい…毒液直接浴びないように!」
このスーツだって限界があるんだから。分隊、早く来い!
とプリンスが頭の中で念じた時
「本隊全員、壁際に寄せてろ、あぶねーぞー」
と相変わらず明るく呑気なレッドの号令が響き渡った。
次の瞬間、白い煙を立てた重さ135キロ、36貫文の氷塊が20個以上は降って来てどすどすどす!とヒュードラーの体を貫いた。
続いて現れた物体は、白い煙を立てた巨大なレンズ?
とホワイトが思ったのも無理は無い。
これはブルーが龍神カヤナルミから授かったエレメント、水を自在に操れる力で
製氷プールの中の、塩化カルシウムが溶け込んだマイナス10度の水「ブライン」を
プールの中丸ごと全部移動させたのだ。
「放出ー!」
ブルーは怪物目がけてブラインをぶちまけた。その量50メートルプール約一杯分。
こんなに巨大な水を操ったのは初めてだ…ブルーはマスクの下で大粒の汗を流して激しく肩を上下させた。
氷塊とブラインをもろに浴びて、ヒュードラーの動きが明らかに鈍くなっている。
「やっぱり液体で出来たバケモノは凍らせるに限るよ。
ホワイトさん、君のスーツの力は氷雪をコントロールできるね?」
「あっ、は、はい!」
そうだった。最初にニニギさんから説明受けたんだった。
「君が出会った時に見せた技、フローズン・ブレイクダンスを思いっきりやってくれ!目標はマイナス30度」
「はいっ!」
「そしてレッド!」
「え、お、おら!?」
おらがブルーに必要とされたの初めてなんでねーか?よっしゃー!
「レッドは風を操る力でこの建物内を減圧させてくれ!さっきオッチーさんが逃げた窓から空気を出すイメージで」
「よーし出来るか分からねえけどとにかくやってみる、
うーやーたあーっ!!!」
ホワイトがブーツの底からスケートエッジを出し、倉庫でうごめくヒュードラーのギリギリまで近づいて思いっきり氷上で舞って見せた。
「フローズン・ブレイクダンス、出力全開~っ!」
倉庫内が急速にマイナス30度まで冷やされて、しかも減圧されて、ヒュードラーの体が干からびていく…
減圧と急速冷凍って…これもしかして?
とグリーンがプリンスにマスクごと顔を向けるとプリンスは両手を組み合わせて嬉しそうに答えた。
「そ、ブヨブヨ毒蛇の、フリーズドライ製法よ」
地下室中にもうもうと白い煙があがり、戦隊たちを手こずらせた怪物の毒の体は干からびて、顆粒状になって崩れ落ちた。
や…やった!?
滑り疲れたホワイトは床の上で尻餅をつき、レッドは喉を傷めてごほっ、と咳をした。
「後は柳を捕らえるだけよ」
戦隊たちは地下室の床に降りて怪物の欠片を踏みしめた。
…?
こんもりした顆粒の山から、うごめく気配があった。
戦隊たちは躊躇なく武器を構えた。
「早く…早く俺を殺してくれ!待ってた…色付きの戦隊たちをずっと」
まず、薊の刺青が彫られた色白の細い腕が出て、続いていかにも臆病そうな半裸の若者がかつての自分の「肉」だった欠片を払いのけて
戦隊たちに泣きながら懇願した。
「俺の名は劉義男…荒川の事件の、実行犯だっ!
柳に怪物になる薬を盛られて仲間2人を殺した…お願いだから殺してくれよう」
戦隊たちは黙って武器を下ろした。なんでだよ?なんでだよおっ?と劉義男という若者は繰り言のように呟いた。
「人間だと分かっては攻撃出来ない」
レッドが言うと若者は戦隊たちに囲まれて、地面にひれ伏しながら、泣いた。
若者をよそにシルバーは分厚い特殊ガラスで出来た小部屋の天井を足でぶち抜いた。
「核シェルター並みの装甲じゃないか。あんたが凍死しなかった訳だ」
と言って10センチ四方の「箱」を抱いた柳の襟元を掴み、仔猫のようにひょいっと持ち上げた。
柳はすでに顔面蒼白で、奥歯をがちがち鳴らしている。
彼の両手から滑り落ちた「箱」を
「キャッチ!」とプリンスがアクリルの密閉容器に受け止めてすぐに蓋をする。
「この箱は高天原族王子の権限のもと、回収させていただくわ」と達成感のこもった声で宣言した。
シルバーに吊るされた柳が缶コーヒーの口を開けるのをブルーは見逃さなかった。
老舗のコーヒーメーカーPCCブラック無糖の缶が真ん中からレーザー銃で撃ち抜かれて中身の黒い液体と共に宙を舞う。
「卑怯者め、自殺は許さん」
「俺も柳も傷つけずにって…ブルー、あんた本当に射撃すげーな」
とブルーをほめつつブルってしまったシルバーであった。
「そろそろ引き上げようぜ」とやっと毒ガスの心配が無くなってから小角が地下室に入って来て、縄で柳と劉の体を縛り上げた。
そして、柳の頬骨が陥没するほど裏拳でぶち殴った。
「おっと手が滑った…お前は痛みを思い知れ!」
と激痛でのたうち回る柳に吐き棄てた。が、若者には優しく諭すように、右手の刺青に手を添えながら言った。
「お前らは似た者同士。怒りと憎しみを他者に向け続ける奴は、結局自分さえも焼き尽して自滅するんだよ。
人間はな、途中で怒りを止めたり、悔い改めて償う選択肢もあるんだ。…過去のお前らにはあったのに。
死ぬことだけがお前らへの罰じゃない。生きて生きて、生きて苦しんでのたうち回れ。それがお前らの罰だ」
小角の言葉を聞きながら、若者は泣きじゃくっていた。
「おっさん…俺、こんなに優しく説教されたこと無かった…あんた、誰なんだ?」
俺か?と忍者姿の男はフードを取って笑って
「全ての人間の業を背負う者だ」
と意味深な自己紹介をして、ヒーロー戦隊と共に消えて行った…
自分の傍では、殴られた痛みで柳が唸り声を上げている。
俺を地獄に突き落とした奴、ざまあみろ、とこの時は思ったが
今まで相手に暴力で復讐してざまあみろ、と自分を癒しつづけたのは、間違いだったんだ。と改めて劉は気づいた。
パトカーだか消防車だけのサイレンが近づいている。
だって結局、こうなっちまったんだから…
後記
ヒーロー戦隊の王道らしく全員の力を合わせよう、と最もバトル考えるのが大変だった回だったのを思い出しました。