電波戦隊スイハンジャー#69

第4章・荒ぶる神、シルバー&ピンクの共闘

秘密結社、オニ4

8月4日正午2時過ぎ。熊本県菊池市七城町にある泰安寺。


昨日は雨だっため畑の土はさほど乾いておらず、広さ六坪の庭の畑の水遣りは楽だった。


本日は薄ぐもりで、蝉の声も大人しめに聞こえる。


今朝もいだ茄子とキュウリ、ゴーヤーが住職正義と正嗣親子だけでは消費しきれず、正嗣が軽自動車で近くの叔母の家ににおすそ分けしに行ったお礼に、米10キロと新鮮なトウモロコシを6本貰って帰り、2本はガスコンロに網乗せて焼いて、残り2本はゆがいて親子で2本ずつ食べた。


食べた後は夕方の勤行までなにもする事がなく、親子は縁側で並んで座っていた。


「暇だなー。泰若、いや、正嗣」


「暇ですねー」


空海さんが我が家に押し掛けてきた時は正直迷惑だ、と思った事もあるが…


空海が京都の「祇園祭り出張」に行ってから二週間、七城家は長閑のどかではあるが、空虚さを感じる。


たった3か月だけの同居なのに、空海の存在は大きかったのだ、と今さら感じる親子であった。


暇ならテレビでも見りゃいいのに、潔癖性ぎみな父親は「ひどいニュースばかりだから嫌」とテレビをあまり見ない。


だからますます、暇を持て余す。


正嗣は「あのCMのあのセリフ」を言いたくてうずうずしていた。親父に叱られるだろうか?


「正嗣よ、アイスカフェオレでも作らないか?」


しまった、先を越された。親父、こんなキャラだったっけ?


正嗣たち戦隊が怪物サキュパスを倒して生還してから、少しづつ父の態度が優しくなった。


法名の泰若でなく正嗣、と本名で呼ばれるのも17で出家して以来である。


仏弟子である前に、自分達は人間の親子だったのだ。お前だけでも生きてほしい。と待っている間、自分は父親のエゴ丸出しだった。と翌日の夜、父が懺悔するように言った。


いいじゃないですか。それが人間の親の、自然の感情じゃないですか。


一緒に聞いていた空海のその言葉で父はけっこう救われたのだという。


やはりあの人は弘法大師だったのだな。


と正嗣は台所でアイスカフェオレを作りながら思った。


お大師、8月になったら帰ると言ってたのに…



「暇だなあー」ぬるい風で縁側の風鈴がちりん、と鳴った。



暇な僧侶親子は置いといて、怨霊の目撃者兼証人兼ポカミス坊主の空海はそれどころではなかった。


公安調査庁の地下の一室にある「秘密結社・オニ」本部。


2日早朝より京都市内で起こっている連続傷害事件の捜査協力として2連続、この部屋での捜査会議に参加していた。


参加メンバーは結社の長、小角。コードネームは「サルタヒコ」。


妹夫婦の前鬼、後鬼。公安調査庁統括調査官の風間蛍雪、コードネーム「風魔」。


農林水産省職員の都城琢磨、コードネーム「戸隠」の5名。


尚、京都府警の情報を流してくれているコードネーム「黒巾脛(くろはばき)」は自身も警察内部の人間のため、あえて参加せず。



事件のあらましはこうである。


8月2日早朝6時、下京区鴨川沿いでジョギングをしていた62歳の男性が、上半身だけ河原に体を投げ出して仰向けに倒れている男性を発見したため通報。


被害者男A、32歳。顔面全体に2度の熱傷。両手両足骨折と脊椎損傷。川に浸かっていた事による低体温症。


あと2、3時間発見が遅れていたら死亡していただろう、と医師の見解。




8月3日夜11時。男B、23歳。山科区の個人住宅の屋根で血だらけで倒れている所を、隣家の住人が3階ベランダから発見。


左顔面骨折に脳挫傷。左手、左脚、左の肋骨4本骨折。確実に高所から転落したと思われる外傷だが…近辺ににビル、マンションは無い。



そして8月4日夜11時45分。つい先程入った情報である。男C、46歳。上京区の公園の隅で、血だらけになってデート中のカップルに発見される。全身に裂傷。出血多量で意識不明。


「で、全員意識不明中で、戻り次第聴取する、ってゆー事だ、が、府警は犯人につながる証拠をまだ入手していないっ、と」


小角は部下全員に渡したコピーの資料を読み上げ、皮肉そうに顔を歪めた。


「府警は、捜査員も多いしサイバー犯罪では結果上げてるけど今回の事件は無理だろな」


「そりゃそうですよ、犯人ったって人間じゃないんだもん。怨霊レベルの霊体なんでしょ?」


ねえ空海さん、と琢磨は可愛い顔に笑みを浮かべて聞いた。が、目は不敵な光を放っている。それは風間も同じこと。


彼らは代々、日本の歴史の裏側に生きてきたオニたち。現代に生きる忍びである。


「そうだ。わしが戦った時は、超能力を持った霊体であった。が、死者ではない。


あれは幽体離脱した魂であろう。どこかに肉体を持っている。問題なんは霊体で泰範を倒すレベルの力持ってる事や。敵は、力を増している」


「やってる事のレベルがえげつない。Aに対しては完全なリンチ。


Bに対してはわざと高所から落として別の場所にテレポート移動させたのだろう。


Cは鋸状のナイフでなで斬り…おいおい、マフィアの制裁か?


発見したカップルの情報によるとおっさんが急に木の下に転がり出た感じだったと言う。これもテレポートか?」


目的は殺害ではなくて、長時間苦しめる事だ。と風間は思った。


前鬼は眉ひとつ動かさずに犯行の分析をする。


「傷つけ方も場所も違うんだが、3人にはリンチされても当然の理由がある。性犯罪者だ。通り魔、婦女暴行…


全員ムショ帰りだ。Cは幼女を殺害して懲役20年で出所?反吐が出る。だから苦しめ方が過激なんだな」


「被害女性とそのご家族は多少の溜飲は下がっただろうか?…犯人も甘いよ。一生自慰行為できない体にすればいいのに」


おいおい後鬼、と小角は怒気に満ち満ちた妹をなだめる。


「同じ女性のお前の怒る気持ちは分かるけどさ、これは加重暴行通り越してるんだぜ」


「犯人の残虐性が増してきている。今度は殺人しかねないぞ」


風間が言うと全員、しんとした。


「たぶん犯人は肉体に戻って犯行繰り返してるんや。京都市内中心で犯行しとるっちゅーことは多分肉体は京都にある。風間はん、あんた海外の秘密組織の情報に詳しいけど、特に超能力者を保護しとる機関に心当たりないか?」


やれやれ、本来の「仕事」の情報だすか。風間は、書きつける事を許されない情報を報告した。


「確かに海外には真性の超能力者を政府が使っている国もあるが、彼らは重要機密だから政府は海外には出さない。国に保護されているが、幽閉されている」


それに、と風間は眼鏡を拭きながら言った。


「こんなに強力な超能力はおれも初めてだ。地球最強レベルと言っていいよ…相手が人間だったら、ってことでプロファイリングするけど、犯人は女性、20~30代、サディスティックな傾向がある。性犯罪の被害者か、目撃者かもしれない」


風間さん、と琢磨が話に割って入った。


「空海さんが見たのは男性の霊体ですよ。見かけに惑わされてはよくない。


もしかしたら『プラトンの嘆き』の協力者に憑依しているのかもしれない。本体京都説を捨てて」


「なるほど、女性の犯行に見せてる、ってことか。目的は復讐じゃなくて…」


辻斬り、と琢磨が言った。


「相手が自分にとってクズなら誰でもいいんだ。


江戸の昔、戦もない平和な時代に旗本や大名のバカ殿が真打ちの銘刀を買った。


使いたい、切れ味を確かめたい…

だから、闇夜にまぎれて身分が下の一般人を斬る。そんな感覚じゃないんですか?」


なるほど、と小角はうなずいた。若い奴は視点が違うな。


「確かに下京区、上京区、山科区、と警察署の管轄がバラバラなところ、手口をわざと変えているのは、犯人複数説にするフェイクかもしれないが、ただ色んな攻撃が出来る事を試したいってか?」


犯人の対象練り直しかよ、と風間がぼやいた。


「いや、犯人は若くて健康な肉体の提供を得て、警察が解決できないこと分かっててやってるんだ。警察を越えた組織。つまり僕達、『隠』と、戦隊への挑戦状ですよ!犯行はますますエスカレートします。


次の辻斬りも、やはり性犯罪の前科者です」


京都じゅうのヘンタイ洗うのかよ…


黒巾脛のうんざりした声が聞こえそうだ、と風間は思った。


「今夜は解散、俺も真魚の言う通り憑依体は京都にいる説を推すな」と小角は言った。


「だって、1日に一人しかリンチ出来ないんだぜ。スタミナがないから近くで休むんだよ」

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