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朋輩5・彼岸警察24時、訓辞編

小学3年生の翔太くんは家族がやっているのを真似て随分と苔むした墓石に向かって手を合わせ、

お父さんもお母さんも初もうでの時より長くお願いしてるなあ…


としびれを切らして両親の横顔をちらちら見上げるのであった。

やがてお願いが終わると叔父さん夫婦といとこのあかりお姉ちゃんと一緒にうな重を食べるのが翔太くんのお盆の楽しみ。


肝吸いの具をつるりと平らげて翔太くんは思い切って、

「ねえねえ、うちのお墓はよそのお墓と比べて随分古いけど、何時代からなの?」

とお父さんに尋ねてみた。


お父さんはうーんと首をひねってから

「寛政、と墓石にあったからおよそ二百年以上前だな。翔太、うちの御先祖様は旗本と呼ばれるお侍だったんだよ」


えーっ!と翔太くんは

「テレビの時代劇でばっさばっさ人斬り殺しているちょんまげがご先祖様ぁ!?」

と鰻の身をほぐす箸を止めた。


違うの、そうじゃないのよ。とお母さんが苦笑して

「うちの御先祖様はね、同心っていう警察官のお仕事をしていたの。
上司の長谷川さんが亡くなった後は人足寄場に勤めていたんですって」


ニンソクヨセバ?

ときょとんとする翔太くんに叔父さんが

「元犯罪者や生活困窮者などに職業訓練をして社会復帰の手助けをする更生プログラムだな。

翔太、御先祖様は生活に困っている人を助けた偉い人だったんだぞ」


ふーん、そうなんだ。夏休みの自由研究はニンソクヨセバ(人足寄場)にしよっと!


とにかっ、と笑う小田島翔太を

あっぱれ高邁なこころざしよ…

と両目をうるませてタブレット越しに見つめている若い同心は翔太の十代前の先祖、小田島勘解由(おだじまかげゆ)。


「我が小田島家から150年ぶりに警察官が誕生するか?楽しみだのう…」


てやんでえ、ばーろー!

と隣で語気を荒げるアロハシャツの男は勘解由の朋輩(相棒)、今川康次郎である。


「じいちゃん俺が刑事になったこと、まさか怒ってやしないだろうなあ…」


とガラケーの画面の向こうで康次郎自身の墓参りをしている孫の睦(むつみ)に向かって、

「刑事なんてろくな仕事じゃねえのに…給料安いわ休みがねえわ、お中元受け取り禁止だわカミさんと旅行に行く暇もねえんだぜっ!」

と叱り飛ばす康次郎に勘解由は、


「これこれ、そなたのお叱りは睦どのには聞こえてないぞよ」


と康二郎のシャツの袖を引いて携帯をしまうよう促した。


8月13日14時、通称冥界警察。

と呼ばれる閻魔庁警察部を統括する警察部長、

遠山金四郎左衛門丞景元(とおやまきんしろうさえもんのじょうかげもと)による特別訓示が始まる。


「えー、今年もまたこの季節がやって来やがった…」


と紋付き羽織姿の金四郎がマイクを手に持ってしかめ面をする。


「地獄の釜の蓋が開き、現世に未練を残した通称マル先こと先祖霊の現世の子孫への介入、

その他ラップ現象などの騒乱、

映像映り込み犯罪、

廃墟での憑依行為という悪質犯罪を我々閻魔帳は総出で取り締まらねばならぬっ、者ども、用意はいいかい!?」


とばっ!と袖を脱いで金四郎部長自慢の桜吹雪の刺青が現れたところで訓示を聞いている捜査員の士気が上がるのだ。


「刺股(さすまた)、用意!」


えいえい、おー!!!


「へっへっへ、おいら自ら現場に向かうぜ」


金四郎部長は着ていた裃を脱ぎ捨て、着流しの遊び人スタイルになると裾をからげてとっとと会場から消えた。


「…のう、康どの」

と現世用のかつらを被り浴衣を着てベンチに腰掛ける勘解由が屋台の氷いちごをかっこんで頭痛を起こす康次郎にそれ見た事か、な視線を送った。


「何だい、勘解(かげ)さん」


「あの盆踊りの28人の輪の中に『生きている者のフリをする幽霊』が3体おるが職務質問しなくていいのかのう?」


朋輩として組んで四か月。

生前は同心と昭和の刑事という珍妙な取り合わせの幽霊刑事は互いを康どの、勘解さん。と呼び合うまで打ち解けてきた。


「ただ踊ってるだけじゃねえかい、よせやい、野暮なことは」


ま、それもそうであるな。


と勘解由は焼きイカをかじり、踊りの後に子孫の家で飲み食いするだけが目的の通称「お祭り幽霊」を問題なし。と判断した。


その横で康次郎は警官の制服姿の孫、睦が迷子の男の子を「大丈夫だからね」と励ますのを草葉の陰から見守っていた。


頑張れよ、睦。


と思ったのも束の間、

「至急、至急、悪質幽霊が子孫に介入。現場の応援お願いしまーす」

と無線が入った。


「行くぞよ、康さん!」

「ああ、勘解さん!」

浴衣姿とアロハシャツ姿の朋輩が早速十手を取り出して現場に向かって走り出す。


彼岸警察の夜はこれから─


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