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電波戦隊スイハンジャー#184 血戦
第9章 魔性、イエロー琢磨のツインソウル
血戦
同時に黄色と緑色の閃光が強く瞬き、それが消えたかと思うと燃える不死鳥の刺繍を施した黄色の戦士と全身に草木の刺繍を施した緑色の戦士が福明の前に現れた。
「そうか…君たちも『選別』されてここまで来たんだね」
紅い瞳を輝かせて福明は何故か嬉しそうに笑うと背後のコートハンガーに掛けてあった白いローブを纏う。
そのローブは秘密結社「プラトンの嘆き」の幹部にだけ許される制服で、縁に刺繍されたラテン語、
nemo sine periculo vincere potest.
(誰も危険なしには勝つ事はできない)
のvincere の部分を胸をときめかせてなぞってから、己が観音族としての力を全解放する。
たちまち福明の髪が床まで伸び、白と黒のストライプの長髪をなびかせ、大蛇のように部屋中に広がる。顔には白い体毛がびっしりと生え、ヒノヒカリイエロー琢磨と七城米グリーンに向かってまるでおいで、とでも云うように両腕を広げた。
「まるで防御をしようとしない…どういう気でいるんだ?」
すでに武器の胴田貫正国・改を握りしめたイエローが倶利伽羅を正眼に構えたグリーンを見遣るとグリーンは素早くゴーグルの下で観音族形態の蔡福明のリーディング(情報収集)を行い、敵の特性を知ってまさか…!とたじろいだ。
「気を付けて下さい、私たちは奴の髪の毛のアンテナを使って情報をリーディングされています!」
「なに!?」
「君たちの今までの戦歴は既に僕の脳にインプットされているよ。攻撃タイプのイエローと心優しい分析タイプのグリーン」
獣のように長く伸びた爪で福明は自分のこめかみをつついた。
蔡玄淵の娘で観音族の紫芳と戦隊のピンク、紺野蓮太郎との接触は全くの偶然だった。チャリティイベントの握手で紫芳は蓮太郎が自分達組織の「敵」だと読み取り、数時間後彼が油断している隙に大田神社で彼を襲ったのは…
慌ててピンクバタフライに変身した彼から「他の仲間」の情報を読み取るためのいわば斥候だったのだ。
「緑色の君は僕の髪の毛の攻撃を刀でさばき、その隙に黄色い君はその日本刀で僕の心臓を貫きに来る!ずばりそうだろう?」
蔡福明が20代の若さでアジアNo.1のネット長者になりおおせた訳は…
「世界は一冊の本」
とマスコミの前でうそぶいた彼の強力なテレパシー能力で世界の有名人の心や次の行動、投資家たちの次の一手を予測し、確実に勝てる方に投資した結果巨万の富を築き上げたのだ。
くうっ、自分達の作戦を読まれているだなんて…
グリーンとイエローは身じろぎ一つ出来ず、福明の髪の毛は既にみっしりと部家の壁四方を包んでいる。
「先制出来ないならこっちから行かせてもらうよ」
途端に脳天を貫くような電撃が戦隊を襲い、悲鳴を上げてグリーンとイエローはたちまちのけ反った。
続けて二、三回の電撃でも二人は奥歯を噛みしめ、意識を失わないようにするのが精一杯だった。
「ふうむ、二十万ボルトの電撃でも焦げないだなんてそのスーツの構造は『読めない』ね」
そこで初めて福明は戦隊のバトルスーツに「興味」を持った。僕の能力でも分析出来ないものがあるなんて…それは地球外の物質か?
その興味が福明に一瞬の隙を生み、
心を読まれているなら…ひたすら心を無にする事なり。
と以前空海から受けたアドバイス通りにグリーンとイエローは無心になり、本能だけで動く状態となったグリーンが福明の髪を足掛かりに大きく後方回転して倶利伽羅の刀身を反り頂部から伸びた髪を切断した。
隙あり!とイエローが刀の先で福明の心臓を狙う、
が…そこから先の動作が出来ない。
急に心臓に締め上げられるような痛みが走り、ぐ、がっ…と叫び声を上げながらイエローが胸を押さえてうずくまる。
「どうしたんだ!?イエロー!!」
慌ててイエローに走り寄るグリーンの右腕に一瞬風が起こり、感覚を失った。
見ると、肘から下がすっぱりと切断されている。斬られた右手は倶利伽羅を握ったまま福明の頭上の壁に刀の先を突き立てられている。
…真空波!
一瞬にして斬られたために痛みは感じなかった、が、夥しい出血で気が遠くなりそうだ。
マスクの下でグリーン正嗣は唇を噛み切り、痛みで己を正気付けた。
足元には胸を押さえて苦しむイエロー琢磨。
「貴様…琢磨に何を仕込んだ?」
ふふふ、と福明は切られた前髪を再び再生させ、
「プラトンの嘆きの信者は世界中に10万人もいるんだよ。中には農水省広報である彼に容易に近付いて一服盛れる要員もいる」
チキン南蛮…と切れ切れに琢磨は呟いた。
料理研究家のたらば未知。琢磨に手作りのチキン南蛮を食わせた彼女もプラトンの嘆きの信者だったのか!
「その寄生虫は心筋に取りついてねえ、マスターとその一族である観音族には絶対攻撃できないように宿主を操る。
さあ都城琢磨、僕に従え」
と苦しむイエロー琢磨にまるで舐めろ、とでも言うかのように革靴の足先を突き付ける。
「…管理された人畜…になる位なら、死んだほうがましだ」
刀を杖代わりにしてうずくまったまま琢磨は、戦隊ヒーローとしての、いや、人間としての誇りを喘ぎながら宣言した。
「そうだ、いくら力や財力があろうと…お前ら邪な奴らがどこをどう実効支配しようと、必ず内側から食い破ってみせる。それが…人間というものです」
スーツが破れた瞬間の圧縮機能で辛うじて右腕の止血はしたが出血し過ぎたグリーン正嗣も、
不当な力の前には抗い続ける。それが人間。というどう歴史が移り変わってもこれだけは変わらない人間の真実を口にした。
「じゃあ、なぶり殺しにするしかないね」
福明の目がすうっと細くなり、髪の毛の先を鋸状にしてバトルスーツの上からイエローとグリーンを撫で切りにし始めた。
少しずつ皮膚を切り裂かれる苦痛に耐える二人は絶体絶命だがゴーグルの下で…
よし、15分経過!
と見つめあい、それを合図に琢磨は地に突き立てた刀の先を迷わず自分の心の臓に突き立てた。
愚かな…サムライ精神なんて所詮滅びの美学に取り憑かれた負け犬の発想ではないか!
勝った!観音族の中でもっとも力の弱い僕がやっと実戦で勝ちをもぎ取った!
大叔父様!日頃僕をバカにしていた紫芳!僕はやったよ!
自分が作った結界の中で福明は勝ちを宣言して高らかに笑った…
後記
文字通り血みどろの戦い。