電波戦隊スイハンジャー#57

第4章・荒ぶる神、シルバー&ピンクの共闘

豊穣の女神3

古来より、神は人の営みに、隔世かくりよの者が常世にが関わってはならぬ、という決まり事がございます。

その上でみなみな様をこの店にお連れした無礼をお許しくださいませ。

お料理と飲み物が来る前に少しお話ししましょうか。

私の名は先程申し上げたようにウカノミタマ。

父は高天原から追放されてこの地上に降り、八岐大蛇を倒した素戔嗚すさのおそう、あの天照の弟です。

母は山神の娘、神大市比売かむおおいちひめでございます。歳は三千と五百近くになります。

ほほ、とっくに幽霊ですわよ。そこにいる不老不死の化け物夫婦とは違うわ。

あらごめんねウズメ。無二の親友に化け物呼ばわりはいけないわよね。

紹介が遅れたわ。この銀髪銀目の異形の女は、アメノウズメノミコト。

常世では芸能の神ですってね。鈿女とか宇受売とか漢字で呼ばれてるけど、

本名は渦の女と書いて「渦女(うずめ)」よ。

元々天照の侍女で、天孫降臨の折は天孫ニニギのお付きだったわね。

私より、うーんと年上よ。自分の親も、実年齢も分からない程悠久の時を生きている。

ウズメの夫なら猿田彦じゃないんですか、って?

そうね、グリーン正嗣さん。ウズメの隣の男の正体は、本当は国つ神の猿田彦大神なのよ。天狗のモデルはこの男よ。

葛城山の役小角じゃないのかって?

猿田彦の化身が小角なのか、小角が猿田彦を騙ったのか。

そりゃあ後者よ。この男はねえ、大胆にも古事記を改竄して独自に猿田彦信仰を広めた。

文字通り「大天狗」なのよ。

え、神様じゃないの?ですって。ホワイトきららちゃん。それは常世の神職によっても見解が違うみたいね。

私たち天津神、国津神は元々、すこーし長生きで、特殊な力を持っただけの、生きた人間でしたのよ。

私の事は、人間たちに祭り上げられた御霊みたまと思し召し下さい。

私の役割は元々、五穀豊穣を司る農耕神でした。私の生前からの能力「穀物を活性化する力」が神格化されたのでしょうね。

なんと(710年)素敵な平城京でしたっけ?

その頃に豪族のはた氏がここに社を建ててくれて稲荷信仰が流行り出したのよねー。

まあ立派なお家作ってくれたからー、私もこの稲荷山に引っ越してあげたわよ。

ペットにしていた九尾の妖狐、葛葉ちゃんも連れてね。

いまじゃあ全国に3万以上も稲荷社があるんですってね。

ここ、総本山なんですってね。すごいわね。

「いなり」って、「祈り」とも「意成り」とも呼べるから、ダジャレ好きの日本人が物事の成就と結び付けたのよね。

平安時代にね、顔はいいけど中身は野心家のクソ坊主、空海が来てね、神仏宿合ってやつ?

産土神信仰と仏教と結び付けていいか?ってお伺いを立てに来たのよ。

私の答え?好きにしたらいいじゃない、と言ってやったわ。

それで人々が救われるならね。

腹が立つのは、私の像を仙人みたいな老人にしやがった事ねー。今度会ったら文句言ってやるから。

そして産業神、商売繁盛、受験祈願、恋愛成就…

今じゃ稲荷信仰は「お願い百貨店」でござい。

くく、と皮肉めいた笑みを、ウカノミタマは浮かべた。

「だから私は、稲荷信仰が苦手なんです」と正嗣が言った。

「正嗣ちゃんは、お坊さんだったわね、でも神職みたいに気が清しいわ。珍しい人間」

「神様に言われて光栄ですが、失礼を承知で言います。

何処の稲荷社とは言いませんが、そこはもう、人間の『欲』で気が凝っておりました。

社自体が自浄作用を失っているのです。

けばけばしい赤鳥居に、キャラクターとタイアップしたお守り、すでにお金目当て、お金を回すために社があるのか?と気分が悪くなった事があります」

「そうね、お願いに来る人間は多いけれど、事が成って、『ありがとうございました』ってお礼に来る人間はあまりいないわね。社だけでなく、聖地と呼ばれる場所も、自浄作用が弱まってきている…」

「よく『パワーをもらいに行く』ってテレビタレントや観光客が言ってるだろ。

あれ、奪いに行ってるんじゃねーか?無意識に。

俄かなブームだけで、本当の信仰や敬いは蘇るもんじゃねーだろ?屋久杉のじいさんがキレる筈だ」

聡介の発言にウカノミタマは、わが意を得たり、と深く肯いた。

「聡介ちゃんは小さい頃から物事の本質が見える子だったわね。鉄太郎おじいちゃんそっくり」

「やっぱりじいちゃんを知ってるのか」

「何度もこの社に来たわよ。顔はそっくりだけど、性格は孫のほうは屈折してるわねー…」

顔はいいのに勿体ない、とウカノミタマは白い手でつるり、と聡介の頬を撫でた。

それは母が子供にするような自然な仕草だったが、聡介は瞬間、身を強張らせた。

襖が開いて、仲居らしき中年女性が3人、それぞれに湯気の立った鍋を運んできた。

「えー、今夜のメニューは、近江牛のすき焼きで御座います。みんなで鍋をつついて仲良くするのよー」

みんなが注文したメニューを完ムシかよー!と全員が思った。

やっぱり、戦闘中に「トリセツ見ながらバズーカ砲の説明」をした位だから見た目は美しいが中身は結構残念な人かもしれない。

こんなんがプロデューサー女神でいいのか?と悟は心配になってきた。

「とにかく肉なのにゃー!」とちび女神ひこがむせび泣いた。

「特にブルー悟ちゃんとシルバー聡介ちゃんは、仲直りしなさい。
初対面からお互い気に入らない、って思ったでしょ?

所詮同族嫌悪なんだから、どこかですごく気が合う筈よ」

同族?

「俺とこんなヘタレが?」

「僕とこんな粗暴男が?」

けっ!

ふんっ!

聡介と悟は、互いに顔を見合わせて、ぷいっ!と勢いよく逸らした。

「はいはい食べなさい。あんたたちをヒーローに仕立てた理由を話すから。お代は大丈夫、私は食べ物の神なんだからね!」

ウカノミタマは軽く握った拳でどん!と自分の胸を叩いた。

なんか、肝っ玉母さんみたいで頼もしい。

全ての元凶というか、ヒーロー戦隊スイハンジャーは、この女神の思いつきから始まったのだ。

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