電波戦隊スイハンジャー#126

第七章 東京、笑って!きららホワイト

オニの末裔たち3

位置的には部屋の奥の、エアコンの真下で突っ立っている戦隊たちのすぐ前の机に小角は背を向けて座っている。

戦隊とはいっても今時を生きる平成の若者たちは

黒装束集団が突然現れたというイリュージョンを見せつけられて呆然としている。一名以外は。

「種も仕掛けもねえよ。みんながきららちゃんに注目している一瞬の隙に扉から入って来ただけだ」

野上聡介だけが扉を開けて入って来た「風と気配」を背後で感じていた

それにしてもなんて運動能力なんだ!


「流石だな、そこの灰色の髪の。お前があの高天原族なのか?」

と小角に一番近い席の黒装束が口を開いた。声の感じから中年の男性のようである。

あいつか!ほう…あいつが…というひそひそ話が黒装束の間で交わされる。

黒いフードの下で自分がぎん!と睨まれているのを聡介は感じた。

それは敵意ではなく是非手合わせをしたい、という純粋な好奇心の視線。

昨夜の双子と同じだ。にっこり笑って人を斬る、そういう類の奴らだ。

(聡ちゃんこいつらマジで怖い…)

耳元で蓮太郎が囁いた。

(解るか?)

蓮太郎は合気道歴二十年。腕に覚えのある者の「勘」が働いているのか、端正な顔が最大限の警戒で引きつっている。


小角が空咳をすると黒装束たちはひた、とお喋りをやめた。小角が抑えた声で話し始める。


「えー皆さん、今夜は正体不明の怪物たちと戦ってくれている戦隊諸君と、
日本古来より隠密活動を中心に社会を陰で支えている秘密結社、オニ五家の頭領初顔合わせです。

まずは五家のメンバー、フードを取って自己紹介を」

扉に一番近い席、つまり「下座」の黒装束がフードを下ろすと都城琢磨の可愛い笑顔がそこにあった。

「コードネーム『戸隠』、みなさん御馴染みの都城琢磨、25才です」

琢磨!と隆文が安心してに名前を呼び「こっちに帰って来いよ~…」と手招きした。

「すいません、僕をイエローにしちゃったのもオッチーさんなんで…今夜は忍者という事で勘弁して下さい」

琢磨の困り笑いはどうやら心からのものらしい。戦隊たちは少しほっとした。

「もういいか?」琢磨の隣で苛立ったようにフードを取ったのは、なんとロングヘアの女性であった。

やや浅黒い肌。切れ込みの深い二重瞼の大きな目が特徴的である。

「コードネーム百地ももち百目桃香ひゃくめももこ。31才」

とぶっきらぼうに答えて、すぐに黙った。

次に琢磨の向かいの席の男がフードを取った。色白に眼鏡の、茫洋とした顔立ちの男であった。唇だけが薄く笑っている。

「コードネーム風魔、風間蛍雪35才。公安で働いている」

この男に覚えのある読者もいるだろうか。風間蛍雪は過去2回琢磨に情報提供する役割で登場している。

おい!と風間の隣の机の黒装束が車輪の付いた椅子ごと寄って風間の肩を小突いた。

「公安の人間が自分を公安ですって言っちゃ駄目だろーがよ」

「いいじゃないですか。ここで起こった事は『すべて極秘になる』んです。ほら顔出しして下さいよ」

風間に促されてフードを取った男は

「…コードネーム黒脛巾くろはばき帚木哲治ははきぎてつじ41才」とだけ言って真一文字に口を閉ざした。

帚木は一見、眠たげな一重瞼をした優男なのだが、紋切型の口調と言い、戦隊たちを見る目の冷たさといい…

ミスター冷徹。

という呼称しか浮かばない。官僚によくいそうなタイプだな、と悟は思った。

「はい、ラスト」と小角がぽん、と手を打つと最後の一人がフードを下ろしいかにも豪放磊落そうな感じの、半白髪のおっさんが現れた。

「コードネーム軒猿。荻生耕造おぎゅうこうぞう52才。若人よ、金以外のことなら相談に乗ろう」

戦隊たちを見て荻生のおっさんは好意的に笑った、ように隆文には見えた。

おら達の親世代でも忍者って務まるもんなんだなーと隆文は妙な所で感心した。


「はい、次は戦隊たち自己しょうかーい」

うっ、忍びたちがカッコいい二つ名でキメた後におら達は、おら達は…

隆文は今更恥ずかしそうに「こ、コシヒカリレッド魚沼隆文」

悟は誇らしげに「ササニシキイエロー勝沼悟だよ」

琢磨は二度目の紹介でだるそうに「はい、掛け持ちのヒノヒカリイエロー都城琢磨です」と挙手した。

正嗣はもう悟りの境地で「七城米グリーン七城正嗣です」

きららは愉しげに「きららホワイト小岩井きららで~す」

「成程…日本各地のブランド米を呼称している訳か。で、残りの二人は?」

と一番年上でどうやら忍びのリーダー格らしい荻生が聡介と蓮太郎に紹介を促した。

聡介はあきらめ気味に「シルバーエンゼル野上聡介…」

蓮太郎は嫌々と「くっ…ピンクバタフライ紺野蓮太郎」

と名乗った。

忍びの内二人から失笑が漏れた。

「シルバーエンゼル…お前を五回倒したら伝説の食玩『おもちゃの缶詰』がもらえるのか?」

と聡介をイジったのは百目桃香であり

「ピンクバタフライとは実にいかがわしい名称だ。紺野家のせがれは日舞喬橘流の看板に泥を塗る気か?」

と一刀両断したのは帚木哲治であった。

実家の事を言われて逆上した蓮太郎は「アンタ許さないわよっ!!」と帚木を指さしてすぐにはっとした。

こいつはアタシの素性を知っている!

「そうだよ蓮太郎、この五人はお前ら戦隊を『データの上』では全て知ってる。ま、俺が教えたんだけどさ」

再びフードを被った忍び達は口元でにやにや笑っている。

「…なんか、じんわりとやな人達ですね」眼鏡をずり上げる悟の口調には珍しく怒気がこもっていた。

「まあそんな事言わないでくれよ。お前らバトル担当、こいつら諜報担当でこれから連携してもらうんだからさ~」

くるりと椅子ごとこっちに向き直った小角がやる気の無い感漂う戦隊たちに手を合わせて哀願した。

「最初は琢磨と、比較的人当たりのいい風間を通して情報渡すからさ。徐々に慣れてくれ、頼む!」

風間が忍び装束の懐から携帯電話を取り出して時間を確認した。

「小角さん、そろそろ巡回です」という風間の言葉を合図に、忍び達は一斉に立ち上がった。

「じゃあ今夜はこれで解散!各自おのれの才覚でここを脱出して下さい」

と小角が奥の壁に手を掛けるとぱさっ、と白い壁紙が剥がれて縦1.5メートル、横2メートル程の窓が現れた。

ここは地階じゃなかったのか!?

と驚いている間に忍び達は次々に開けた窓から飛び降りて夜の闇に紛れていく…

「じゃあ皆さんまた」と琢磨もにっこり笑って躊躇いなく窓から空中に飛び降りた。

「あと3分50秒で守衛がここに見回りに来る。お前らもテレポートしてこっからずらかれ」

アンパンマーン!と愉快そうな掛け声を残して小角も10階ぐらいの高さの窓から両手を広げて宙に舞った。

「うへぇ、ヒモなしバンジーだべ…」

忍び達が出て行った窓を閉め、隆文が皆に向かって「おら達も出よう」と言うと他の若者たちは頷いて瞬間移動で室内から消えた。

これが、ヒーロー戦隊スイハンジャーと、秘密結社隠との因縁めいた初会であった。

後記
オッチーさんも持て余していそうなキャラの濃い忍者たち登場回です。

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