電波戦隊スイハンジャー#181 観光戦隊スイハンジャー1
第9章 魔性、イエロー琢磨のツインソウル
観光戦隊スイハンジャー1
おっす、おら戦隊のレッドで「いちおう」主人公の魚沼隆文。
いちおう、の理由?この物語は章ごとで主人公がころころ変わる面倒くせぇ小説なんだべ。
今までの流れで行くと、
レッド、ブルー、グリーン、シルバー&ピンク、シルバー、ホワイト、
中1のガキ。
と来て今の章はイエローという事になっているが…
いま安宿バー「グラン・クリュ」のカウンターの上には戦隊メンバー7人全員のパスポートが並んでいる。
これはつまり、依頼人ワンフェイさんの甥で結社、プラトンの嘆きに誘拐されているハオラン君救出のための海外遠征フラグだべな。費用は全額お金持ちの勝沼さんが出してくれる。
しかーし、問題なのはその布陣だべ。
シンガポール遠征組
レッド魚沼隆文、ホワイト小岩井きらら、ピンク紺野蓮太郎with女優、四宮蓮花。
…蓮花さんは梨園のお嬢様から任侠ものの姐さん役で映画デビューし、名を馳せた女優で今でもお母さん役で活躍する銀幕&テレビ界には欠かせない存在だべ。
読者さんのご想像通り蓮太郎さんのお母さんだべ。
「お母ちゃまが人質救出メンバーってこれは戦闘力以前の問題なんだけど」
と顔引きつらせた蓮太郎はカウンターの隣で喉に優しいはちみつ梅酒のお湯割りを着物のたもとを押さえる優美な仕草で飲む母親の端麗な横顔に目を遣る。
「何や蓮太、あんた戦闘服壊してしもうて賀茂社近辺で女子校生担いで走り回った派手な桃色蝶々仮面事件を知らないとでも思うてんの?」
とドスの利いた声で蓮花がぼそっと言った。
「桃色蝶々?え~変身中は映像に映らないんだけど」
たん!とわざと高い音を立てて大女優お母さんが乱暴にグラスを置くと上半身をひねって息子のセーターの衿を掴んでぐいっ、と引き寄せて泡を食った顔をした息子に怒りの丈をぶつける。
「賀茂さん近辺で大勢の観光客の肉眼に見られてんのや、このだアホ!
実家のご贔屓筋はんたまたま現場にいてはってなあ、桃色仮面に担がれてた子が蓬莱に似てるとわざわざ報告してくれはったんやで。
戦いから逃げた上に大事な姪まで巻き込んだアホ息子の尻ぬぐいにお母ちゃまが付いてって何が悪いん?」
会話の中で桃色蝶々仮面から桃色仮面へと名称が変わり、ピンクバタフライの変態性がどんどん増してゆく。
「蓬莱は3日でショックから立ち直って学校行ってるし、お母ちゃまはたまたま仕事オフなだけじゃないの」
と蓮太郎が不貞腐れて抗弁する。
「ほぉ~31にもなって親に口答えか…」
と蓮花の目がすうっと細くなった。
これはあれだ。
映画「西国莫連女」の名台詞、
去ねい、
殺てもたれやあ。
と手下に命じてドスを構える時の目付きだ。
やばい、このままじゃ親子喧嘩になりそうだ。と二人の間に熱燗を差し入れた勝沼悟が、
「まあ蓮花さんはあくまでカモフラージュで表向き芸能人親子のシンガポール旅行という事で楽しんでもらいます」と割って入った。
「おら達はその友人ってことか?」「え~、マスコミに狙われてあたしが彼女、と雑誌に載ったりするのはやだあ」
と隆文と何か勘違いしたきららがそれは人質奪還作戦の邪魔になりはしないか?
と心配するとまさにその通り、と悟が二人の目の前でひとさし指を立てた。
「海外でも名の知れた紺野家の俳優親子はどうしたって目立つし必ずカメラを向けられる。ファンに握手を求められる。
敵組織の誰かさんも迂闊に空港内で襲おうなんて思わない。
そこで隆文くんときららさんは追手を撒いてこのメモに書かれてある場所まで行ってハオラン君を救出して欲しい」
とカウンターの上に地図付きのメモを広げて考える前に行動してしまうタイプの隆文ときららに示してみせる。
「暗記するように。というよりおらが強制暗記させるからだいじょーぶだべ」
と小人の松五郎がしゅたっ、とメモの上に飛び降りて相変わらずのほほんんとしたゆるキャラな顔で笑った。
「二人だけで動けるのかって?タカっぺの胸のポッケにおらが入ってるから現地に付いたら全ておらが誘導するからだいじょーぶ」
そして週末中国出張組は七城正嗣と都城琢磨の公務員コンビ。蔡福明が運営するバイオマスエネルギー農場に視察する予定だ。
「この農場は中国でも人気の観光地なんだけど、運営状況がどうも胡散臭い。
農場スタッフとして雇われた地方の若者が何十人も…一か月以内に『消えて』いるんだ。
福明に案内してもらいながら七城先生は農場の実態を探り、琢磨君は先生をボディーガードする。福明の観音族としての力は未知数。一番危険な役目かもしれない」
そしてこの店で留守居役。勝沼悟と野上聡介。
「なんで戦闘力最強の野上先生が動かないの!?」
「唯一観音族に勝ってる野上先生、上海ガニおごるから来てください…」
ときららと正嗣に両腕を引っ張られて左右に揺すぶられる聡介は、
おおっとこれは生まれて初めてのモテ期かな?へへっ。だけど29の男とまだハタチの学生では恋愛対象でもないし嬉しくもクソもない。
「正嗣、きららよ…山は、動かぬ」
と憮然とした顔で聡介はぼそっと呟いた。
「はぁ~?何ですかそのセリフ」
黒沢映画の「影武者」の名台詞を知らんとはこの平成生まれのガキめ。
「黒沢明監督『影武者』でニセ武田信玄が言う名台詞をここで軽く使うなってんだ!」
しまった。ギリ昭和生まれの正嗣影武者見てたか。
「何よっ、そんなギリ昭和生まれのおっさんが見る全体的に色調が暗い映画見るかってんだ」
ぐいっ。
「戦隊結成して初めて敵のエリアに飛び込むんですよっ。死者が出てもいいんですか?」
ぐいっ。
ああうるせえ。聡介はばっ!と両腕を上げきららと正嗣をぶら下げた。
「だーかーら俺は後方支援なのっ!現地で誰かが負傷したらテレポートでこの店に飛ばす。俺が治す。治療設備までは海外に持ってけないでしょーがっ!」
地面から足が浮くくらい吊られた正嗣ときららはは、は、はい…うなずきと否が応にも納得させられた。
よろしい、と聡介が両腕を下ろすとぺたんと足が地面に着いて正嗣ときららは慌てて聡介から離れた。
「ホホホ、聡ちゃんは相変わらずの坂田金時はんやなあ」
何事にも動じない女優、四宮蓮花は口に手を当てて笑った。
普段、仲間として接しているから忘れてたけど野上先生は宇宙最強の戦闘民族の王子、スサノヲの転生体に相応しい肉体を作ろう。
と目論んだ松五郎によってニニギの子である野上鉄太郎の世代交代を経て100年以上かけて作られた、
スサノヲノミコトと遺伝子適合した唯一の人間なのである。
そっか、この人異星人の子孫だった。と久しぶりに聡介の怪力を見せつけられてその事を思い出した。
「しかし、ハオラン君の監禁場所ここで合ってるんだべか?ちゃんと裏取ったか?」
と隆文が指先でメモをとんとん叩くとそこは大丈夫、と琢磨が親指を立てた。
「つい最近までプラトンの嘆き側に居て、そこの施設で働いていた人物に直に会って聞き込みしましたから」
真夜中、東京拘置所の未決囚官房で眠っていた人体実験で患者6人殺しの柳敦之被告は何者かに体を揺すられて目を覚ました。
看守の制服を着て、いつも巡回に来る若い看守の顔をしているが元医師である柳にはそれが精巧に作られたマスクだと解った。
とうとうマスターが口封じに私を殺しに来たのか?だったらやるがいい。人として生まれた「呪い」が終わるのなら。と柳は薄く笑った。
「柳さん、あなたが事件を起こした後で海外逃亡していた間に働いていたシンガポールの研究所の事を知りたいのですがね」
どんなに取り調べで追及を受けても絶対に口を割らなかった施設の事を聞かれて柳は、
こいつはプラトンの嘆きの関係者か、或いは
「カラフルヒーロー戦隊くんの一人かね?」
と当てずっぽうに自分の正体を当てられ、看守の指紋と生体認証データを盗んで彼に変装した都城琢磨は内心どきりとしたが、
「あなたを使い捨てにしたプラトンの嘆きの滅びを見たくありませんか?」
と相手が最も望むものを提供した。
「どうせよくて無期、悪くて死刑になる身だ。玄淵の滅びを見たい」
黒縁眼鏡の分厚いレンズの下で柳被告の目が異様に輝き、柳被告は白い前歯を見せてにたりと笑った。
こうして確実な情報は手に入れたが、実に胸クソ悪い面会だった。
と後に琢磨は述懐するのである。
後記
シンガポール人質奪還スタメン発表になぜか大女優お母さん。
蓮花さんは富司純子さんや大地真央さん合わせた「はんなりとして圧が強い」正統派女優イメージ。
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