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私は英語ができない

先週末、上司に「おしおさんって英語けっこうダメですよね」と言われた。
私は口では「バレたか〜」と言いつつ、心の中にひとつの悔いが浮かんだ。
なんせ、私は体感ではもう1000回は「あ 英語できないんだ」と言われてきている。
1000回は多い。普通より多い。たぶん、公言している趣味が海外旅行だから、みんななんとなく私が英語を話せると思っているのだろう。
趣味にのめりこみすぎて1年くらい海外放浪をしていたこともある。
確かに普通は、そんなに外国行ってるならぺらぺら喋れて当たり前でしょと思うだろう。
私だって、これだけ英語に触れる機会があれば自然とぺらぺらになると思っていた。
でもそれは、16歳になったら人類皆自然と恋人ができるのだろうと思っていた幼少期の感覚ほどに信憑性のないもので、16歳の私に恋人は居らず、また33歳の私は英語が話せなかったのだ。

つまり何を悔いているって、新しいコミュニティに入ったときに「英語だめです」という主張の種蒔きが不足していたことだ。
英語ができないという予防線をしっかり張っておかないと、会社のみんなだって採用した中途社員が「width」を「ワイズ」と読みあげるのを見て採用失敗だと頭を抱えることになる。人事がかわいそうだ。
そんな姿を晒す前に、早い段階から英語ができないことは公言してきたつもりだった。
しかし今回、社内で最もと言っていいほどコミュニケーションを取っている上司からの指摘に私は戦慄した。
まさかこの人まで、私が英語できないことを知らなかったなんて。

つまり今日は正式に宣言するためnoteの筆を取ることにした。
私は英語ができない。

しかし努力をしなかったわけではない。
努力をした上で、敢えて英語ができないまま33歳に至ったのだ。
その証拠を今日、ここに記そうと思う。

長期旅行に出る前、まず思ったのが「TOEICを受けよう」ということだった。
現状の自分の英語力もわかるし、目標があればそこに向けて自分が勉強を始めることに期待した。
しかし私はコツコツと努力するタイプではないので、闘争心を掻き立てる工夫が必要だった。
そこで、自分より頭が良くないと思われる後輩を同じ試験に誘い、私に勝てたら飲み代をご馳走する約束をしたのだ。
奢りたくないという貧乏根性、後輩に負けるとバツが悪いという世間体、そしてコイツの頭脳になら勝てるという心的余裕。この一策により勉強をする理由が2つも3つも現れ、一気にモチベーションが上がった。

やる気になった私がまず目をつけたのは、当時流行していたスピードラーニングだった。
なんとあの世界的ゴルファー、石川遼選手はこれにより英語を話せるようになったというではないか!実に信憑性がある。
そして決め手はその勉強法、ただただ聞き流すだけで英語が話せるようになるというのだ。
なんてことだ、これは買わない手はない。
周囲の反対と嘲笑を押しのけ、私はすぐさまパソコンを開きインターネットで目的の品を検索した。
なるほど、申し込むことで月々CDが届くという仕組みか。
月々なんてチンタラ待ってはいられない、10,000円程のお得なセットを申し込んだ。
翌月にはすぐに大量のCDセットが届いたので、まずは6セットほどのディスクをipodに取り込み、気が向いた時はいつでも聞き流した。

そして次に取り組んだのがアプリでの勉強だ。
今はサービスが終了してしまったが、当時は「えいぽんたん」という中学英語を勉強し直せるアプリを利用していた。
インターネット上にはTOEICは中学英語を極めることで600点、高校英語を極めれば800点は堅いという説が出回っている。
インターネットの情報の真偽を見分ける能力が備わっている私は、この説を強く信じ中学英語に焦点を絞ることにしたのだ。
このえいぽんたんというアプリは、とある学校に入学した生徒を英語の力で成長させるという育成要素の強いゲームで、私はわたあめのようなキャラクターを育てていた。
このキャラクターがなかなか可愛く、さらにログインボーナスで出現するアイテムをトップに飾ることもできたため、私は夢中になってこのアプリを起動した。
敢えて問題点を指摘するなら、校長先生もこのわたあめのキャラクターの可愛さに魅せられたのか、設問の難易度が恐ろしく低く、さらに正解すると天才かのように褒めてくれおかしまで与えてくれるのだ。
毎度そんなに褒められると、ものすごく英語ができる気になってしまう。
そして英語よりもそのおかしをわたあめに与えるなどして、お世話をしている時間の方が長かったのだった。

そして最後の仕上げに取り組んだのが、英語音声・英語字幕で映画を観るという勉強法だった。
これは何を喋っているのかわからない言葉も文字で追うことができ、さらに映画を楽しむために脳が勝手に理解しようとしてくれるという、映画好きにとって最強の勉強法だ。
さらに鑑賞後、もう一度日本語音声+英語字幕で観直すことにより認識の違いを正し、理解を深めることができる。
私はこの設定で「メリーに首ったけ」を観ることにした。
ハズレなしの往年の名作、そして難しい言葉が少なそうな王道ラブコメディーという間違いのない選択だった。
そして鑑賞15分、私は戦慄していた。
本当にさっぱりわからない。そう、メリーに首ったけは地上波で放送できないほどのお下劣コメディーだった。
際どい下ネタから若者の略語、果ては差別用語などのスラングがあまりに多かった。
しかし私は思った。欧米の若者が当たり前のように使っているスラングを覚えることこそが、日常で使う英語を話せるようになる一番の近道なのでは?
私は下品な英語に詳しくなった。

そしてついにその日がやってきた。
TOEICの問題集はBOOKOFFで200円で買ったが、前の持ち主の赤ペンが気になって全く身が入らないうちに家のブラックホールに消え去った。
しかし私はそんなものに頼らずとも、自分の性格に合った様々な工夫を凝らし勉強を重ねてきた。
いける。
無我夢中で問題を解き、無事に試験を終えた後輩と私は、その日英語への確かな手応えを感じた。

TOEICは4択のマークシート形式で行われる。
テストは990点満点で1問5点、つまり確率的には完全に勘のみで回答しても4分の1、つまり250点前後はとれるという仕組みになっている。
私は、後日届いた封書に目を疑った。
あんなに勉強したのに、そこには290点と記載されている。これはあまりに恥ずかしい。
スピードラーニングを購入した際、物珍しさから周囲の人間にもくまなく経緯を話してしまっていた。
後輩との勝負どうなった?と聞かれるだろう。更に何点だった?と聞かれるのは必至。
まさか2ヶ月も勉強して290点。これは到底答えられない。
確かにスピードラーニングは日本語の部分しか思い出せないし、えいぽんたんはすでに知ってる単語しか出てこないし、メリーに教えてもらったスラングはひとつも試験に出てこなかった。

あと数日で海外への長期旅行に出発しなければならない。
私は急に不安になった。
改めて中古のTOEICテキストを開いてみると、確かに3割も理解できない。
こんな調子で1年間も海外放浪ができるのか。絶望に打ちひしがれた。
そんなとき、たまたまつけていたテレビの中に救世主を見た。
海外ロケ中の出川哲朗先生だ。

先生の英語力ははっきり言って私と同程度に思えた。
間違った中学英語を駆使して大きな声で現地住民を戸惑わせている。
さらにリスニングも間違っているので、会話がアンジャッシュのコントみたいになっている。
しかしなんと、最終的にその会話は正しい方向に着地するのだ。
大きな身振り手振りと、はっきりした意思表示。わからないことや間違っているかもと思われることも、恥ずかしがらず堂々と伝える力。これこそが、コミュニケーション力なのだ。
私は出川先生の姿勢にいたく感動した。
ありがとう先生、元気が出ました。行ってきます!


こうして私は出川先生のコミュニケーション術を忠実に守り、言葉の発達がなくとも海外で生き抜けることを証明して帰国した。
なるべくして、社会復帰する頃に「Choir」を「チョアー」と読み上げ、「DeNA」を「デーナ」と読むような33歳になったのだ。

つまり私は単に英語ができないだけではない。
戦略的に英語ができないままにしているのだ。

ちなみに一緒に受けた後輩は280点だった。
私には英語力は無いが、人を見る目だけはあったようだ。

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