短編小説「あまのじゃく。」
映画館
「エモい曲はこれだ」とかうっせよー。エモさなんておめえが決めてんじゃあねえよ。
「エンドロールが終わっても立ち上がれませんでした」馬鹿の間で流行ってる映画のこのキャッチフレーズ。反吐が出る。
嘘みたいな、気持ちの隠ってないセリフに嫌気が差し真ん中の席を立ち上がり申し訳そうにどいて貰いながら進む。溢れたポップコーンを踏み、鳴った音にも申し訳そうに退いた。
エンドロールが始まる前に映画が終わる前に帰ってしまった。
出る直前女優は泣いていた。端麗な顔で深く嘘っぽく。
外に出ると、夕日が真正面にいた。バックのガラス張りの映画館が反射させ僕をインスタ映えとまではいかないが夕映させた。黄昏るような思い出もない僕は何も考えず街を歩く。すれ違う夕映したカップルに羨ましさもないと言えば嘘にはなる、カップルを見れば心の奥がスーッと、そしてギュッと穴が開いたように痛む。
大抵の「もう遅い」ってのはまだ全然遅く無い。
あの時、ただ一緒にいたかった。
あの時素直に理由を聞けば、あいつに素直に謝れば、素直に会いに行ければ良かった。
居心地
「片方目瞑ると電柱に隠れて見えなくなって逆にすると光が差すんだよね。しょうもないけど、すごい事じゃない?」
他愛のない会話。話し歩けばお互いが笑い声をあえて我慢する。声は聞こえないのにうるさかった。それでも結局お互い声出して笑うんだからうるさい。そこで、うるさいと愛しいは寄り添う関係なんだと気付いたんだ。
居心地が良かった。だから好きな事言って好きな事して好きなだけ寄り添って好きなだけまどろみを行った。財も恵んでもらった。
君はいつも笑っていた。
でも本当は違う、僕だけが居心地良かったんだ。嘘ついてもバレない、浮気してもバレない、何も怒られない。都合が良かったんだ。
嘘はバレないと本気で思ってた、バレない嘘はないってすぐ気付かされた。
めちゃくちゃ怒られた、めちゃくちゃ怒られたが許された。その時、彼女は凛乎としたさまだった。
僕はこの人と一緒になりたいて強く芽生えた、だからギターを売りに行こうとしたんだ。
君は悲しい顔をしてた。それから数日、口を聞いてくれなかった。
「もう、あんたとは無理」赤いヒモが切れた。あの時は理由も分からなかった。
その瞬間、分かったって言わなければ、素直に謝れれば、泣くのを我慢して去った君を追い掛ければ。
すぐ来た連絡を無視せずに会いたいって素直に返せれたら。
たらればで経験値が上がっていく、でもレベルが上がって魔法のコトバなんて使えたとしてもあの頃では使えない。結局後悔として残っていく。
後悔ってのは、
何年経っても奥深くからすぐ近くに急に現れる。
遥か
アラームが鳴り出す1時間も前に汗だくで目を覚ます。
不快な気持ちと会いたい欲、沈んで溺れてしまいそうな気分がずっと続く。毎日毎日。
連絡先も分からない。一緒に撮ってた写真は全部消してしまったから、顔も正直自分の中で美化して有名人の顔に変換して覚えてるようなもんだ。
記憶は曖昧で、でも残った履歴の記録は鮮明で僕をまた苦しめる。
時間が解決すればいいのだがどうしても拭えない、はちみつ缶の残りのように。
熱で溶かして水に流せれればそれでいいのに。記憶も記録も留める事が僕には厳しい。
黄昏る思い出はないとよく言うんだけど僕の思い出はいつも横たわっている。
ていうか黄昏る思い出はないっすよってよく言う事もない。
今日も僕は部屋の片隅でギターは弾く。使えない経験値をために貯めて。
「エンドロールが終わっても立ち上がれませんでした」銀幕に出れたら本当は正直言われたい。てかエンドロールで自分の曲が流れてたい。結局はエモい曲と思われたい。
変えれない過去を背負い、後悔は後悔のままに、欲望は剥き出しのままに、ただ魔法は覚えたが使い所もないままに。
部屋にも僕にもマイナーコードが鳴り響いてる、消えることなく。
大抵の「もう遅い」ってのはまだ全然遅く無い。自分に言い聞かせ、マイナーコードを弾き流せ。
あとがき
クリープハイプの『週刊誌』って曲の歌詞に
[馬鹿の間で流行ってる映画「エンドロールが終わっても立ち上がれませんでした」ってなんでも良いけどさ思い出した]
この歌詞が聴こえた。聴こえたまま思いついたまま書き殴った。
大抵の「もう遅い」は全然遅くない、後悔に蝕まれないように精一杯進んでいけ、そう自分に言い聞かせ、そして読んだあなたにも後悔のない人生が続きますように。