資格 家族被保険者
鹿島 「今回は家族被保険者の話ですね。差し支えなければ出雲さん自身の事で説明するけれどいかがかしら。」
出雲 「その方が実感は湧きそうなのでお願いします。いまは実家で両親と高校生の弟と4人で暮らしています。実家は寿司屋で結構評判がいいんですよ。芸能人の常連さんも何人かいます。良かったら今度食べに来てください。」
鹿島 「芸能人が通う寿司屋か・・・。うーん、行きたいのは山々ですが、やめておきます。私は気を遣われるのも気を遣うのも苦手なのよ。本題に戻しますね。」
出雲 「お願いします。」
鹿島 「実家の寿司屋さんは法人になっているの?」
出雲 「個人です。基本は両親と職人さんふたりでやっています。忙しい時は私と弟が駆り出されます。」
鹿島 「ご実家のお寿司屋さんは法人でない限り健康保険法の適用は受けません。本題から少し外れますが、個人のお寿司屋さんは飲食店なので健康保険法の適用事業ではないから100人の従業員がいたとしても任意適用の承認を受けない限り健康保険法の適用は無いし、受けたとしてもご両親ともに経営者でしょうから、ご家族の保険は国民健康保険ということになるはずです。」
出雲 「まだ、保険証を持っているので見てみますが・・・、そうです、自治体の国民健康保険です。」
鹿島 「そうだとすると、ご両親と弟さんは組合員出雲さんの家族被保険者になります。」
出雲 「えっ、うちの寿司屋、そこそこ盛っていて、親も私の倍以上の売り上げも所得もあると思いますが、それでも被扶養者になれるのですか?それに父は面子にこだわるので、私の扶養になど絶対にならないと思います。」
鹿島 「いやいや、被扶養者ではなく、被保険者です。組合員ではない被保険者なので区別のために便宜上家族被保険者と呼んでいます。被扶養者とは被用者保険の領域の語句で、健康保険なら被保険者とともに、共済組合なら組合員とともに、その保険に入る者の事です。被扶養者になれるかどうかは、収入とか、所得とか、親族関係とか、同居とか、複数の基準が複合して認定されることになりますが、それは国保組合職員の仕事ではないので別に覚えていなくても結構です。国保法では国保組合の被保険者となる人を19条で定めていて、組合員と組合員の世帯に属する者を当該国保組合の被保険者とするとあります。除かれるのは例の6条該当者ですが、そこには10号の国保組合被保険者があるから除外する者から外すけれども、それだけだと他の国保組合の被保険者まで被保険者にすることになってしまうから、他の国保組合被保険者は外しましょうと書かれているわね。」
出雲 「うーん、ややこしいですね。でも、収入やら親族関係とか調べなくていいから楽かな。」
鹿島 「経過は知りませんが、被扶養者については被保険者や組合員に申請させて保険者が認定をする事務になっています。申請しなければ資格はあっても被扶養者にはなれません。住所を根拠に世帯を単位として強制的に皆保険を完成させる国保事務とは真逆ともいえます。また、単位となる世帯を決めるのは区市町村の仕事です。例えば、夫婦、その親夫婦、祖父母夫婦、三世代夫婦が同住所にいたとしても同一生計の単位となる住民票の世帯が、それぞれ別の3世帯になるのか、親夫婦と祖父母夫婦がひとつ自分たち夫婦でひとつの2世帯になるのか、等々を見きわめ決定するのは区市町村であって、その結果として住民票があり国保組合はそれに従って仕事をすることになるのだから、楽というなら楽です。住民基本台帳法が施行される前は苦労したと思うけれど。」
鹿島 「おさらいとして、組合員の法13条で組合員になれない者から8号の後期高齢者は除かれていたけれど、被保険者の法19条では除かれていない。これが後期高齢者は組合員にはなれても被保険者にはなれない根拠です。」
出雲 「・・・そういうことかあ。」
鹿島 「とても大事なこととして、仕事に関する語句は正確に使ってください。基礎の基礎としては、国保法の家族被保険者を被用者保険の被扶養者と言ってしまうように、もともと区別されている語句を誤用しないこと。次に同じ語句でも法令によって内容が異なることがあるので仕事上必要な場合は確認すること。さっき出てきた被扶養者の収入基準も自営業者の場合は所得税法の年収でも所得でもない。」
出雲 「正直に申し上げて自分には無理そうです。」
鹿島 「いえいえ、実際に仕事で使っている語句の話なので不安にならなくても大丈夫。自営業者の年収基準なんか国保職員は知らなくても困りません。でも、健保組合職員が知らなくては迷惑をかけることになってしまう。それも間違いにすぐに気が付けばごめんなさいで済みますが、申請期間が過ぎて遡及できなくなったり、時効が成立してしまって給付できなくなったりすることもあります。健康保険も国保組合も資格事務は給付事務に直結しています。担当する資格事務ではあまり見えませんが、関係する給付金額は結構高額になります。給付の仕事につけばわかりますが月100万円を超える医療費は珍しくはありません。」
出雲 「ますます無理そうです。」
鹿島 「ちょっと脅かしすぎたかしら。新人はもちろんだけど、ベテランだってミスはする。個人のミスを前提に、組織としては間違いをしないように同僚や上司が再度点検をしているわけです。でも、新人もいつかはベテランとなり、さらに部下を管理する立場にも成り得ます。腕のいい寿司職人が包丁を研ぎあげるように、事務屋は言葉を磨く必要があるという事です。」