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給付 一部負担金 その2 減額・免除・猶予

鹿島 「前回は法第42条第1項について話しました。第2項が残っているのですが、少しとんで先に法第43条と第44条の一部負担金の減額・免除・猶予について話します。早速条文を見ますが、第1項に限定して比較しましょう。
 
第四十三条 市町村及び組合は、政令で定めるところにより、条例又は規約で、第四十二条第一項に規定する一部負担金の割合を減ずることができる。
 
第四十四条 市町村及び組合は、特別の理由がある被保険者で、保険医療機関等に第四十二条又は前条の規定による一部負担金を支払うことが困難であると認められるものに対し、次の各号の措置を採ることができる。
一 一部負担金を減額すること。
二 一部負担金の支払を免除すること。
三 保険医療機関等に対する支払に代えて、一部負担金を直接に徴収することとし、その徴収を猶予すること。
 
 
 現在では第43条の一部負担金の減額・減免を実施している保険者はいないのでないかしら。第43条は、保険者として一律に、例えば組合員は7割給付ではなく9割給付とすると規約に定めて実施すること。それに対して第44条は組合員世帯の個別の事情により、個別といっても主として大地震や台風など甚大な災害を受け生活が困難となった場合にとられることが多い措置なので数が相当数になることも多いのだけれど、臨時的に事実上は世帯単位で保険者が組合員の申請に基き認定するもので、被保険者ごとに認定することも可能です。その他の措置としては第44条1項第3項に徴収猶予というのもあって、これは保険者が組合員に代わって一部負担金を医療機関に支払い、後日、組合員から直接徴収し、この徴収する時期に猶予を持たせるという仕組みです。」
 
出雲 「最初の方、第43条でしたっけ?これって、うちの組合でも実施している25000円以上は戻ってくるという制度のことではないのですか?」
 
鹿島 「うちの組合でいう「一部負担償還金」のことね。残念ながら、あれは第43条ではなく第58条第2項を根拠とするその他の給付になります。条文を確認しておきましょうか。
 
第二節 その他の給付
第五十八条 (省略)
2 市町村及び組合は、前項の保険給付のほか、条例又は規約の定めるところにより、傷病手当金の支給その他の保険給付を行うことができる。
 
 省略した前項の給付というのは、出産育児一時金又は葬祭費です。第43条は保険医療機関の窓口で一部負担金が減額されるのに対して、第58条は法定通りの一部負担金を保険医療機関で支払ってから、後日保険者からその一部が戻される制度なので、その点も異なっています。冒頭にも話しましたが、第43条の一部負担金減額を維持している組合はもうないのではないかしら、知らんけど。」
 
出雲 「あれ、鹿島さん、関西出身ですか?」
 
鹿島 「あっ、違うのよ、第43条は引き続き存在しているので形式上は保険者が実施できることにはなっているでしょ、でも、やっているところはないというのを最終確認できなかったのよ。友達に関西出身者がいて、時々耳にはするけれど、いつの間にかうつっちゃったみたいね。
 さて、法第43条と法第44条には第2項以降が残っていますね。細切れにするようで申し訳ないけれど、法第43条は第2項と第3項法第44条は第3項について比較します。似て非なる条文なので読み飛ばさないようにしましょう。
 
第四十三条 (省略)
2 前項の規定により一部負担金の割合が減ぜられたときは、市町村又は組合が開設者の同意を得て定める保険医療機関等について療養の給付を受ける被保険者は、第四十二条第一項の規定にかかわらず、その減ぜられた割合による一部負担金を当該保険医療機関等に支払うをもって足りる。
3 第一項の規定により一部負担金の割合が減ぜられた場合において、被保険者が前項に規定する保険医療機関等以外の保険医療機関等について療養の給付を受けたときは、市町村及び組合は、当該被保険者が第四十二条第一項の規定により当該保険医療機関等に支払った一部負担金と第一項の規定により減ぜられた割合による一部負担金との差額を当該被保険者に支給しなければならない。
 
第四十四条 (省略)
2 前項の措置を受けた被保険者は、第四十二条第一項及び前条第二項の規定にかかわらず、前項第一号の措置を受けた被保険者にあっては、その減額された一部負担金を保険医療機関等に支払うをもって足り、同項第二号又は第三号の措置を受けた被保険者にあっては、一部負担金を保険医療機関等に支払うことを要しない。
 
どう違う?」
 
出雲 「項の数が違うのは当然として、開設者の同意という文字が目立ちますね。開設者って誰ですか?」
 
鹿島 「開設者というのは保険医療機関等の開設する法人や個人の事。お医者さん個人だったり、医療生協だったり、国も都道府県も市町村も、大学病院は学校法人だし、国保組合も開設できるのよ。」
 
出雲 「へえー、だとしたら、第43条が定める保険者が一律に一部負担金を減ずる又は免除する場合で、かつ、保険医療機関の窓口でそれを実施するにはそれぞれの保険医療機関の同意が必要という事ですね。それに対して第44条は同意が無くとも保険医療機関はそうしなければならないという事ですか。それで、法第43条は同意が得られない場合に保険者がすべきことを、第3項を設けて義務付ける必要があったというわけですか。」
 
鹿島 「その通り、よく読み込んだわね。第44条の場合は大規模災害時に主に発動されるから対象世帯は命からがら身ひとつで逃げてきた人も多いでしょ。うちの病院は同意してませんなんて言える状態ではないし、そんなこと言う医療機関なんて人道上ないんじゃない。」
 
出雲 「でも、病院はどうして第44条の対象者だってことが分かるのですか?2024年元日の能登地震では帰省していた方たちもかなり被害にあったようですが。」
 
鹿島 「最終的には保険者が判断することになりますが、大規模災害の場合は災害に合った地域と人を対象にしています。保険医療機関での対象者確認については、初期は口頭で申告すればいいことになっていて、落ち着いてきたら保険者が証明書を発行するのでそれを提示することになります。」
 
出雲 「そうですか、よく分かりました。着の身着のまま避難した人たちに一部負担金を支払えなんて無茶ですよね。」
 
鹿島 「そうね、常識ではそう思うし、そこは正しいんだけれど。」
 
出雲 「何かあるんですか?」
 
鹿島 「保険者が減額・免除・猶予の対象とできるのは法第42条第1項の規定による療養の給付とそれを準用する保険外併用療養費の一部負担金です。法第52条の入院時食事療養費の食事療養標準負担額と法第52条の2の入院時生活療養費の生活療養標準負担額はそこには含まれていません。だから減免等をしたいという希望があったとしても法の制限でできないのよ。東日本大震災の時にはさすがに特例法が出されて減免条項のない食事代や部屋代は期間限定で免除されたけれど能登地震ではそんな対応はされていない。私はメチャクチャ違和感があります。改正すべきだと私は思っています。
 さて、まだ、説明すべきことが残っていますが、長くなったので次回にしましょう。」

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