![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/166650544/rectangle_large_type_2_51a6ab8f810c8a53813a71693dae737c.png?width=1200)
給付 「療養の給付」関連 その4 保険外併用療養費 評価療養、患者申出療養、選定療養
鹿島 「最も基本的な現物給付の医療サービスである療養の給付、それから除外される滞納者の特別療養費、同じく除外された医療サービスの入院時食事療養費と入院時生活療養費を見てきました。今日は療養の給付に含まれない、言わばオプションに分類される、評価療養、患者申出療養、選定療養について話します。国民健康保険法の第36条第2項第3号から第5号までに記載がありますが、そこには健康保険法第63条第2項の第3号から第5号に規定するとありますから、そっちを見てみましょう。
三 厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、前項の給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養(次号の患者申出療養を除く。)として厚生労働大臣が定めるもの(以下「評価療養」という。)
四 高度の医療技術を用いた療養であって、当該療養を受けようとする者の申出に基づき、前項の給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養として厚生労働大臣が定めるもの(以下「患者申出療養」という。)
五 被保険者の選定に係る特別の病室の提供その他の厚生労働大臣が定める療養(以下「選定療養」という。)
ここで前項と言っているのは療養の給付の事です。簡潔な条文なので説明は要らないと思うけれども一応話します。評価療養と患者申出療養の共通点は将来的に療養の給付の対象にするかどうかの評価を行うものであること、違いは起点で評価療養が病院なのに対し患者申出療養は被保険者です。選定療養は療養の給付の対象にするかどうかではなく、被保険者が保険診療のサービスを超えるサービスを選択する療養です。と、説明してもよく分からないわよね。」
出雲 「御意」
鹿島 「具体例を挙げましょう。これらの療養は厚生労働省のホームページに全て記載されているので後で確認しておいてください。評価療養ですが、陽子線治療・重粒子線治療などの先進医療、新薬開発のための治験に関わる診療などです。選定療養は身近だからご存じかもしれないけれど、入院時の差額ベッド・紹介状のない大病院の初再診・多焦点眼内レンズ・長期収蔵品(ジェネリック医薬品のある先発医薬品)などです。原則として上乗せや追加部分が全額自己負担となりますが、それ以外の基礎的な部分は保険外併用療養費として保険者が負担します。」
出雲 「療養費という名称ですし療養の給付から外されているわけですから、現物給付の枠組みから外されているのですよね。でも、丸々の立替で困っているなんて話は聞かないので、現物給付の運用がされているのですか?」
鹿島 「条文で確認しましょうね。保険外併用療養費は法第53条にあります。第1項は基本事項と、特別療養費は除かれること、第2項は療養の給付と同じ計算がされることが書かれています。第3項は、
3 健康保険法第六十四条並びに本法第三十六条第三項、第四十条、第四十一条、第四十五条第三項から第八項まで、第四十五条の二及び第五十二条第三項から第五項までの規定は、保険医療機関等について受けた評価療養、患者申出療養及び選定療養並びにこれらに伴う保険外併用療養費の支給について準用する。この場合において、これらの規定に関し必要な技術的読替えは、政令で定める。
注目してほしいのは、ここに本法第三十六条第三項が入っていること。この条文は前に話しましたね。」
出雲 「ちょっと待ってください、パパッと出ないんですよ、そうか、やったばかりでした。え、療養の給付と同じ現物給付ですか、療養費って名称なのに。」
鹿島 「医療は日進月歩です。新しい医薬品、技術、医療機器などがどんどん開発されています。日本では保険と保険外の治療を医師の裁量において実施する混合診療は禁止されていて、もし、保険外の医薬品などを使用すると、全ての療養について自由診療扱いとなり莫大な費用を支払わなければなりませんでした。そこで、先進技術に対応しながら被保険者の実質的な選択の幅を広げるため評価療養が、また、被保険者のニーズの多様化に対応するために選定療養の制度が設けられました、といっても、以前は特定療養費という名称でしたけれど。そんなことから、保険外併用療養費は現物給付だし、評価療養や選定療養の上乗せ部分は高額療養費の対象から外れても、基礎部分の一部負担金は高額療養費の対象となっています。評価療養と選定療養は、あくまで療養の給付を基本としながら、限定的にルールを定めて実施されているわけです。」
出雲 「どんなルールなんですか?」
鹿島 「先ほどの第53条第3項の条文には、第三十六条第三項の他に第四十条の文字も見えますね。その条文を確認してみましょう。
(保険医療機関等の責務)
第四十条 保険医療機関等又は保険医若しくは保険薬剤師(健康保険法第六十四条に規定する保険医又は保険薬剤師をいう。以下同じ。)が、国民健康保険の療養の給付を担当し、又は国民健康保険の診療若しくは調剤に当たる場合の準則については、同法第七十条第一項及び第七十二条第一項の規定による厚生労働省令の例による。
そこには、健康保険法の第七十条第一項及び第七十二条第一項の規定と書いてありますから、健康保険法を確認しましょう。
健康保険法
(保険医療機関又は保険薬局の責務)
第七十条 保険医療機関又は保険薬局は、当該保険医療機関において診療に従事する保険医又は当該保険薬局において調剤に従事する保険薬剤師に、第七十二条第一項の厚生労働省令で定めるところにより、診療又は調剤に当たらせるほか、厚生労働省令で定めるところにより、療養の給付を担当しなければならない。
(保険医又は保険薬剤師の責務)
第七十二条 保険医療機関において診療に従事する保険医又は保険薬局において調剤に従事する保険薬剤師は、厚生労働省令で定めるところにより、健康保険の診療又は調剤に当たらなければならない。
機関と人の両方に責任を負わせていますね。ここに出てくる厚生労働省令というのは、「保険医療機関及び保険医療養担当規則」と「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則」になります。ルールはそこに出ています。長くなってしまったので引用はしませんが、前者においては、第五条の二で領収証等の交付、第五条の四で予めの内容及び費用に関する説明と同意・療養の内容及び費用の掲示とウェブサイト掲載を義務付けています。4回にわたって「療養の給付」に関連する給付を見てきましたが何かありますか?」
出雲 「食事療養費と生活療養費の標準負担額は、数日の入院であれば気にならないでしょうけれど、長い期間となると、かなりの負担になるという事が分かりました。家でもご飯は食べるのだから負担は当然と思っていましたが、家ではそんなに食費かけられないし。それに帰宅してから思ったのですけれど、仮に単身者が療養病床に入院したとしても、自宅の電気代や水道代が無くなるわけじゃないし、何といっても働けないわけだから、相当厳しいのではないかと思います。このような話を聞かなければ、自分がそうならない限り関心もなかったと思います。」
鹿島 「最近は、将来にわたって国民皆保険を守っていくため医療保険財政の改善を図ると称して、自己負担が強化されています。しかし、病気や怪我などに遭遇しても、生活を続けていくために保険があるわけでしょう。例えば、ガンの生存率が高くなったのはいい事だけれど、その治療のために預金を取り崩し、車も手放し、家屋なども売却せざるを得なくなるようでは本末転倒です。本当に社会保障にまわすお金がないのか考える必要があります。食事療養費、生活療養費は療養の給付から除外され、現在さらに高額療養費の自己負担限度額を引き上げようと議論がされています。主に現役世代の保険料を引き下げるためとの宣伝がされているようですが、ほんとうにそうなのか、長くなるので、別の機会に考えてみましょう。それに高額療養費の自己負担限度額を引き上げようと主張している方たちに多いようですが、選択療養を増やそうとする主張があります。選定療養にも選択の幅を広げるのではなく制限としか言いようのないものも含まれています。また技術は日進月歩なのだから誰にも有効な技術ならば選択療養ではなく療養の給付とすべきでしょう。該当部分とはいえ、まるまる自己負担しなければ恩恵を受けられないなんて言うのは選択の幅ではなく格差だと私は思います。」