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資格 資格喪失日 その2 事由発生による資格喪失

鹿島 「さて、今日は事由発生による資格喪失日の説明でしたね。まずは条文を確認しておきましょう。国保組合の資格喪失日の条文は、このように書かれています。」
 
(資格喪失の時期)
第二十一条 組合が行う国民健康保険の被保険者は、組合員若しくは組合員の世帯に属する者でなくなった日の翌日又は第六条各号(第九号及び第十号を除く。)のいずれかに該当するに至った日の翌日から、その資格を喪失する。ただし、組合員又は組合員の世帯に属する者でなくなったことにより、都道府県等が行う国民健康保険又は他の組合が行う国民健康保険の被保険者となったときは、その日から、その資格を喪失する。
2 組合が行う国民健康保険の被保険者は、第六条第九号に該当するに至った日から、その資格を喪失する。
 
出雲 「ちょっと待ってください。法6条の第9号と第10号って、何でしたっけ?」
 
鹿島 「聞くのではなく目で確認しましょう。都度、条文を確認することはとても大切。」
 
出雲 「えーと、第9号は、そうだった、生活保護で、第10号は国保組合、あ、そうか、カッコで「除く」と書いとかないと、次の文と矛盾しちゃうから、カッコが必要なんですね。」
 
鹿島 「その通り。さて、第1項のように「ただし書き」がある場合は、前が原則、後が例外となります。原則は事由発生日の翌日が資格喪失日となりますよと書いてあるから、事由発生日は資格がありますというわけね。例外として、公営国保と他の国保組合の被保険者となった場合は当日が資格喪失日ですよってわけ。さらに別に項を起こして第2項の法6条第9号の生活保護についても資格喪失日を当日としています。」
 
出雲 「そう言われればそうですね。項目は少ないから暗記できるかと言われればできますが、何か訳ありのようなにおいがします。」
 
鹿島 「いい嗅覚ね。暗記でこなしても資格事務については差支えもないけれど、給付については大事な理由があるし、実務もあるの。だから理屈で理解していた方がいいわ。事由発生日の翌日を資格喪失日にするって、どういうことかわかる?」
 
出雲 「例えば会社の保険に入ったら、その翌日に国保組合の被保険者でなくなるという意味ですよね。」
 
鹿島 「そう、それは法21条の「第六条各号(第九号及び第十号を除く。)のいずれかに該当するに至った日の翌日」の部分ね。文章の順番通りではないけれど、うちでは最も普通にあるケースだから、そちらから片づけてしまいましょう。会社に保険に入った当日はどの保険に入っているの?」
 
出雲 「もちろん会社の健康保険、国保組合は、喪失日は翌日だから、あ、国保組合にも加入したままだ。二重加入って、そんなことが・・・。」
 
鹿島 「あるのよねぇ。そして、その当日に具合が悪くなって病院にかかったとしたら、会社やの健康保険と国保組合の保険、どちらが負担することになると思う?」
 
出雲 「どっちからも受けられるのでしょうから、「本人が選択できる」のではないでしょうか。」
 
鹿島 「常識的に考えればその通りね。でも、実は、国民健康保険法には、そういった場合の給付について、どちらが優先して払うかを決めている条文があります。それが調整条項と呼ばれている法56条です。長いから中略しますが、こう書いてあります。」
 
(他の法令による医療に関する給付との調整)
第五十六条 療養の給付又は入院時食事療養費~中略~、健康保険法、船員保険法、国家公務員共済組合法(略)、地方公務員等共済組合法若しくは高齢者の医療の確保に関する法律の規定によって、医療に関する給付を受けることができる場合又は介護保険法の規定によって、それぞれの給付に相当する給付を受けることができる場合には、行わない。労働基準法(略)の規定による療養補償、~中略~地方公務員災害補償法(略)若しくは同法に基づく条例の規定による療養補償その他政令で定める法令による医療に関する給付を受けることができるとき、又はこれらの法令以外の法令により国若しくは地方公共団体の負担において医療に関する給付が行われたときも、同様とする。
 
鹿島 「保険制度で資格が重複した場合について国保は給付しませんし、労災保険など他の法令である相当する給付があれば、これも支払いませんよ、と第1項は宣言しています。続いて第2項では、もし、国保の方が重複した保険等の制度が持つ一部負担金よりも減じている場合などについては差額のみ支払いますと書いてあります。だから資格が重複しても問題は起きないわね。ちなみに資格があるのに給付しないパターンはふたつあるの。法56条のように他で払われるから払わないという優先度を決めているのが給付調整で、他で払われなくても払わないというのが給付制限といって法60条と法61条にあるけれど、これはまたの機会に取り上げます。ここまではいい?」
 
出雲 「健康保険など被用者保険に入った場合は被用者保険の資格取得日の翌日が資格喪失日になって、資格が重複する日の給付は被用者保険優先ということですね。」
 
鹿島 「パチパチ、よくついてきたわね、褒めてあげるわ。さて、次の「ただし」以降の説明ね。これは任意脱退や住所移転で組合員でなくなったり世帯からいなくなったりするケースで、かつ、その後公営国保か他の国保組合、どちらも国保に入るパターンで、これも普通にあるわね。この場合は事由発生日当日が資格喪失日ってこと。任意脱退については事実上翌月初日を資格喪失日としているからい意識しなくても問題ないけれど、家族の引っ越しなどで世帯からいなくなる場合で、かつ、引っ越し先で国保に入る場合は住民票を移した日になりますよということ。何故だかわかる?」
 
出雲 「うっ、わかりません。」
 
鹿島 「さっき説明した法56条の前のカッコ書き、「見出し」というのだけれど、そこにはなんて書いてあった?」
 
出雲 「えーっと、・・・これだ、「(他の法令による医療に関する給付との調整)」、あっ、そうか、他の法令ってことは、国保法は入っていないんだ!」
 
鹿島 「そう、大当たり。他の条文にも国保間での調整条項はない。だから、もし事由発生日の翌日を資格喪失日としてしまうと国保間でどっちが給付するかでトラブルになってしまうでしょ。それを避けるために事由発生日を資格喪失日にして資格の重複を許さず、その日からは資格も給付も行った先の国保で行うという整理をしているのね。」
 
出雲 「なるほど・・・・でも、そんな面倒なことをしているんですか?皆保険制度なんだから、事由発生日を資格喪失日にすれば何もかもすっきりしてうまくいくような気がします。調整条項も不要になるし。」
 
鹿島 「ちょ、ちょっと、調整条項は健康保険制度の資格重複に限ったことではではないから、後でもう一度読んでちょうだい。それと事由発生日の翌日を資格喪失日としないと困ることがあるのよ。」
 
出雲 「どういうことですか?」
 
鹿島 「外国に移住することになったAさんは、予定通り転出予定日に空港にいきましたが、階段で躓いて足を捻挫してしまいました。空港内の診療所で応急処置を受け痛み止めを処方してもらい何とか旅立つことができました。この場合に転出という事由発生日を資格喪失日とすると診療代や薬代はどうなります?」
 
出雲 「あっ、給付できない、そうか、住民票があっても皆保険制度から外れてしまう。」
 
鹿島 「そう、当たり。事由は午前0時から発生するなんてことはまず無いから、事由発生日までは資格を与え、その翌日を資格喪失日とすれば外国への転出日当日の傷病も対象になるわね。さて、残っているのは生活保護を受けた場合は当日という理由ですね。」
 
出雲 「被用者保険加入などと同じようになぜ整理できないのですか?法56条の給付の調整で整理できるのではないですか。」
 
鹿島 「その通り。もし資格が重複していたとしたら国保サイドとしては法56条を持ち出したいわね。でも、生活保護法は別格で第4条に保護の補足性という原則が定められていて他法優先原則となっているから国保優先となるのよ。給付は資格の重複があっても整理できるのに、資格の重複を許さず資格喪失日を生活保護を受けた日としている、どうしてかな?」
 
出雲 「給付は整理できるのにしていない、ということは給付が問題ではないという事かなあ・・・・。」
 
鹿島 「そう、その通り。ずばり保険料負担が主な理由。国民健康保険に加入している人が生活保護を受けた時には、もう、保険料を払える状態にはないわね。受けた日を含む月が保険料を納める月となったら間違いなく滞納してしまう。」
 
出雲 「なるほど、生活保護を受けたその日が健康保険の資格喪失日になるのですね。」
 
鹿島 「違うわ。資格喪失はあくまで国民健康保険の話。一定の継続的収入が見込まれる被用者保険は生活保護を資格喪失事由とはしていない。言葉は意識して正確に使わないと混乱するわよ。」
 
出雲 「そうでした。生活保護開始による国民健康保険の資格喪失日でした。」

鹿島 「今日は盛沢山だったわね。重要な事をいくつも話しました。しっかり自分のものにしてくださいね。」

(2024年12月1日)


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