資格 組合員の範囲 その2 同種の事業または業務
鹿島 「前回の続きからですね。同種の事業または業務の話でした。出雲さんは事業と業務の違いって何?と訊かれたらどう説明する?」
出雲 「うーん、事業っていうのは全体的な気がするし、業務っていうのは部分的な気がします。」
鹿島 「うん、そんなことね。事業は、法人でも個人でも、複数でも一人でも、社会において継続的に経済的に活動するひとつの仕事。実際に活動している場所の単位が事業所。例えば、そうねえ、いま私たちが使っている会議テーブルを作っている事業所で説明してみましょうか。」
鹿島 「このテーブルは・・・合板と鉄製の脚でできているわね。まあ、合板そのものはどっかから仕入れて加工するのだろうし、脚は自分の所で作っているとしましょう。となると、合板を切ったり塗ったりする仕事があって、脚を鉄板から切り出してプレス加工し、削ったり塗ったりする仕事もある。でも、それだけでは会議テーブル製造事業はできない。」
出雲 「なぜです?」
鹿島 「さっき合板を仕入れるって言いましたが、仕入れる仕事、それからできた会議テーブルを売る仕事、従業員に給料を払う仕事、全体を統括する仕事、そんな仕事が総合的に組み合わさって事業が成立する。ひとつひとつの仕事が業務で、業務だけをみれば必ずしも製造だけでなく事務や営業もある。その業務を専任でやる人がいれば、その業務はその人の職務となり職種となる。製造職、事務職、営業職ってわけね。事業所単位でみれば製造業ですが、人という単位でみれば、必ずしも製造職ばかりではない。逆にやたら腕とセンスのいい職人が、たったひとりで注文受けや材料の仕入れやら経理やらの製造に付随するその他の業務もこなして注文の会議テーブルを製造販売している事業所があったとしても、その事業所も製造業となる。ひとつの経済的活動単位として事業所は見なければならない。」
出雲 「へえ、そうなんですか。何か簡単なような、難しいような・・・。国保組合と何か関係があるんですか?」
鹿島 「有り無しでいえば有り、白黒でいえば黒、クロオオアリってとこね。」
出雲 「何ですか、それ!」
鹿島 「一度言ってみたかっただけよ、義理で受けなさいよ。国保組合は同じ事業または業務の組合員で組織されるわけでしょ。誰が組合員になれるのかという範囲を考えるうえでとても大切だし役にも立つ。例に出した会議テーブルは一般的にオフィス什器に分類されるから・・・仮に「オフィス什器製造国保組合」という国保組合があったとしましょう。この会議用テーブルを製造している事業所で働く人は、実際にテーブルを製造する工員はもちろんですが、事務・経営者など職種を問わず「同種の事業」すなわち「オフィス什器製造業」に従事する者として組合員になる資格がある。ここまではいい?」
出雲 「同種の事業ってことですね、大丈夫です。」
鹿島 「次は同種の業務の方ね。会議用テーブル製造事業所とは別に、オフィス什器を賃貸する事業所があったとしましょう、オフィス什器賃貸業となるから、その事業所は製造業ではないわね。でも、その事業所に賃貸に使っている会議用テーブルなどのオフィス什器を専任で製造と修理を任されている人がいたとしたらどう?」
出雲 「同種の事業には従事していないが、同種の業務に従事しているという事で組合員になる資格があるという事ですか。」
鹿島 「すごいわね、出雲さん、その通り。会議用テーブル製造事業所の人は職種問わず組合員になれますが、オフィス什器賃貸事業所の人はオフィス什器製造修理している職種の人だけです。法令、特にたくさんの人に関わり、かつ、長年存在している法律の語句はとても洗練されています。似たような言葉があっても読み飛ばさず何を言っているのか考える必要があります。もっとも、今の同種の事業及び業務は国保法の枠の話だから、それをそれぞれの国保組合が定める規約で具体的に制限をかけて運用することは可能ね。だが、意図しない行き過ぎや不足、まあ両方とも誤りなのですが、これは防止する必要がある。それと、」
出雲 「あのう、すみません、ついていけなくなってきました。」
鹿島 「あら、抽象的過ぎたわね、ごめんなさい。具体的といったのは、組合員になれる人を例えば○○組合や○○会のような団体に所属する者とかという風に規約で制限をかけることは可能だという事。組合員は運営者であり利用者でもあることから協力が必要とされる、単なるお客さんとは違うから、特定の同業者の団体に所属している者と規約で制限することが可能だという事ね。」
出雲 「意図しない行き過ぎや不足というのは何ですか?」
鹿島 「国保組合の守備範囲は規約で加入を制限することのできる○○会や○○組合より広い場合があるの。例えば○○が労働組合なら労働者だけだし、同業者組合ならば技術職だけの職種組合も考えられる。前者は事業主が落ちるし、後者は事務職や営業職が落ちる。経営者団体ならば労働者は落ちる。承知の上で制限しているなら構わないけれど国保法の要請ではないにも係わらず自分たちの団体の制限が国保法の制限と勘違いしていたら不幸よね。国保組合を経験することによって逆に自分たちの組織の制限を見直した団体もあったのじゃないかしら。」
鹿島 「事業所についてもう少し話しておきましょう。事業所は経済的活動する単位といいましたが、個人とも法人とも異なる場合がある。大きなビルを建てる会社が魚の養殖場やら薬品開発研究所やら持っていてびっくりさせられることがあります。前に巨大会社の社長が自分の会社が何を商売にしているか全てを把握してはいないというのを聞いたこともあるわね。不動産屋と食堂を経営する個人もいる。法人とか個人とかは資本の単位で、事業所は場所の単位なので異なる場合がままあって混同してはいけません。医療保険制度は被用者保険も国民健康保険も最終的には人に適用しますがが、健康保険などの被用者保険は事業所の法人・個人という資本形態と従業員数という規模の基準で事業所を通じて強制的に適用されるのに対し、国民健康保険は後期高齢者医療制度・被用者保険が適用される人を除き住所を通して強制的に適用する。国保組合は住所を通じて強制的に適用する枠内において「事業または業務」という仕事の内容分類で組合員を組織できる任意制度ということになります。この大枠はしっかり押さえてください。」