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資格 住所地主義特例

鹿島 「国保は住民基本台帳法の住所により適用されるのが大原則ですが、二つの例外パターンがあるので話しておきます。共通するのは、教育や保護、養護など、ある目的のため、施設そのもの、または施設周辺に、元々の住所から住民票を異動しているにもかかわらず、異動先の公営国保の被保険者にはならないという事です。違いについては、あっ、いけない、先に条文を確認するのが基本よね。」
 
出雲 「どこですか?」
 
鹿島 「条文は、かなりとびますが、第116条と第116条の2になります。第116条の2は、少し長いのと、途中から国保組合は関係なくなるのと、比較のために、カッコ内と後半を略しますね。」
 
 
(修学中の被保険者の特例)
第百十六条 修学のため一の市町村の区域内に住所を有する被保険者であって、修学していないとすれば他の市町村の区域内に住所を有する他人と同一の世帯に属するものと認められるものは、この法律の適用については、当該他の市町村の区域内に住所を有するものとみなし、かつ、当該世帯に属するものとみなす。
 
(病院等に入院、入所又は入居中の被保険者の特例)
第百十六条の二 次の各号に掲げる入院、入所又は入居の所在する場所に住所を変更したと認められる被保険者であって、当該病院等に入院等をした際他の市町村の区域内に住所を有していたと認められるものは、この法律の適用については、当該他の市町村の区域内に住所を有するものとみなす。(略)
 
出雲 「なんか似ている条文ですね。違いは・・・・ああ、第116条では、「かつ、当該世帯に属するものとみなす」と書いてあるのに対して、第116条の2は書いてない。ということは、その世帯ではなく、別に世帯を形成しているという事になるんですか?」
 
鹿島 「その通り。実は例外も認められているのだけれど、それは後で話します。」
 
出雲 「どうして、現住所地の公営国保に入らないのですか?」
 
鹿島 「出雲さんはなぜだと思う?」
 
出雲 「つい先日まで学生でしたが、私は自宅から通っていたのでよく分かりません。でも、親元を離れた学生たちは、授業料と家賃の負担が重くてバイトしなくては学生を続けられないと言っている学生がかなりいました。もし、単独世帯として、住所地のある国保に入ったら生活できないと思います。学生はそれが理由じゃないでしょうか。」
 
鹿島 「そう、たいへんよね、学生さんは学問をするために学校に行っているのにバイトしなければ学生でいられないなんて、凄く変よね。奨学金も重くのしかかるだろうし。社会人をゼロからではなくマイナスからスタートさせるなんて、歪んでいるとしか思えない。あら、話がそれてしまった、元に戻して、出雲さんの出た大学は、学生さんは何人くらいいたの?」
 
出雲 「たしか2万人ほどだと思います。郊外でしたが、周辺にもいくつかの大きな大学がありました。」
 
鹿島 「そのお金のない学生さんが全て居住地の国保に入ったら、その公営国保の財政はどうなると思う?」
 
出雲 「・・・そうか、持たなくなる。入院入所者も同じ理屈ですか?」
 
鹿島 「その通り。さて、次は国保組合としての事務の話です。「同一世帯に属するものとみなす」という文言がある第116条の修学中の被保険者については公営国保も国保組合も資格はそのままです。しかし、第116条の2の適用を受ける被保険者については、公営国保では記号番号は代わって別管理となりますが、入院等以前の公営国保に残ることに対し、国保組合では家族喪失となり、入院等の前に住所があった公営国保に新たに単独で加入することになります。」
 
出雲 「実際の事務は随分異なることになるのですね。」
 
鹿島 「次に例外の話をしましょう。これが難解でもあるし、実務上も簡単にはいかないのよ。条文は先ほど確認したので、次は通知を確認し整理しておきましょう。法116条の2は、平成6年(1994年)に公布された健康保険法等の一部を改正する法律(平成六年法律第五六号)で新設されました。この法律に関連して、「平成7年3月9日 保険発第三七号 社会福祉施設入所者に対する住所地主義の特例の創設について」という通知が出されています。この通知の趣旨及び内容に次の記述があります。」
 
 
なお、措置により他の市町村から転入してきた者が、組合が行う国民健康保険の被保険者であった場合には、当該被保険者が組合員の資格を喪失しない場合を除き、原則として、当該他の市町村の国民健康保険に加入することとなること。
 
 
この記述から読み取れるのはふたつ。ひとつは、組合員としての資格要件維持という根本的な問題は残りますが、国保組合の組合員ならば資格は当然そのままだということ、ふたつめは「原則として」とあるから例外もあると確認できること。この例外に該当する通知は、「(昭和34年6月17日 保険発第九〇号の二 各都道府県民生部(局)長(新潟県民生部長を除く。)あて厚生省保険局国民健康保険課長通知)です。この通知には次の記述があります。
 
 
なお、児童福祉施設に入所している児童又は里親に委託されている児童であって、扶養義務者のあるものについては、当該扶養義務者の属する世帯に属するものとして、当該住所地の国民健康保険の被保険者として取り扱うことができる。
 
 
 この記述で注意しなくてはならないのは最後の「できる」。できるのだから、そうするかどうかは保険者に任されているという事になります。素人考えだし余計な事なんだけれど、私自身は釈然としていなくて、法116条の2の新設は、この通知が出てから30年以上も後なのに改正するときに何とかならなかったのかということと、条文を通知で否定することに抵抗があるのよ。それに「できる」規定は、なんでもかんでも勝手にやっていいという事ではなく、この場合は児童福祉法の趣旨に沿った取り扱いをしなくてはならない。子供の命に関係することもあるから本当に難しい。国保組合の役職員に児童福祉の専門知識など普通は無いし、家庭の状況なんて知ることなどできません。組合員さんとご家族がおっしゃっていることと、詳しくは聞かせてもらえないけれど施設のご担当者の認識は異なっていることも多いのです。措置入所した子供さんが困らないようにすることを第一に、組合員さんとご家族の方のご理解を得るようにしていたけれど、本当に大変です。だからかどうかは不明だけれど、このできる規定を一律に実施しているところがほとんどじゃないかしら。出雲さんも、そういうケースに当たったら、上司に相談しながら、慎重に迅速に毅然と対応してください。最後に、イロハのイなので順番は真逆になってしまったけれど、第116条の2に該当する件なのかどうか、しっかり文書で確認してください。それと、」

出雲 「すみません、私はいま飽和状態になっております。」

鹿島 「そうよね、実務で担当したら、否が応でも経験するから、その時までに読み返しておいてください。じゃあ、肩の力を抜いてもいいから、もう少し付き合ってもらいます。」

出雲 「うっ、続けるんですね、肩も何気に「できる規定」だし。」

鹿島 「オホホホ、じゃあ手短に一言だけ。修学中の被保険者の特例にも、別居・離婚・虐待などが絡んでいたりしていることがあります、以上。復習しておいてね。」

(2024年12月5日)


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