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給付 一部負担金 その1

鹿島 「今日は第42条の一部負担金の話をします。一部負担金とは、第36条第3項の規定により療養の給付を受ける際に、その費用の一部を保険医療機関等に支払うお金のことです。第36条第3項とあるから保険外併用療養費も含まれますね。現在の特徴は3つあって、一部負担金の計算は定額ではなく定率であること、年齢と所得によって負担率に違いがあること、負担率変更は月単位であることです。ちなみに今は4つに分けられていますね。条文を確認しましょう。
 
(療養の給付を受ける場合の一部負担金)
第四十二条 第三十六条第三項の規定により保険医療機関等について療養の給付を受ける者は、その給付を受ける際、次の各号の区分に従い、当該給付につき第四十五条第二項又は第三項の規定により算定した額に当該各号に掲げる割合を乗じて得た額を、一部負担金として、当該保険医療機関等に支払わなければならない。
 
一 六歳に達する日以後の最初の三月三十一日の翌日以後であって七十歳に達する日の属する月以前である場合 十分の三
 
二 六歳に達する日以後の最初の三月三十一日以前である場合 十分の二
 
三 七十歳に達する日の属する月の翌月以後である場合(次号に掲げる場合を除く。)十分の二
 
四 七十歳に達する日の属する月の翌月以後である場合であって、当該療養の給付を受ける者の属する世帯に属する被保険者について政令の定めるところにより算定した所得の額が政令で定める額以上であるとき十分の三
 
四のカッコ内は除きました。」
 
出雲 「一、二、三、四と書いてあります。一は、「六歳に達する日以後の最初の三月三十一日の翌日以後であって七十歳に達する日の属する月以前である場合 十分の三」、って、・・・ううん?」
 
鹿島 「その層は義務教育就学以後から70歳までということなのだけれど、その前に年齢に関する定義を押さえておく必要があります。「年齢計算ニ関スル法律」という法律があって通常はこの法律で計算します。短い法律だから確認しておきましょう。
 
明治三十五年法律第五十号(年齢計算ニ関スル法律)
①  年齢ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス
②  民法第百四十三条ノ規定ハ年齢ノ計算ニ之ヲ準用ス
 
 まずは①で誕生日から計算するということです、当然だろうと思うかもしれないけれど、「期間の計算」のところで説明した通り民法第143条は初日不算入が原則だから、年齢計算は民法と異なる計算をするわけです。でも、②では民法143条を準用すると書いてあるわね。一度説明したので詳しくは話しませんが、簡単に言えば、「暦に従って応当日の前日で満了する」でした。なので誕生日の前日に歳をとるという訳。で、国保法の「六歳に達する日以後の最初の三月三十一日の翌日以後」というのが、どうして義務教育就学以後かというと、学校教育法の第17条には次のように書かれています。
 
第十七条 保護者は、子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。
 
 ただし以下は省略しました。満6歳で小学校入学は常識なので説明不要かと思うけれど、注意点は4月1日生まれの子供で、年齢計算に関する法律では応当日の前日で満了だから6歳誕生日の前日となる3月31日には満6歳になって小学校に入学するというわけ。それで、「六歳に達する日以後の最初の三月三十一日の翌日以後」は小学校就学後と同じ意味になるのよ。」
 
出雲 「飲み込むまで少し時間が必要ですが、4月1日生まれは早生まれなんて聞いたことありますが、それですか?」
 
鹿島 「その通り。そこが始まりで、終わりは七十歳に達する日の属する月以前である場合でしたね。その間は十分の三だから3割負担ということですね。聞いているだけでは退屈でしょうから、次は自分で考えてみてください。Gさんは7月1日が誕生日で今年70歳になりました。Gさんが第42条第1項の一に該当するのは何月まででしょうか?」
 
出雲 「えっ、あ・・・70歳に到達するのは6月30日、その月を含んでいるから6月までです。」
 
鹿島 「正解です。じゃあ、7月以降はどうなるの?」
 
出雲 「ええと、条文は・・・、2は・・・これは小学校に行く前だから違うか、3は・・・あっ、これだ、十分の二の2割負担・・・でも、括弧書きがあるぞ・・・うーん・・・所得によっては十分の三の3割負担・・・て、ことですか?」
 
鹿島 「正解です。ちなみにその4にあたる人たちを「70歳以上の現役並み所得者」と呼んでいるわね。何か質問ある?」
 
出雲 「ありません、よくわかりました。」
 
鹿島 「それじゃあ、私から質問を出します。制度がこうなっているというのは基本だけれど、なぜそうなっているのか理解することも国保組合職員として大事なことです。その意味で質問しますが、なぜ負担割合が異なっているのですか?」
 
出雲 「えっ・・・4の「現役並み所得者」は現役並みの所得だから、1の義務教育就学から70歳までの・・・子供は現役じゃないよな・・・でも、親は働いているか・・・、とにかく所得が高いから3割負担ってことですか・・・よくわかりません・・・。」
 
鹿島 「そう、そこまで理解していれば合格です。70歳以上については現役と変わらないような所得があるのだったら公平に負担しなさいってことですね。私には保育園に通う子がいるから実感しているけれど、未就学児くらいだと、体も安定していなくて感染症とかたくさんの病気を経験する時期だし、ちょっとしたことで急に悪くなってしまうことがあるのよ。窓口で払う一部負担金がハードルになってお医者さんにかかるのを躊躇すると手遅れということもあり得るの。さらに未就学児については自治体の福祉で医療費助成の対象になっている場合がほとんどだから実際には窓口での負担はかからないようにできているわね。」
 
出雲 「よく考えられているんですね。」
 
鹿島 「まあ、いろんな主張があって、政治的な判断も大きいわね。例えば70歳以上現役並み所得者の所得は現役並みかもしれないけれど、お医者さんのかかる頻度や費用は、決して現役並みではないわね。厚生労働省の2022年度の国民医療費の統計資料のうち年齢階級別国民医療費の一人当たりの数値を見ると、65歳未満は209,500円なのに対して65歳以上では775,900円と3.7倍程度の開きが確認できる。定率負担で公平性を考えるときには使う頻度も充分に考慮すべきじゃないのと私は考えています。世の中のことって完全な間違いというのは少ないし、そんなことは相手にされないのだけれど、だいたいは一部分を強調するとか、一部分を落とすとか、そんなことですね。さてさて、ずいぶん長くなってしまいましたが、せっかく、「年齢計算ニ関スル法律」を出したので国保業務にも関係する話もしておきましょう。それは75歳以上の後期高齢者医療制度、「高齢者の医療の確保に関する法律」のことです。一言でいうと、この法律は「年齢計算ニ関スル法律」を適用しないらしくて、誕生日を75歳の到達日としているんです、どういうわけか。」
 
出雲 「どうしてですか?」
 
鹿島 「知らないわよ。厚生労働省に訊いてみたら。国の法律を行政機関が守らなくていいのかしらね?行政の裁量権の範囲内なんて偉い人はおっしゃっているようだけれど、百歩譲っても、「高齢者の医療の確保に関する法律」にその旨を条文として載せるべきだわ。おかげで私は混乱した。」
 
出雲 「そうなんですか(怖っ・・・・)」
 
鹿島 「思い出すと不愉快になるわね。さて、まだ一部負担金に関する条文はたくさん残っているわね。長くなるから今日はここで区切りましょう。今までの表にしたから復習しておいてね。」

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