八方美人の腹の中
最近気づいたのだけど、
わたしはおじさんに媚びるクセがある。
決してわたしはおじさんにモテるタイプではない。
それでもタイミーでいろんな会社に行くと、
どこに行ってもおじさん達が優しくしてくれる。
車で家まで送ってくれた人も何人かいた。
(さすがに家の近くで降ろしてもらった)
わたしは特別若くも美人でもないけれど、
おじさん達よりは若いから構ってくれるだけなのだろうと思っていた。
しかし最近ようやくその理由がわかった。
前職の添乗員時代、
ドライバーさんの機嫌を取りながら仕事をしていたからだ!!!
ほんとにこれ!間違いない!!!
本業は女ばかりの職場なので、
わたしは自分でもすっかり忘れていたけれど、
おじさんと働くと今でも無意識にクセが出るのだ。
添乗員になりたての頃、頼りにしていた先輩から、
「客とは二度と会わないけど、
ドライバーとバスガイドとはまた一緒に仕事をするから絶対に敵に回すな」
と教えられた。
意外と狭い業界だし、みんなお喋りだから噂はすぐに広まるのだ。
派遣添乗員はバスの運転なんてできないから、
まずドライバーには逆らえない。
バス会社からはバスガイドも来ているから、
もし敵に回すと完全に2対1になる。
(客はバスガイドがいとも簡単に操れる)
バスガイドがいないツアーでは、
ドライバーと2人で相談しながら進めなくてはならないので、絶対に味方になってもらわないといけない。
ドライバーもバスガイドも50代以上の人が多く、
当時20代だったわたしはだいぶ可愛がってもらった方だと思うけれど、
何があっても絶対に敵に回せない相手だったのだ。
だからわたしは今でもおじさんと話すときは必要以上にニコニコする。
わたしにはとても持てない荷物を持ってくれたら、「すごーい!わたしには持てなーい!」と言うし、
おじさんがちょっと危なっかしかったら「大丈夫ですか?」とすぐに声をかけるし、
仕事の愚痴を言われたら「大変なんですね」と言う。 おじさんがふざけて「バカじゃないの」と言ってきても笑ってその場を乗り切る。
職場ではこうするものだと思っていたけれど、
周りのタイミーの人とかを見ていたら違うようだ。
わたしはなんか変だ。自分でも薄々感じてはいる。
でもこうやってなんとかドライバーさんを味方につけると、雰囲気が良くなってその場に居やすくなった。
意外とバス会社の人も、どんな添乗員が来るのかドキドキハラハラしていたりするのだ。
派遣添乗員は普通の仕事ができない変わった中年男女が多く、ベテランBBA達は口調も気も死ぬほど強い。
だからそんなのと一緒にされたくないのもあって、
わたしはとにかく気を遣った。
わたしはあの人達とは違う、
安全でまともな人だと思われたかったのだ。
そしてドライバーさんに好かれると助かることがたくさんあった。
飛行機や観光船の時間に追われている時はドライバーさんが必死に急いで運転してくれた。
雨の日や駐車場が遠い観光地で少しでも外を歩かなくていい場所にバスを停めてくれた。
ホテルではいつも一人で食事をしていたけれど一緒に食べようと誘ってくれたり、
ビールをご馳走してくれた人もいた。
全員でぞろぞろ歩いて回る観光地で最後尾に付くと、いつも客のジジイに絡まれて本当に嫌だと言うと、
ドライバーさんはバスで休憩できる時間なのに、
わざわざ付いてきて一緒に歩いてくれた人もいた。
お局と同じツアーで1号車2号車にされたとき、
事務所で「あの人とは本当に無理です!!」と本気で文句を言っても変えてもらえなかったけれど、
現地でドライバーさんとガイドさんに挨拶したとき、
「今回は添乗員同士本当に仲が悪いので、申し訳ないですけど連携は取れません」と最初に謝ったら、
本来は添乗員同士で業務用携帯で連絡するところを、ドライバーさんが無線でやり取りしてくれたこともある。
あのときのドライバーさんは本当に優しくて良いおじさんだったので、
見るからに意地悪そうな顔のお局を見て、
「性格悪そうな顔してるもんな」とまで言ってくれてわたしはちょっと笑いそうになった。
わたしは今までそういう仕事の仕方をしてきた。
もしかしたらわたしも性格が悪いのかもしれないけれど、わたしは他のやり方を知らない。
いつもできる限りの愛想を振りまいておいて、
自分が困ったときには周りの人に助けてもらう。
今だって困ったことがあれば、
本業でもタイミーでも社員の人がいつも必ず何とかしてくれるし、
困ってないときでも誰かが手伝ってくれたりする。
わたしがニコニコするのは、自分のためなのだ。
何の能力もない要領も悪い美人でも若くもないただの地味なアラサー女が、
社会で迷惑をかけずに働くにはこうするしかなかった。
わたしはずっとこういうふうに生きてきたし、
これからもきっとこうやって生きていくのだろう。
あんまり仕事ができて代わりのきかない人になったら休みが取りにくくなってしまうから、
「いたら助かるけど、別にいなくてもなんとかなる」
くらいの気ままなポジションがわたしの理想なのだ。