悪口まみれのオフィス

添乗員はツアーの前後に打ち合わせや精算などの事務作業をオフィスでする。

今思えばそこは普通のオフィスではなかった。

とにかく悪口で溢れている。

出勤する度に声の大きいオバサン添乗員達が、

「前回のツアーでこんなバカな客がいて大変だった」

「こんなクソツアー、作った社員が乗ってみろ!」

「ヘッタクソな案内ばかりのバスガイドだった」

「あのホテルはこんなこともしてくれない」

などと、とにかく悪口まみれなのだ。(もちろん会社にもよると思うが)


入社したての頃、私はとにかく先輩がめちゃめちゃ怖かった。

「18歳から60歳近い人まで幅広い年代が活躍しています」と説明会では言っていたのに、実際に入社したら20代は自分だけで、周りは親より年上のキツそうなオバサンばかりだった。

しかも無駄に体育会系みたいな空気があり、先輩の言うことは絶対で、とにかく上下関係が厳しかった。

運動も体育会系の人も大嫌いなので部活には入らず、帰宅部を謳歌してきた自由人の私にとって、先輩添乗員は893みたいに恐ろしく、この頃はツアー中よりもオフィスに行く日のほうがずっと憂鬱だった。

オフィスに行くとまず先輩添乗員に挨拶をして回るように言われるのだが、隣に行って「新人の○○です!よろしくお願いします!」と言っても、ちらりと冷たい視線を送るだけで返事もしないBBAが数人いた。

今まで働いた会社にはそんな失礼な人はいなかったので恐怖だった。

すぐに私は挨拶回りをしなくなった。

添乗員の仕事は個人プレーなので、バス数台で行くツアーでない限り、他の人と話す必要はなかった。

だからわざわざあんな性根腐ったBBAに話しかけて嫌な思いをしなくてもお金は稼げた。

そして仕事にもBBAに気づかないフリをするのにも慣れた頃、別の先輩添乗員(この人も結構怖い)と連行することになった。

そのツアー中にトラブル(※自分のミスではない)が起き、先輩添乗員に渋々対処法を聞いたところ、

「あなた、わからないことがあっても先輩に何にも聞かないってみんな言ってるんだよね!だからこうなるんでしょ!」

といきなり説教された。(いいから対処法早く教えろ!!!)

それまで私はアンケートも良く、怒られるような大きなミスもしていなかった(むしろ褒められていた記憶がある)。ツアー中に客の前でミスするのが怖いので、わからないことは比較的優しい先輩に聞いて理解してからツアーに出るようにしていた。

だからきっと、挨拶をしない新人、というだけでありもしない噂をまき散らされ、勝手に悪者にされていたのである。

新人から挨拶されても無視するが、新人に無視されるのは絶対に許さない。

底意地の悪さを知り、私はますます893みたいなBBA達と関わる気が失せた。

恐ろしいオフィスだが、それでも半年も経てば同年代の後輩が何人かでき、後輩達のおかげでだいぶ居やすくなった。

私は新人さんに挨拶されたら、きちんと目を合わせて自分も名乗るようにしている。腐ったBBAには絶対にならない。