アラサーは生まれ変わりたい

年末年始は好きな人の工場で9連勤したので、
めちゃくちゃ気が張っていた。
朝早い日もたくさんあって、
他の仕事なら絶対に耐えられないスケジュールだったけど毎日楽しくて、
自分で言うのもなんだけど、
すごく生き生きとしていた。
でもその裏でわたしはちゃんと、
これは絶対反動がやばいやつだぞと、
ひそかに危機感を抱いていた。
土曜日に食品工場に行ったときも楽しくて楽しくて、
たぶんあれは躁だよなと自分でも思っていた。


昨日好きな人はお休みで、
黙々と作業をしながらわたしは、

「1回死んでリセットすれば、
わたしも休日に好きな人と並んで歩ける女になれるかな」


とずっと考えていた。
希死念慮が久しぶりに近づいてきた気がした。
まだ生理前ではないけれど、 
帰ってからも身体が怠くてなんかイライラする。
わたしは表向きは平気な顔をしているけれど、 
今週は2回行くのに1回しか好きな人に会えそうになくて、
こんなに無駄に稼いで上限に達してしまったら、
彼に会いに行けなくなるという焦りも凄いし、
本当はめちゃくちゃ落ち込んでいるのだ。



昨日も帰りの電車でイチャつくカップルを見て、
どうしてわたしは好きな人と会うこともできなくて、彼がいない工場で上限を気にしながらも結局働くしかないのに、
あの若い女の子は電車で好きな人に抱きつくことができるんだろうと思った。
もう羨ましすぎて代わって欲しかった。
たとえ100歳まで生きたって、
わたしは一生ああいう女にはなれないような気がした。
来世はわたしもああいうことをしてみたい。
やっぱり1回死なないとダメな気がする。


そんなことを考えながら、
今日も早起きして好きな人の工場に向かった。
祝日だから珍しく弟も家にいるのもあって、 
やっぱり今日もイライラする。
外を歩いていても怠くて帰りたくて、
とてもこれから好きな人のいるところに行くとは思えないテンションだ。
これでもし彼が連休だったらどうしよう。
とても立ち直れる気がしない。


工場に向かう道で、
姿勢がすごく悪くて、
髪がぐちゃぐちゃの女の人が前を歩いていた。
たぶんタイミーだ。
あの工場はほとんど人と話さないせいか、
昼間でもボサボサの頭でやって来る女の人もいる。
わたしも結局はああいうのと同じで、
貧乏だからこんなに働きに来るのだと、
好きな人だけでなくいろんな人達に思われてるんだろうなと思うと悲しくなる。



電車にいたら隣に座るのも勇気が要るけれど、
わたしは朝も恐怖のハイタッチ男に会うのが怖い。
だから珍しく同じ場所に行く人を見つけたので、
とりあえず後ろにくっついて行って、
挨拶でもして1人にならないようにしようと思った。


出勤するだけなのに、

なんでこんなに気を遣わなきゃいけないんだろう。



もう嫌すぎる。 
わたしは昨夜の帰りも知らないタイミーさんにそれとなくくっついてビビりながら帰ったけれど、
ドアを出たところでハイタッチ男に会ってしまった。
頑張って目を合わさないようにして、
お願いだからわたしに気づくなと念じたけれど、 
やっぱり馴れ馴れしく名前を呼ばれて、
それでもなんとかすれ違うと、
彼は1人で「オッケーです!」と言っていた。
あの人はすれ違った後にいつも1人で、
「また今度」とか大声で言っていて、 
わたしはそれが泣きそうになるくらい怖い。

先週話せるタイミーさんと帰ったときにも奴に会ってしまって、
わたしが「本当に怖い」と震えていると、
わたしより年上の女性タイミーは、
目の前で女の子に泣かれた男性みたいにうろたえてしまったので、
すごく申し訳ないことをしてしまった気がして、
わたしは話題を変えてなんとか笑った。
少女漫画なら、
こういうときに好きな人が守ってくれるはずなのに、
現実は違うらしい。
もし2日連続で奴に会ってしまったら、
どんな気持ち悪いことを言われるかわからないので、
お願いだから今朝は絶対に会いたくないのだ。



ドアを開けたところで、
ボサボサ頭の女の人に追いついて挨拶すると、

まさかの社員さんだった。


いつもハキハキしていて、
眼鏡をかけて産後みたいな体型だけど、
おそらく20代の女の子。 
近くで見たら、
学生みたいに重そうな黒いリュックを背負って、
茶色い柄物のコートを着ていて、 
髪の毛はたぶん梳かしてすらいなさそうだった。 
もちろん化粧なんてしていない。
でもなんとなく、
こんな生活感のある子が一生独身な気がしない。
きっと20代のうちに健康な子供を産んで、
良いお母さんになりそうな女の子だ。


でも清潔感の欠片もない、
わたしよりだいぶ年下の女の子。



どうして職場にあんなカッコいい人がいるのに、
こんな格好で出勤できるんだろう。
わからない。本当にわからない。
わたしよりずっと若くて、
毎日カッコいい男の人と働けて、
きっとわたしと違って彼と普通に話すこともできるはずなのに、
どうしてあんなひどい身なりで出勤できるんだろう。
昨日の彼のボロボロの上靴といい、
ここの人達ってそういうの無頓着すぎない?と思う。
わたしだって他の会社に行くときは、
ほぼすっぴんで髪も引っ詰めて適当な身なりで行くこともあるけれど、
華の20代女子(しかもイケメンワールド勤務)が勿体ないなと本気で思う。  


おばちゃんと代われるものなら代わって欲しいよ!!!


朝からひどい身なりの女子に圧倒されていたら、
今日は4人中2人が3階に送られてヒヤヒヤしていたけれど、
クソ女はわたしのところには来なかった。
無事に好きな人のいる1階へ向かう。


(続く)