アラサーは普通に好きな人に会えるようになりたい

今日は朝から好きな人の工場に行くのに、
ストーブの調子が悪いせいで、
2時間半室温一桁の中で支度してきた。
たまにいく冷凍のお肉やお魚を扱う冷蔵庫みたいな工場とほぼ同じ室温だ。
寒すぎてご飯を食べても味なんてしないし、
テレビを見ても頭に入らない。
今日はまつげパーマに行くからアイメイクができないのだけど、
そもそも部屋が寒すぎて化粧どころじゃない。
うちって被災地だったのかな。



今日いつにもまして帰りたくねー!!!




ホテル泊まりたいホテル泊まりたいホテル泊まりたいと思って検索したけれど、
わたしの地元はホテルが高いので、
安い順で見ても、
2500円のドミトリーの次に、
13500円のビジネスホテルが出てきた。最悪。
わたし今日交通費引いたら、
4700円くらいしか稼げないんですけど。



母親は昭和の人なので、
家電が壊れても使い続けるだろう。
我慢が日常みたいな人だから。
今朝わたしは散々文句を言ってきたけれど、
そもそも娘の話なんてろくに聞いてない人なのだ。
母親は室温一桁でも、
今日は休みだからと大好きなテレビを見ていたので、
わたしの文句なんか脳に残っちゃいないだろう。
最愛の息子が何か言えば、
買い替えてくれるかもしれないけれど、
娘のわたしには何の権限もないから絶望だ。


あー、マジでホテルに帰りたい。



昨日だってクタクタになって帰ってきたのに、
炊飯器の中のご飯は弟に食べ尽くされていて、
わたしはヨーグルトにグラノーラをかけて食べた。
わたしの困ったときのご飯はヨーグルトなのだ。
食べるものがないと連絡してくれれば、 
帰り道のスーパーでお寿司が半額になっていたから、
10貫299円で買えたのに。


わたしは極度の貧乏性だから、
お腹が空いていても近所で何か買って帰れない。



家に帰って食べ物があったら、
せっかく稼いだお金を無駄にした気になるから。
だから毎晩半額のお惣菜を恨めしく見ながら帰る。
今日帰るところがホテルだったら、
迷わずこれを買って帰るのになと思いながら。



家も仕事も好きな人も、
仮のほうが都合が良いのはなぜだろう。




母親と弟が仲良く暮らす家には居づらい。
仕事も本業よりタイミーのほうが快適に働ける。
好きな人は優しくないし、
そもそもわたしを見もしないけれど、
他の男の人達はみんなわたしに親切にしてくれる。
そういえばわたしの顔だって、
すっぴんよりも化粧したほうが絶対に見栄えが良い。
わたしは本来自分がいるべきところでは、
自分の居場所を見つけられないし、
本当に好きになってほしい人には、
いつも好きになってもらえない。
大学生の頃だって、
必死で勉強して第一志望の大学に入れたのに、
結局わたしはバイト先に居着いていた。
だからもうわたしはそういう人生なのだ。
リゾバでもして知らない土地で普通に話せる男を好きになれたら幸せになれるかな!


あんな寒い家に帰るくらいなら、
ニットで十分暖かい好きな人の工場で働いてるほうが絶対にマシな気がする。

わたしを1日使いませんか?


と思うけれど、
きっとわたしはいつものように何も言えずに、
14時には工場を出るのだろう。
まつげパーマ予約してるし!


外を歩いていても寒くて、
こんなときに恐怖のハイタッチ男に会っちまったら、
わたしは震えが止まらなくなりそうだ。
お願いだからいないでほしい。
恐る恐る工場の入り口のドアを開けて、
足音がしないのを確認してから階段を上った。

お願いだから来ないで。


しかしもう少しで階段を上り切るところで、
上から足音が聞こえてきた。
もう間に合わない。絶対にすれ違ってしまう。
お願いだからこの前みたいに外国人の子達であってくれと思っていたら、
目の前に恐怖のハイタッチ男が現れた。
終わった。怖い。


わたしは目を合わさずに挨拶だけしてすれ違った。
ハイタッチ男は今日は静かだったと思ったけれど、
やっぱりわたしの名前を呼んできて、
すれ違った後に「また今度」と大声で言っていた。


わたしは怖すぎて、
思わず好きな人の靴箱まで急いで階段を上った。
彼の靴箱には外靴があったから、
今日はいるみたいだったけれど、
わたしは正直もうそれどころじゃなくて、
カバンの中から上靴を探すふりをして、
下を向きながら息を整えた。



どうしてわたしはこんなに怖い思いをしないと、
好きな人に会うこともできないんだろう。



普通の女の人は、
普通に好きな人と連絡を取って、
普通にデートして、
普通に話したり触れたりできるのに、
わたしは休日に本業よりも早起きして、
変質者みたいのにビビりながら好きな人の職場に忍び込んで、
気持ちを隠しながら作業をしないと、
好きな人を一目見ることすらできないのだ。



こんなに怖い思いをして行ったって、
好きな人はきっと今日もわたしのことなんか見ない。
あの気持ち悪い男の話を誰かにしたところで、

「そんなとこ行くのやめたらいいじゃん!」


の一言で終わってしまう。
だってわたしはただのタイミーだから。
働けばお金をくれる現場なんて、
他に山程あるのだから。



恐怖のハイタッチ男だって、
おそらく何かしらの障害を持っている人なのだから、
わたしはわたしでもうそういう人なのだと思って、
普通に接したら良いのだろうと頭では思う。
でもあの馴れ馴れしさにわたしが少しでも乗ってしまったら、
また誰もいない階段で、
ハイタッチしたついでに手を掴まれて、
好きでもない男に手をにぎにぎされてしまうのだ。
34歳にもなる女が、
そんなことでいちいち過敏に反応するのはおかしいのかもしれないけれど、
ニヤニヤしながらわたしの手を握るハイタッチ男は、
彼氏いない歴12年の女にはかなりキツかった。
いくら手とはいえ、
好きでもない男に身体をベタベタ触られるのは、
今文章を書いていても鳥肌が立ってしまうくらいには無理だ。


今日のタイミーは男性もいるし、
どう見てもみんな1階に行きたい人達だ。
お願いだからこの中で一番若くて言うことを聞きそうな顔のわたしが3階に送られませんようにと、
また心の底からヒヤヒヤしながら待っていたら、
今日は全員1階だった。
頼むからいつもこうであれ!!!
本当にどうして好きな人に会いに行くだけで、
わたしは毎回毎回こんなに大変なんだろう。つらい。


(続く)