大卒だけど高卒のふりしてる話②
添乗員の仕事を始めて2年も経たない頃だっただろうか、「あなたはできる子だから大丈夫!」と言われるようになった。
最初はお世辞だろうと思って相手にしていなかったが、いつしかいろんな人から似たようなことを言われるようになった。
ツアーの準備や精算を早々に終えて他の人より早く帰る時、指示書のミスを指摘した時、アンケートが悪くて怒られた時でさえも、
「あなたは仕事はできるんだから頑張りなさい!」と決まり文句のように言われた。
私は事務処理は得意だが、他人の気持ちがさっぱりわからず言い方も相当キツかったので、「完全に理系の人だよね」と言われたことも数回あった。(でも実は文系である)
最初はもちろん嬉しい気持ちもあった。
入社早々先輩方に悪い意味で覚えられ、陰口を叩かれまくっていたので、たとえ事務仕事だけでも他の人よりできるのは誇らしかった。
しかし仕事が多忙になり寝不足になると、どうしてもミスをしてしまう。
ただでさえ悪口まみれのアンケートを抱えているのに、精算までミスをしてしまうと自分の唯一の取り柄が消えた気がした。
精算の時に、印鑑を押し忘れたなどのくだらないミスで呼ばれると人一倍恥ずかしくなった。
一応事務仕事は得意なキャラなのにこんなことで呼び出されるなんて。アンケートも散々だったから後からまた別で怒られるのは目に見えている。
せっかく学歴を隠して伸び伸びと働きたかったのに、結局周囲に勝手に優等生の烙印を押されてプレッシャーを感じている自分が虚しかった。
これじゃ学歴を正直に書いていた時と同じじゃないか。
結局どこに行ってもこのキャラなんだなと思うと哀しくて哀しくてやりきれなかった。
たとえ履歴書を誤魔化しても、優等生扱いから逃れられない自分を呪った。
○大卒でも浮かない、ちゃんとした会社に入社することさえできれば、こんな目には遭わなかったのに。
この社会に対する恨みは、きっと一生消えないと思っている。
それでも私は今の会社に入社する時も高卒ということにした。
「○大の人」と言われないため、入社前から他人に過度な期待をされないためにはそうするしかなかった。
そしてやはり、それは正解であった。
私に仕事を教えてくれる年下の正社員の女の子は高卒だった。
もし学歴を正直に書いていたら、高学歴の年増女なんて扱いにくいだけだから採用されなかっただろう。
今の会社でも、英語ができる人や看護師資格を持っている人が面接に来たら「どうしてこんな人がうちなんかに来るんだろう」と社員の人達が騒いでいる。
それを見ると、私はやはり高卒ということにしておいてよかったと本気で思う。
私は面接の度に「お願いだから、今の会社に昔の知り合いが入社して来ることがありませんように」とだけ密かに願っている。
また私は「同じ大学を出ている人に会わない限り、自分の学歴を墓場まで持っていく秘密にする」と決めている。
何かの間違いで私が結婚することがあっても、相手が同じ学歴かそれ以上の大学を出ていなければ、本当のことは言わないつもりだ。
私の部屋の書類を漁って○大の卒業証明書を見つけない限り、バレることはないはずだから。
そしてもしこれを学生さんが読んでいたら伝えたいのは、
《地方都市で平和に暮らしたいなら、地元で1番の学校だけは出るな!》
ということだ。
コミュ障なら特にそうだ。
地元の大企業の面接を突破できるだけのコミュ力がないなら、下手に目立つ大学だけは出ない方が身のためだ。
大学なんて、同じところを出てる人が「あ、後輩だ」と気づくくらいのありふれた私大で十分なのだ。
結局、どこで何をしたってコミュ力が高い人にはかなわないのだから。
ガリ勉が勉強だけして旧帝大に入ったって、世の中に必要とされることは絶対にないということを、私は大人になってから痛いほど学んだ。
死物狂いで無駄な努力をする若者が、地方都市で生きづらさを抱える高学歴の人間が、一人でも減るようにおばさんは願っている。