やっぱ陽キャにはかなわんて

今日も運送会社でバイト。
今日もいつもの女の子は来ない。憂鬱。
「行きたくねえ」とため息をつきながら向かう。
7月まではこんなことなかったのに。

でもこんな直前にキャンセルしたって他の仕事はもう無いし、
今はキャンセル率がちょっと高めなのでこれ以上上げたくない。

ていうかなんでキモ男達のせいでわたしが仕事キャンセルしなきゃいけないわけ???


絶対におかしい。
膝にできたほぼ内出血の新しいアザを見ても思う。
3月からずっとあんなにアザまみれになって必死に仕事を覚えたのに、
どうしてわたしがやっと見つけた食い扶持を諦めなければならないんだろう。
クソゴミ男達のせいで。許せない。


運送会社に向かう途中、
電車の中から好きな人の工場の近くにあるスーパーの看板を見つけるのが習慣になっている。
高層マンションに埋もれそうなイオンの看板。
眠くてボーっとしていたら見つけられない日もある。
でも今日もきっとあの辺でわたしの好きな人も仕事をしているんだなと思うし、
お願いだから週末もいてよねといつも念を送っている。

考えてみれば、
わたしは添乗員時代も好きな人のいる温泉街の近くにある標高の高い山を見て、
「彼も今頃あの山を見て煙草吸ってたりすんのかな」と思って地獄のような仕事を何とか乗り切っていた。
近くのホテルに泊まるときはいつも窓から彼のホテルを見ていたし、
遊覧船に乗ったり湖の見学だけで終わるツアーのときもいつも次こそは彼のいるホテルに行けるよう念を送っていた。

シワも白髪も昔よりずっと増えたのに、
わたしはこういうところだけは20代の頃から何にも変わっていない。
強いて言えば山が看板になっただけだ。
そりゃそうだ。

あれからわたしは何の恋愛経験も積んでいないのだから。



昔好きだった人はホテルマンだったから行けば話せたけれど、
今好きな人は工場の人だから雑談なんてできない。

わたしは1年以上あの工場に通っているのに、
回想するネタがほぼ無いことに気づいた。



だってあの人と指示以外で話したことなんてほとんど無いんだもん。笑っちゃうよな。
わたしなんでそんな男にしがみついてんだろ。
切り替えの上手い人ならとっくに見切りをつけるに違いない。
でも変に真面目なわたしは、
通い続けていればいつか彼と話せる日が来るかもしれないなんて馬鹿な幻想を捨てきれないでいる。
週末あの人に会えなかったらわたしもう生きていけないと思い始めている。

運送会社だって、
たかだか1000円ちょっとのためにわざわざ化粧をして交通費をかけて通うことなんてないのだ。
別にわたしが来なくても誰も困らない。
むしろ男性が来たほうがわたしが持てない荷物も軽々と持ってくれて良いに違いない。
わたしが心底嫌な顔をして相手をするよりも、
知らないタイミー同士で不親切な会社を何とか乗り切るほうが良いに決まってるし。
わたしが行かなきゃいいのだ。
泣きながら通うほどの価値があそこにないのはわかってる。


でも何でも始めるよりも止めるほうが難しくて、
わたしはたぶん一生実ることのない片想いも、
自分がいないほうが良い現場も断ち切れずにいる。


本当は全部捨てちまいたいよ!!!!!
でも会いたい人がいない生活はつまらないものだし、
来月の土日は全然働ける日が無いので平日の現場は大事なのだ。
たとえ1000円ちょいにしかならなくても。

…また同じ曲を延々と聴いている。
添乗員時代も仕事が嫌すぎるとき、
空港で同じ曲を延々と聴いてボーっとしていた。
変わらない。
わたしはあの頃と何にも変わっていない。


今日はおじさんタイミーが来た。
チャラい男の子いわく経験者らしい。
わたしには寄って来ないので大変助かった。
あの人ならまだいい。
今日は着くなり仕事が始まったし、
(いつもは大体待たされる)
チャラい男の子が早々にわたしを連れて行ってくれたので2人にならずに済んだからだと思う。

たぶんここに25年勤めているおじさんが指示出しが劇的に下手なのだ。
だからいつも新人タイミーを平気でわたしに丸投げしてくるし、
昨日も別の社員さんにおじさんは怒られていたし、
今日もチャラい男の子がうちの会社はあたおかばかりだと嘆いていた。
ドライバーさんは1人仕事だからみんな我が強くて協調性がないのは何となくわかるような気がする。


それでもチャラい男の子はなぜか今日トラックの中で「世代でしょ?」と浜崎あゆみを流してくれた。


…うん、わかるけどちょっと上かな。


わたしが正直に言うと、
何流行ってたのと聞かれ、
わたしは頑張って推しじゃない音楽を思い出す。
うーん、うーん、何流行ってたっけ?
33歳のヲタクは昔流行っていた歌が思い出せない。
それでもなんとか頑張って思い出して、
「オレンジレンジとか大塚愛とかの世代かも!」
と言う。
そうだ、わたしが中高生のときはそんな感じだ。
それで何となく世代が伝わったらしい。
彼は平成12年生まれで9歳下だもの、
チャラ男とヲタクおばさんだし、
たぶん仕事じゃなかったら全く話は噛み合わないだろう。
彼はなぜかその後にSEAMOのマタアイマショウを流してくれた。
おばさんはちょっと懐かしい。
これも高校生のときか?


しかしこの子今日めちゃくちゃ疲れてんのに、
なんでこんなことしてくれるんだろ?
よくわからない。
彼氏いない歴11年のわたしは、
男の人と車で2人きりになることも、
男の人がわたしのために何かをしてくれることも今までほぼなかったので、
どういう反応をしたら良いのかさっぱりわからない。女扱いされるのは好きだけど、
なんて言ったら良いのか全くわからない。テンパる。
こういうときは褒めたらいいのか?でもどうやって?
たぶんつまんないおばさんだと思われてるだろうな。


でも妄想力豊かなアラサーは、
好きな人もこんなふうに音楽流したりしてくれるのかなとつい想像してしまう。
想像しただけでドキドキする。
…あの人たぶん車運転できないと思うけど。


わたしはたぶん9歳下のチャラい男の子にいつも好きな人の姿を重ねている。



トラックで2人きりで話すとき、
2人で伝票を見ていたら彼がなぜか肩がぶつかる距離に寄ってくるとき、
わたしが持てない重たい荷物を彼が軽々と持っているとき、
彼もこうなのかなといつも想像してしまうのだ。

…いやわたしの好きな人はどう見ても陰キャだから、タイプが全く違うけどさ!!!

でも「もし彼だったら…」と想像する時間が好きで、わたしはここにずっと通っているような気がする。
男の人と話す練習だなんてウソだ。
わたしは妄想のネタに9歳年下の男の子を利用しているのかもしれない。
きもちわりいぜアラサー!!!


しかしチャラい男の子も別にわたしに気があるわけでもないので、
タイミーの話をしているとき、
わたしが「女の子来ないかなぁ…」と嘆いていたら、
「レビューに”女の人でも働きやすいです”って書いてみたら?」と言われた。なるほど!!!
彼は飲食店で働いていたこともあるので、
やっぱり口コミは大事らしい。
そしてたぶん彼も女の子に来て欲しいのだろう。
そうだよね、いつもいつも9歳も年上の地味なおばさんじゃ可哀想だよね。
わたしも42歳のおじさんじゃたぶん全くときめかないもん。
そんなわけで今日のレビューに書いてみるつもりだ。
わたしもいつもの女の子も、
「いつもありがとうございます」とか、
「来週もよろしくお願いします」とかしか書いてなかったのだ。

やっぱり仕事ができる人は発想が違う。


きっとこういう人なら自分に全く興味のない異性にずるずると1年以上も片想いなんてしないんだろうな。
これで上手くいったらそっちのアドバイスもして頂こうかなとアラサーは密かに企んでいる。
いや、タイプは全く違うけどさ。