ナチュラルメイクは難しい

昨夜家に帰ると珍しく弟に、
「今日駅まで行くのに〇〇のほう通ってた?」
と聞かれた。
好きな人の工場に行くときのわたしを見たそうで、



「バイトに行く格好じゃないわ」




と弟はドン引きしたらしい。
「あれで運送会社に行ってるの?うちの会社なら…」と言うので、
「いや昨日は工場だよ」と返したけれど、
たいして変わらないか。



わたしは昨日はお気に入りのくすみピンクのロングコートを着ていた。
いつも週に3回通っているだけなのに、
なぜかカバンも靴もどんどん黒くなっていく運送会社で働いているので、
平日は黒い服しか着られない。
だから週末は明るい色の服を着たくてたまらない。
それだけなのに弟はわたしを見て、
「私服の自己主張が激しすぎる」と引いていた。
わたしの弟は地味で真面目な30過ぎの事務員だ。
いつもの運送会社で会う明るい20代のドライバーさん達よりも、
たぶんわたしの好きな人とタイプは近い気がする。



もしかしたらわたしは、
好きな人にもそう思われているのだろうか。



好きな人と行き帰りに会うことはないから、
コートは見られていないけれど、
わたしあの工場に行くとき、
なぜかいつもピンクの服着ちゃうんだよな。

バイト後に美容室とかの予定も入れるので、
尚更遊びに行く服装で行ってしまう。
でもあの工場にまで黒い服で行ったら、
わたしは年に数回のライブくらいしか、
かわいい服を着ていく場が無い。
洗濯して干していた、
いつも運送会社に着て行く、
弟のお下がりの紺のパーカーを指さして、
「だって王子のとこにあれ着ていくのは嫌だもん」
とわたしが言うと、
「バイトなんだからああいうので良い」と言われた。
えぇ、テンション下がるぅ…



昨日仲良しタイミーさん達と話していて、
わたしが好きな人よりも年上に見えている(おそらく年上だけど)のがわかったのでその話もすると、
母親がわたしへのダメ出しに目覚めたのか、
「あんたは髪型も古くさいから老けて見えるんだわ。
今どきそんな重たい髪型の人いないでしょ。」

と肩甲骨が隠れるくらいの黒髪ロングのわたしを見て言った。
母親は娘のロングヘアが昔から大嫌いなので、
何かにつけて髪を切れといつも言うのだ。
でもわたしは縮毛矯正をかけているので、
その上カラーもしたら髪が傷むし、
そもそもわたしはロングが好きなんだもん!
白髪が増えてきたからあと何年できるかわからないし…。


それから化粧も濃いと言われた。
「目の上そんなに塗るかい?」と、
わたしの顔を見て言う。
今日はラベンダー色のニットを着ていたので、
アイシャドウも薄いラベンダー色を入れている。
「黒いのも太い!」とアイラインにもダメ出しを食らった。



これには理由があって、
わたしは若い頃付き合っていた男が、
垂れ目の家系だという話をしていたときに、
彼がわたしの目をじっくり見て、

「吊り目だね」


と言ったのだ。
たしかにわたしの目尻は若干上に上がっている。
言われて見なければわからないくらいだけど、
わたしはあれがいまだにショックというかもうトラウマで、
だからアイラインは長く太く引くし、
濃い目のアイシャドウを目尻に入れる。
少しでも吊り目に見えないように。
女は垂れ目のほうがかわいいに決まってるのだ。
しかし最近好きな人の工場から帰る度に母親が、
「あんた化粧濃いよ!」と言ってくる気がする。





そんなわけで今朝は、
おとなしく紺の無地のニットを着ていたら、
「今日は地味にしていくのかい?」と言われた。
今日はどうせ好きな人はお休みだろうから、
多少気の抜けた顔でもいいような気がしたのだ。



わたしはいつも、
発色の良いマキアージュのチークを使っている。
廃盤だけど。
リップはドルガバのマットのレッドを使っている。
これは本当に発色が良すぎて、
人を食った妖怪みたいになるので、
薄く伸ばして使っている。
この発色の良すぎる化粧品たちを今日は使わずに、
この前買ったけど色味がなさすぎて仕上げにしか使っていないエクセルのラベンダーチークだけを使い、
リップも色味がなさすぎてグロス代わりに使っている
中国のやつにしてみた。





化粧を終えて鏡を見ると、
わたしにはシミだらけの疲れたおばさんに見えた。



紺のトップスがまた顔色を悪く見せている気がする。
やっぱりトップスは明るい色のほうが良いのだ。
「なんかシミだらけだから、
やっぱり色でごまかさないと、
くたびれた主婦みたいじゃない?やだやだ!」
とわたしが言うと、
「あんたはどう見ても主婦には見えないから!
そういうのは雰囲気でわかる!
そしてファンデーションをやめろとは言ってないよ?
あんたは目の上が真っ黒なの!」

と母親に言われたので、
わたしは気になる目の下のシミの部分にファンデーションを塗った。



わたしが老けて見えるのは、
この目の下のシミ達と笑いジワのせいだと、
自分では思っているので、
わたしはこの前もバイトの休憩中に、
美容皮膚科のサイトを見ていたけれど、
母親に言わせれば、


わたしの化粧は色が多すぎて、
それがかえっておばさんに見えるらしい。

(もしかしたら若い頃に音楽ホールや観光バスで働いていた名残かもしれない…)



「今どき目の上がそんな色の人いないでしょ!」
と言われたので、
「ええええ昨日王子と1メートルくらいの距離で2回も目合ったんだけどやばかったかな!!!!!」
とわたしは思わず焦ってしまう。
それでも今日もやっぱりマキアージュのラベンダーカラーのアイライナーを見てしまった。かわいい〜!
わたしはいい年こいてピンクかラベンダーのアイシャドウしか持っていない。

やっぱり王道のブラウンのアイシャドウを買ったほうが良いのだろうか。


なんか汚く見えるから嫌なんだよな。
幅広二重でも、
まぶたの上に付いたりシワに食い込んだりしなくて、汚く見えないブラウンアイシャドウはないのだろうか。
いやそもそもアイシャドウをやめるべきなのか。
なんかつまんないな…。
今日はこんな化粧にこんな格好じゃ、
休日なのにテンションが全く上がらなくて、


なんかまるで生活指導を受けてメイクを落とされた女子高生のような気分だ。



わたしはクッッッソ地味なガリ勉だったので、
そういうので怒られたことはないけれど。




そんなことを考えながら、
今日はひたすらシーツを入れていた。
やっぱり好きな人はお休みで、
グレーの上靴が珍しくキレイに揃えて置いてあった。
ゆっくり休んでまた火曜日と土曜日に現れてほしい。



帰り際に、
昨日散々イケメントークをした、
仲良しタイミーさんに会った。
今日は入れ違いなのだ。残念。
「母親に化粧濃いって怒られたから、
今日薄くしてきたけどなんか落ち着かないです」
とわたしが言うと、



「言われてみれば今日は薄いし、

なんか幼く見える!」



といつもバッチリメイクの彼女は言った。