好きな人に会えなくなって1日目

昨夜は家にあったチャミスルを飲んで寝た。
いつも倉庫で運んでいるチャミスル。
「一体どんな味なんだろう」とだいぶ前に言ったら、
母親がなぜか買ってきてくれたのだ。
お酒は良いことがあったときに飲むようにしているけれど、
昨日はなんか飲まないとやっていられない気がした。


13%のチャミスルを氷割りで飲むと、
空腹だったのもあってすぐに酔いが回った。
たぶん今夜はこのまま何も考えずに眠れるだろう。
本当はもっと飲みたかったけれど、
わたしの本業は細かい数字を見なくてはならないので二日酔いでやるのはかなりキツい。たぶん吐く。
だから程々にして0時半過ぎには寝た。

好きな人に2ヶ月以上会えなくなる。
もしかしたらもう会えないのかもしれない。


そんな不安でいっぱいのままお酒を飲んで寝たのに、
朝方わたしが見た夢は、
まち歩きのイベントで小休憩にみんなでコーヒーを飲んでいる夢だった。
いつもいるスタッフさんが紫色のカップにコーヒーを入れてくれて、
大変そうだから手伝ったほうがいいかなとか、
わたしはコーヒーは苦手だけどなんかまた雰囲気で飲んじゃったなお腹大丈夫かなとか、
そんなことを考えていたのをはっきりと覚えている。


いつもの趣味の時間と同じように、
わたしはまた好きな人のことなんてこれっぽっちも考えていなくて、
これから後半はどこを歩いて何を見に行くのかなとわくわくしていた。
目が覚めて真っ先に思った。

…わたし全然大丈夫やんけ!


好きな人のことを考えて眠ったはずなのに、
完全に趣味に変換されていて、
わたしってどんだけまち歩き好きなんだよと思った。
な、なんか大丈夫な気がする。


なんとなく今週末の土曜日も、
好きな人の工場は募集が出ないような気がしたので、
とりあえず2番手の工場の募集に申し込んでみた。
お金のためだ。来月はずっとこうなのだ。
でもあそこはいつも優しいお兄さんがいるからきっと大丈夫だろう。他の部署よりは全然いいはず。
朝は早いし終わったら髪もぐちゃぐちゃになるけど、
憂鬱になるほど嫌な仕事ではない。たぶん。

本業をしていても、 
年末まであと2ヶ月半は彼に会えないのかと考えてしまう。
今から2ヶ月半前と言うと、7月末?
うわぁかなり前じゃねえか…無理…。
わたしはどんなに金欠のときでも、
彼の工場よりお給料の良い現場を蹴って、
月に1度は彼のところに行くようにしていた。
好きな人に忘れられないために。
彼が寝込んでいたとき、
一番長くて1ヶ月半空いたくらいだろうか。
去年の6月からずっと、
2ヶ月彼に会わなかったことなんてないのだ。

だから2ヶ月半も空けたら、

彼はわたしのことなんて忘れてしまうんじゃないかと本気で不安になる。


だって彼はわたしに1ミリも興味がないのだから。
彼がわたしを覚えておく必要なんてないのだから。
顔見知りから知らない人に落ちてしまいそうだ。
それならいっそ韓国に美容整形でもしに行こうか!


今年は秋物のコートや冬物のコートを引っ張り出して朝からあの工場に行くことはないのね。
閑散期に定時ギリギリに来る好きな人と玄関や靴箱で鉢合わせないかドキドキすることもないのね。
ボアが付いた彼の冬用の黒い靴もしばらく見られないのね。
土日に工場に行くとき、
わたしはいつも好きな人が休みじゃないかハラハラしていたけれど、
工場に行くことすらできなくなってしまった今では、
あれはとても贅沢な悩みだったのねとさえ思う。
ついこの前まであんなに悩んでいたのに。


そういえばわたしが夏に行っていた別のリネン工場は今も日中はずっと募集が出ている。
去年あの工場は夏しか募集が出ていなかったはずだ。
好きな人の工場は、
夏にも大口の取引が無くなって仕事が激減し、 
今月からも2社契約が減ったと言っていた。

もしかしたら向こうに仕事を取られたのだろうか。



別のリネン工場は大学みたいにキレイで、
スタッフもすれ違ったら必ず挨拶をしてくれて、
なぜかタイミーの人までみんな感じが良い。
好きな人のところみたいに、
床に落ちたり機械に巻き込まれたリネンをもう一度機械に放り込んだりする人なんかいない。
タイミーの扱いも他のどの会社よりも丁寧で、
着いたらポジションが名前入りで壁に貼ってあるし、
誰がどのロッカーを使ったかまで名簿に書いて、
鍵もきちんとケースに戻さなければいけない。 
とにかくめちゃくちゃホワイトな会社なのだ。
他業種でもわたしはあんなきちんとした会社に行ったことはない。
あの会社と好きな人の工場なら、
小売で例えたら高級住宅街にしかないちょっとお高い物まで置いてあるスーパーと、
年寄りばかりで客層の悪い激安スーパーくらい質が違う。
今のままではとても勝てる相手ではないのだ。
たかがタイミーのわたしでもわかる。

同業者でも、
わたしの好きな人はたぶんあの会社では働けないと思う。


彼は上履きで平気で外に出るような大雑把な人だし、
挨拶とかもきちんとするタイプの人ではないから、
あんなきちんとした会社に行ったら、
きっとうるさくてめんどくさくてたまらないだろう。
彼はあんなゆるゆるな工場でも、
「うるせえからさ」と言いながら仕事をしていた。
だからわたしがもし彼と普通に話せる仲だったとしてもあの会社に転職を勧めたりはしないと思う。
彼はああいうところはたぶん向いてない。
わたしでもなんとなくわかる。

来月もあのホワイトなリネン工場の募集が出ていたらまた行ってみようか。
もし彼と話せたらネタになるかもしれないし。
自分の会社が傾いていたら、
きっと彼も同業他社が気になるはずだ。
あそこはめっちゃ朝早いけど頑張らなきゃな。


運送会社へ行く道中、
黒い帽子をかぶっている男の人を見ると、
わたしは無意識にドキッとした。
昨日彼が黒い帽子をかぶっていたからだ。
たぶん年末までずっとこうなんだろうなと、
すっかり暗くなった空の星を見ながら、
わたしは気が遠くなる。
今日からはこうやって1人で残像に頼りながら生きていかなきゃいけないんですね。


その一方で、

2ヶ月半好きな人を断ったわたしがどう変化するのか、

自分でも楽しみにしているところはある。


7年前に好きな人に会えなくなって鬱になったときのわたしと今のわたしはきっと違う。
わたしはもうあのときのわたしじゃない。
好きな人に会えなくなったくらいで死のうと思うわたしはきっともういないはずだ。
なんとなくそんな気がする。
もしかしたらこれから2ヶ月半の間に、
好きな人よりも魅力的な男性に出会うかもしれないし。(弱気)

今日もなんとか好きな人に会えない1日を乗り越えた。


わたしは人気のない流通団地で、
大好きな「サヨナラ絶望人生」を歌いながら帰った。
10年前もこうだったなと思う。

でもこうやってコツコツ毎日を乗り越えていけば、
いつか必ず年末になる。
そうしたら好きな人に再び会えるかもしれない。
カレンダーに✕印でも付けながら、
1日1日確実に乗り越えていくしか、
今のわたしにできることはないのだ。