イケメンWeekが始まった
昨夜も近くのリネン工場で働いていたので、
今日から好きな人の工場で9連勤したら、
わたしは10日連続でリネン工場にいることになる。
万が一これから好きな人と話せたとき、
彼がわたしには興味がなくても、
同業他社は気になるに違いないから、
他社で経験を積むことは無駄にはならないはずだ。
添乗員時代のわたしは、
会社で一番アンケートが悪くて、
いつも名指しのクレームを入れられていた。
それでも会社のお金、つまりは客が払ったお金で、
わたしはほぼ毎日ホテル暮らしをしていた。
辞めてからじゃらんで昔泊まったホテルを見たら、
1泊2万とか3万もするような温泉宿も少なくない。
あのとき何とも思わずに泊まっていたホテルは、
わたしが自腹で泊まれるような宿ではなかったのだ。
だからわたしは今リネン工場で働くことで、
今までの宿泊代を返しているような気がしてならない。
気のせいだろうか。
それにしても、
近所のリネン工場は4時間+弁当付きで4900円、
好きな人の工場は5時間休憩無しで5250円。
なんか絶対に計算がおかしいような…。
どっちが割が良いとか絶対に考えたらいけない。
何も考えるなわたし!
たぶん社員やパートの人達のお給料も、
会社によって全然違うんだろうなと、
タイミーのお給料を見ていても思う。
しかし今日から行く工場には、
わたしの好きな人がいる!
昨日はろくに化粧もせず、
毎日着てる弟の紺色のパーカーを着て行ったけど、
今日は時間があったので朝からパックをし、
新しいマスカラを塗って化粧もバッチリしてきて、
服もお気に入りのものを着てきた。
好きな人のところに行くときは、
夏でも冬でもいつも、
ピンクの服ばかり着ているような気がする。
そのせいかアイシャドウもピンクになる。
今日もいい年こいて白とピンクって感じの服装だ。好きな人にいつもピンクの服着てるおばさんだと思われてたらどうしよう。
しかしなんかテンション上がる!
たぶんこういうのが女にとっては大事なのだ。
お見合いとかで全然好きでもない人と会うために、
お金をかけてきれいにする女だっているのだから、
今日は好きな人に会うかもしれないからきれいにするわたしはきっと幸せなほうなのだ。
これを9日続けたら、
わたしは美しくなるかもしれないぞ!
毎日厚化粧で肌がボロボロになりませんように。他にこんなにきれいにしていくところもないし、
珍しい日々を楽しませてもらおうじゃないか。
わたしは今週間違いなく生理が来るので、
9連勤できるかどうかちょっと怪しいのだけど、
(繁忙期によそから来て貧血で倒れるのは避けたい)
もし無事に予定通り9回ここに来たら、
そのうち6回は好きな人に会えるのではないかと予想している。
あくまで予想。
天気予報みたいなもんだ。
だってこれはわたしがイケメンに毎日会ったらどうなるかの実証実験なのだ。
実験前には必ず予想をして、
実験後には考察と分析と今後の予想をするのが筋ではないか。
わたしは理系じゃないけどそれくらいはわかる。
そんなことを考えながらわたしは工場に向かった。
念願のイケメンワールド最寄り駅で降りた。
早速お腹を下している。胃が逆流しそうだ。
わたしは本当はイケメンが苦手なのかもしれない。
イケメ…
研究対象は今日も出勤している。
お願いだからお近くに行かせてください。(土下座)
実証実験なので!
しかしなんとか平静を装っているものの、
喋ったら吐きそうだし今にも手が震えてきそうだ。
こういうのも9連勤したら良くなるのだろうか。
わたしはイケメンに慣れるのだろうか。
わからない。
クソ女が案内役だったのでハラハラしたけれど、
なんとか無事に彼のいる1階にたどり着けた。
途中障害を持った男の子が落としたタオルの山を顔見知りのタイミーさんと拾い、
1階に着いたらいつも優しい社員のみきちゃんがいて(名字がわからない)、
わたしは笑って挨拶をした。
後ろに苦手なギャルおばさんもいたので、
ついでに挨拶をする。
真っ直ぐ進むと、
好きな人が2号機を直しているところだった。
タイミーが来てなぜかハッとしている彼にも、
一応小声で挨拶したけれど、
もちろん返してはくれない。
どうしてこういうとき声が出ないんだわたしは!!!
(猛省)
しかし今日もカッコいい。髪型が好きすぎる。
もしかして髪切ったのかな?
そんな気もしなくはないけれど、
癖毛の彼は、
おそらく湿度によって見た目が結構変わるので、
正直よくわからない。
でもカッコいい。
今日一番近くで正面から見れたかもしれない。
今日はもう帰っても良いかもしれない。(働け)
わたしがタイミーで会った人の中で一番苦手なサイコパスおじさんが仕切っていたので嫌だったけれど、
今日はサイコパスおじさんは珍しく「2号機に1人」とわたしの目を見て言ってくれた。
おっさんたまにはやるじゃん!!!
一番好きな2号機で好きな人が来ないか観察する。
今日は当たりだ。
途中みきちゃんがわたしのところにやってきて、
「来月は午前中も募集出るから、よく見てたほうがいいよ!」とわざわざ教えてくれた。
彼女は本当に良い人だ。ここで一番優しい。
しかし開始1時間半で3号機にやられてしまった。
シーツは重くてちょっとしんどい。
でも故障中の機械があったからか、
他のタイミー達は他のフロアに送られたようで、
周りを見渡してもタイミーはわたししかいない。
今日やっぱりツイてるかも!
好きな人は先週と同じくこの時間は忙しいようで、
最初の2時間は全然姿を見せなかったけれど、
16時過ぎにようやく彼のポジションに戻ってきた。
遠目で見てもいちいちカッコよくて、
わたしはドキドキしてしまう。
途中彼が羽織っていたジャージを脱いで、
Tシャツ姿になっていた。脱ぐとこ見たかった…!
暑いのか夏みたいに袖を肩まで上げて、
むっちむちの腕が丸出しになっている。
彼はわたしより背が低くて、
おそらく160センチもなさそうだけど、
体重は60キロとかあるのだろうかと考える。
ここの工場の制服はポロシャツだから、
わたしは2月に来たときに、
彼が初めて私服の黒いTシャツを着ていたのを見ただけで、
ドキドキしすぎて気づいたら45分が経過していた。
私服、やばい。
そして黒Tもやばい。
(今日は黒ではなかった)
突然好きな人がわたしのところに来て、
「今日19時まで?」と聞いてきた。
わたしは笑って「はい!」と答える。
ちょ…、今日話せちゃったよ!!!
正面から見たら、
彼の顔は肌荒れしていた。ニキビもできている。
忙しくてあまり寝れていないんじゃないだろうか。
彼は朝来たら顔がむくんでいるし、
忙しいときは肌が荒れているのでわかりやすい。
過労で倒れる前も顔にニキビができていて、
わたしは「それ想われニキビだからな!」
と心の中で言っていた。
しかし柳楽優弥に時間聞かれる世界尊すぎる。
この工場は終了時間が微妙に違う日があるので、
わたしも今日顔見知りのタイミーさんに、
「今日19時までですよね?わかんなくなっちゃう!」と聞いてきたところなのだ。
王子様も同じことを思っていたのね。嬉しい。
なんかもう嬉しくてたまらないので、
わたしは今日で年内最後でもいいような気がしてきた。
明日以降入れてる分キャンセルしようか?
…はっ!実証実験実証実験!
このままだとおそらく上がるときも彼が声をかけてくれると見たわたしは、
もし話せたら何を言えばいいか考えた。
今日も顔が赤いから心配だ。
柳楽優弥に似てるなんて馬鹿なこと言えないし。
わたしのメンタルのために、
「明日いますか?」とか聞けばいいじゃんと思った瞬間、
…いやいやそんなこと聞いちゃったらつまんなくなっちゃう!
と無意識に思った自分がいて驚いた。
わたしはお腹を下しつつも、
やっぱりこの運試しが好きで毎回試しているのだ。
自分でもそんな気がしていた。
もしこれで普通に会えるようになっちゃったら、
わたしはきっとつまんなくなってしまうのだ。
だからやっぱりシフトは聞かないでおこうと思った。
彼がまたやってきて、
直ったばかりの5号機に行くように言われた。
濡れて重たいシーツを3時間入れ続けて、
さすがに疲れてきたわたしは普通に返事をした。
好きな人はサイコパスおじさんと違って、
ちゃんと入るところまで案内してくれる。
他のタイミーを呼ぶときも、
外国人研修生を重たいシーツの機械に回してから、
タイミーのおばちゃん達は軽めのところに入れていた。
わたしは彼のそういうところが大好きだ。
5号機はやっぱり不調で、
シーツを入れても入れても落ちてしまうので、
外国人達が好きな人を呼んだ。ナイス!!!
彼はちょっと嫌そうな顔をして機械を見る。
わたしはまた彼に見とれていて、
シーツの向きを間違えて入れそうになり、
慌ててキャンセルボタンを押した。恥ずかしい。
でも何回見ても彼はやっぱりカッコいい。
外国人の女の子達に話しかけられると、
彼はちょっと笑っていて、
わたしは一回り以上年下の10代のインドネシアの女の子達が心底羨ましくなった。
わたしは33歳にしてようやくこんなカッコいい人を愛でながら働ける身分になれたけれど、
この子たちは10代でこれなんだもんな、
日本に来て本当に良かったね、
そりゃ結婚も出産もできるわなと思う。
期待通り、
彼がわたしに上がるよう遠くから声を掛けてくれた。
話せるかと思ったけれど、
彼はやっぱりいつも通りリスのように走り回って後片付けをしていて、
あとちょっとのところでお疲れ様ですくらい言えそうだったけれど、
やっぱりどこかに消えてしまった。
上がるとき、
みきちゃんが来月から異動になると教えてくれた。
「30日と31日は来ますか?」とタイミーのわたしに聞いてくれる優しい優しいみきちゃん。
どうしてこんな良い人がいなくなってしまうんだろう。不安。
わたしの好きな人も、
突然異動になったりするんだろうか。
やめてやめてやめて!!!
彼はきっと何も言わずに消えてしまいそうで怖すぎる。
シフトなんて聞けなくてもいいから、
異動のときくらいはこうやって声を掛けてもらえるくらいの仲になれないかな。
帰りは顔見知りのタイミーさんと一緒に帰った。
彼女もみきちゃんから同じことを聞いていて、
「ここで唯一まともな人だったのに」
と言うのでつい笑ってしまった。
そのせいか彼女は、
「あとはみんな変な人ばかりでしょ!」
と意地悪な顔をして言うので、
やっぱりわたしの好きな人も変なのかなと思う。
そしてしばらく会わずに済んでいたハイタッチ男に久しぶりに会ってしまい、
やっぱり絡まれてしまったけれど、
(聞いてないのに「明日僕休みです」とか言われる)
彼女がいたので本当に助かった。
なんとか撒いた後、
わたしは泣きそうになりながら、
「本当にやだぁぁぁ!!!」と顔をしかめると、
「あれはおかしいし怖いわ」と言われた。
彼女は初めて彼を見たみたいでドン引きしていた。
やっぱりやばいやつみたいだ。
明日はとりあえず安心して行けるけれど、