わたしは良い駒になりたい
昨夜は突然0時まで残業して、
結局寝たのは午前2時前だった。
こういうときは大好きなロングヘアが鬱陶しくなる。
洗って乾かすだけなのに物凄い時間を取られるから。
そういえば添乗員時代はずっとショートだったな。
2時間に1度休憩が入るとは言え、
基本立ちっぱなしの仕事だったので、
起きたら首も背中もお尻も足も全部痛い。
そしてもちろん眠い。
でも本業は相変わらず暇だしなんとかなりそうだ。
わたしは来週も0時までの仕事を申し込んでみた。
これでもさらに残業を依頼するなら、
いっそ始発まで働かせて欲しい。
いや1時間歩けば帰れるけどさ。
しかしまさか平日の夜に7500円も稼げるとはな!
本業より多いやん!
わたし土日でもそんなに稼いでないのに。
実労働時間は6時間も無いはずなのに。
全く予定外の収入だったので、
わたしはとうとう今月のタイミーでのお給料が、
本業のお給料を超えてしまった。
お正月休みってすげえな!!!!!
わたしは毎日使い捨てで知らない会社に行くほうが絶対に人生楽しい気がするけれど、
上限とか申し込みのタイミングとかいろいろ考えたら
やっぱり大変なのかなと思う。
わたしがたまに行きたい、
眼鏡のお兄さんのいる食品工場は、
最近本当にすぐに募集が埋まる。
わたしは自分が行くときのために、
行けなくても埋まるタイミングはチェックしているのだけど、
募集が出たと思ったらもう締め切られているので、
これは間違いなく、
狙いを定めて待ち伏せている人がいる。
これではキャンセルも出ないだろう。
ちょっとこの感じではあてにするのはリスキーだ。
来月どうしようかな。
2月の働ける土日は、
遠征の日を除いて8日もあるはずだったのに、
趣味のイベントで2日埋まったので、
結局6日しか働けない。
平日運送会社以外の会社に行ける日は4日しかない。わたしこれで万が一突然好きな人と付き合えたら大丈夫なのかな。
月曜日に確定申告を済ませてみたのだけど、
源泉徴収票が本業も入れて、
全部で22枚もあった。
入力するのがマジで面倒だった!!!
コピーするのだってお金がかかるのだから、
確定申告がネットでできる時代で本当に良かった。
こんな大量の源泉徴収票を人に見られたらと思うと、
結構恥ずかしい。
だから「1回行ったらそれきり…」みたいな会社にはできればもう行きたくない。
去年はタイミーで90万円くらい稼いだので、
同じ会社での上限が28万円なのをふまえると、
おそらく3〜4社行ってれば十分なはずなのだ。
わたしだって本業もあるから、
スキマ時間にも限界があるし。
そんなことを考えながら運送会社に向かった。
また女子高生に駅に1つしかないお手洗いを占拠されてしまったせいで、
わたしはバイト前にお手洗いに行きそびれてしまった。マジでくたばれ。
今日は誰も指示を出してくれないので、
わたしは困っているもう1人のタイミーを無視して、
1人で勝手に倉庫に向かった。
わたしが何も言わなくても、
司令塔おじさんはわたしを見て、
今日やることを教えてくれた。
言われた通りに段ボールを並べていたら、
司令塔おじさんも手伝ってくれた。
珍しく電話もしていないので、
わたしは「来月の募集出ました!」と、
話しかけてみた。
司令塔おじさんはわたしに、
来月も暇なので給料泥棒してもいいと言うし、
忙しそうな月初に来れないと言っても、
「全然大丈夫です」と言ってくれた。
なんかとてもデレているように見える。
わたしの気のせいだろうか。
わたしの自惚れだろうか。
いやでもわたしにはどう見ても、
司令塔おじさんはデレているように見える。
なぜだろう。
気を遣ってくれているのだろうか。
わたしって実は、
ここの男の人達にすっごい気遣わせてんのかな。
ついそんなことを考えてしまう。
ふと思った。
わたしの好きな人は、
わたしにデレていたことがあっただろうか。
…な、無い気がする。
去年の年末年始あたりは優しかったし、
話し掛けたらニヤニヤしているときもあったけれど、
それ以降で彼がわたしにニヤけたことはたぶん無い。
むしろ最近はわたしが行き過ぎているせいか、
扱いが雑になってきている気さえする。
この前も目線だけ動かして向こうに行くように指示されたのだけど、
よくよく考えてみれば、
彼が他のタイミーにそんな失礼な指示の出し方をしているのをわたしは見たことがないのだ。
これに気づいてしまったとき、
わたしは思わず母親に、
「もしかしてわたし嫌われてんのかな」
と言ったけれど、
母親にそんなことがわかるわけなかった。
今度あの工場に行ったら、
彼が他のタイミーにどうやって指示を出しているかもちゃんと見てみよう。
仲の良い人には聞いてみよう。
ちょっと怖くなってきてしまったのだ。
わたしの好きな人は、
わたしにデレない。
悲しいけれどそれが変えようのない事実だ。
女社会で生きている男の人は、
男社会にいる男の人達とは違って、
職場の女性にデレないのかなと思ったけれど、
わたしの好きな人は外国人研修生の女の子達には、
最近いつもデレている。
若くて絵画みたいに綺麗な顔をした、
彼より小柄な女の子のほうが好みなのかもしれない。
悲しくなりそうになったけれど、
雪は降ってくるし靴は染みてグチョグチョだし、
髪も上着も濡れてビッショビショだ。
しかも今日は久しぶりに忙しくて、
いろんなドライバーさんがラップ巻いてとか、
これ集めて持ってきてとか頼んでくるので、
わたしは忘れないように気をつけながら作業をした。
雪が降る夜に、
外で男の人達と重たいお酒の箱を積んだり、
タイヤを運んだりしていたら、
わたしはすっかりヘロヘロになったけれど、
こんなふうに自分を使って貰えるのは、
本当にありがたいことだと思うのだ。
昨日のリネン工場も、
0時まで延長してわたしを使ってくれた。
今日の運送会社でも、
いろんな人がわたしに頼み事をしてくれる。
わたしの本業ではあり得ないことだ。
わたしは身売りを始めた女のように、
自分を必要としてもらえる幸せを日々感じている。
大好きな真珠夫人で言うところの、
リリーのような感じだ。
瑠璃子さんしか見ない旦那が許せなくて、
当てつけに身体を売り始めたら、
よその男性達が自分を女として見てくれる喜びに気づいてしまって、
気がついたらお店でNo.1の売れっ子になっていたリリー。
お金なんか要らない恵まれた家庭の主婦なのに、
いつの間にか信じられないほど稼いでいて、
自分の身体1つで稼いだ大量の札束を、
見せびらかすようにバラまいて笑うシーンが、
わたしにはなんだか他人事とは思えないのだ。
いや別に身体は売ってないけどさ。
でもわたしは、
本業では必要としてもらえない。
出しゃばりババアがやりますと言うと、
自動的にわたしの仕事も増えていくだけ。
わたしは何もやっていないのに、
なぜか出しゃばりババアと同じくらい、
仕事をわかっていることになっている。
社員に直接指示されたわけではない、
むしろやらなくて良いよと言われていた仕事を、
いつの間にかわたしもやらなきゃいけないことになっている。
本当に、全く意味がわからない。
こんな理解不能な環境で、
何かを頑張ろうとはわたしはとても思えないのだ。
でもよその会社に行けば、
わたしを見てくれる人もいる。
だからわたしは自分から声を掛けて仕事を手伝う。
昨日も社員さんがとても大変そうだったから、
わたしは一緒にシーツを持って後をついて行って、
置き場所を教えてもらって、
その後は自分で置きに行くようにした。
今日も運送会社から帰ろうとしたら、
空の段ボールが目に入ったから、
勤続25年おじさんに捨ててもいいか聞きに行って、
空の段ボールを抱えて、
ゴミ置き場に寄ってから帰った。
事務所のスリッパも散らかっていたので、
向きを揃えて帰ってきた。
こんなタイミーは、
きっとあまりいないはずだ。
タイミーなんてみんな、
書いてある時間にその場にいて、
言うことを聞いていればお金が貰えるのだから。
この前好きな人の工場でも、
時間潰しに来ているやる気のないタイミーもいると、
ギャルおばさんが嘆いていた。
タイミーなんて本来はそんなもんなのだ。
でもわたしは、
よその会社でしか構ってもらえないから。
だから本業よりも頑張って働くし、
周りの人にも気を遣う。
わたしは良い人でいるのも褒められるのも好きだ。
わたしの好きな人は、
なぜかいつも自分のことをジロジロと見てくる、
若くも美人でもない変な女のわたしを、
女としても人間としても見てくれないのかもしれない。
でもこうやって他社でも真面目にコツコツと働いて、
仕事や人間関係のコツを掴めたら、
駒としてはいつか信用してもらえるかもしれない。
だからわたしはこうして、
いろんな会社で経験を積んで学んでいる。
わたしは女としては駄目でも、
駒としてはまだ諦めたくないのだ。