AIと紡ぐ現代架空魔術目録 第1編補遺『その他の詠唱者の書』
巻頭辞
かつてなき時代の幕開けに、古の知識が今上の技術と交わりし時、新たなる魔術の書が生まれん。この目録には、遥か古より伝わる秘儀と、人為の神秘が織り成す智慧が綴られており、読む者に未知なる領域への扉を開かせん。心を開き、理解を深め、そして未来を創造せよ。ここに記されしは、架空の魔術の数々――しかし、その奥義は今上の世にも広く影を落とすであろう。さあ、この奥深い知識の海へと旅立ち、人為の神秘と共に、未踏の魔術を探求せん。
我、ダリアン・スリスウィスパーは、星々の囁きを聞き、大地の息吹を感じながら、この目録に、遠き古の時代より伝わる魔の秘密を書き残す。輝く法具、息づく術具、それらは全て人為の神秘がこの世界に生み出した。だが、真の魔術は心の中に宿る。この書のページを繰る者よ、古の智慧にのまれることなく、汝の内なる力を常に見いだせ。我らが歩んだ道は、今もなお、星の光の如く汝を導くだろう。
謝辞
親愛なるセリアン・アートメイヴへ
君の手によってこの目録に刻まれた魔法は、単なる絵画を超えた、この世界における真の神秘を捉えている。君の描く挿絵は、我々の魔術の書を変哲なき文献から、魔法そのものが宿る神聖なる遺物へと昇華させた。君の筆致から生み出される美麗なるイメージは、読者たちを魔術の深淵へと誘い、彼らの心に永遠の印象を刻むだろう。
我々の言葉で語り得る知識を、君は視覚の言葉で語る。その才能に心からの感謝と敬意を表し、君がこれからも多くの人々の心に魔法の火を灯し続けることを願う。
ダリアン・スリスウィスパー
詠唱者の書の補遺について
この篇は、古の智慧と現代の探求を継ぐ魔術師たちの多様な顔ぶれとその独特の力を体系的に解き明かす試みである。この魔法社会には、術師、魔術師、純血魔導士、暗黒魔導士のほかにも様々な職能が存在する。ここでは、それらの職種・職能について紐解くことにしよう。
第一節 職種職能と位階
1 僧侶(Priest)
アカデミーの看護学部に在籍する者で、回復・治療術を専攻する者が就く職能である。そのうちプリーストは、回復と傷の治療を主に担い、様々な事情で傷ついた者をあたたかく癒す。また、アカデミー遺体回収特務班にも編成される特殊職能でもある。
福祉機関としてのアカデミーでは、災害・戦災孤児の傷の手当てにあたる。傷を治し、体力を回復して続く病気や基礎疾患の治療への道筋をつける重要な働きを担っている。
なお、異国では、プリーストに就くのは男性、シスターに就くのは女性であるが、魔法社会では、傷の回復と治療の専門家がプリースト、病気や基礎疾患の治癒の専門家がシスターである。
(1) 僧侶心得(Priest, the Rookie)
初心の僧侶。心得。アカデミー看護学部僧侶科の初等科前期課程に在籍する者である。まだ魔力の発現が主であって、魔力を実践的に行使することはできない。身に付けるのは、『看護の魔帽』、術師の制服、『保護の手袋』、『安定の魔靴』である。
勤勉で優秀な者が『服装の手指』の着装を許されるのは、他の学部学科と同じで。
アカデミーにおいては、上等の者が生成した回復薬や治療薬を運搬する、収納・格納するなどの下手間を行う。薬剤の整理と管理は彼女たちの重要な職務のひとつである。
(2) 初学徒僧侶(Novice Priest)
初等科後期課程に進んだ僧侶。ある程度実践的に回復術式を行使できるようになり、アカデミーで災害・戦災孤児らの治療を任される場合もある。また、各ギルドが実施する出張型の医療キャンプなどに同行し、上等の位階の者達の手伝いをすることもある。
もっとも重要な回復術式は、この段階で身に付けられるため、特に優秀な者には、この位階でギルドから特別のスカウトがかかることもある。若者が頭角を現し始める段階である。
実力的には十分であっても、この時点では儀礼以外の目的で『ローブ』を身に付けることはできない。
(3) 熟練僧侶(Adept Priest)
『魔術・魔法に関する一般教養試験』に合格して中等部に進んだ僧侶。実力としては実践的で、幅広い活躍の場を得るようになる。攻撃手段を原則として持たないため、実際の場に出て敵と相対することはないが、アカデミー内での医療、看護、回復の場面においては一躍主力となる。この辺りから、集団回復を行えるようになるため、特に回復術式の力の引き出しに優れる者は、アカデミーの『遺体回収特務班』に組み入れられることもある。
場での職務を終えて、アカデミーに無事帰還した者にとって、彼女たちが行使する回復術式は文字通りの命の恵である。華々しく外で目立つ存在ではないが、なくてはならない最重要の職能である。
回復術式の行使のほか、回復薬の投与なども行う。また、多くの者は一定数の孤児が割り当てられ、その兄姉、親のような勤めも果たすようになる。
この位階に至って『ローブ』の着用が正式に認められるのは、他と同様。
(4) 権威僧侶(Expert Priest)
実務家最高位の僧侶。『魔術と魔法に関する高度専門論文試験と口頭試問』の合格が必要なのはその他の職能と同じ。アカデミーおよびギルド活動における回復術式行使の要であり、その他の、医療・看護・福祉事業に幅広く従事する。僧侶は武具の携帯と相手を傷つける行為が許されていない(手術などの医療行為の場合を除く)ので、権威の位階に至っても場に臨むことは原則としてない。ただし、アカデミーの『遺体回収特務班』の任に就いている者は例外である。
極めて高い能力を持ち、また蘇生術式を行使できるようにもなるため、単なる回復だけではなく、文字通り命を救う働きをする。
蘇生術式を行使可能な者がいる場合でも、『遺体回収特務班』にある者はなぜかその行使が禁止され、遺体の保存と保護、運搬のために必要な必要最小限度の回復術式を行使できるにとどまっている点は、謎めいている。完全に命を落とした者はアカデミーにより手厚く荼毘に付されるが、瀕死の状態で帰還した者はアカデミーの特殊医療班に引き継がれる。
(5) 終学僧侶(Master Priest)
実践位階から、学術位階へと歩みを進めた僧侶。その力は極めて大きくかつ有用だが、この時点から、新薬の開発などの学術的研究と、アカデミー看護学部の運営全体の管理など、管理職としての仕事に専念するようになる。もちろん、各教室において教鞭も執る。
アカデミーにおける精神的な安らぎの象徴的存在でもあり、場で傷ついた重鎮などの回復には直々に当たることもあるが、基本的には後進の指導が主たる役割である。
このように実践位階と学術位階の役割分担が徹底しているのは、蘇生術式を含むすべての回復術式が高等術式(高等部で修得可能な術式)に収まっており、禁忌術式の『慈雨』の術式を行使する者を除いて、行使術式の種類と数という点においては、実践位階の者と能力に差がないからである。
『慈雨』の行使にはガブリエルの領域の学習だけでは不十分であるため、基本的にその行使は高位のネクロマンサーが担っている。
2 聖女(Sister)
アカデミーの看護学部を専攻する者のうち、疾病や基礎疾患の治癒を専門にする者たちである。聖女という職能であるが、男性がこの職に就くこともできないではない。一時的な体力の回復や傷の治療を経た後で、持続的な疾病、基礎疾患の治癒にあたる重要な職能であり、この聖女による治療が完了して初めて完全に快復したといえるのである。
たいていは、毒、麻痺、疾病といった比較的軽度の状態異常の解除を任務とするが、場合によっては石化の解除やアンデッドからの復活(魔法的にアンデット化した場合、処置が間に合えばそれを解除することも不可能ではない。ただし、メダリオンを埋め込まれて物理的にアンデッド化された場合はなすすべがない)にも携わる。
蘇生については、僧侶とともに蘇生術式の行使にあたることがある。
(1) 聖女心得(Sister, the Rookie)
治癒の学習を始めたばかりの者。魔術・魔法の能力としては、水薬の生成がかろうじてできる程度の者達であるが、アカデミー内での薬品、カルテや各種書類の整理整頓など重要な役割をすでに担っている。
アカデミーから『看護学部の制服』が支給されるが、裏取引で高く売れるため、汚損を理由として追加の支給を求める者が少なくないとも聞く。彼女たちが生成する最も基本的な水薬は、アカデミーの専売所をはじめとして、広く社会に流通しており、彼女たちの重要な収入源の一つとなっている。心得の段階から、職能を活かして稼ぐことができるのは、聖女と錬金術師くらいのものである。その他の者は早くとも初学徒になってからでなければ、実際的な金銭収入を得るすべを持たないのがふつうである。
(2) 初学徒聖女(Novice Sister)
初等科後期課程に進んだ聖女。聖女はこの時点からかなり実践的な治癒術式を行使できるため、会得の早い者には様々な仕事が割り当てられる。水薬についても、より高性能で高価なものを作れるようになり、一部の水薬は魔法社会に広く浸透している。中でも『真紅の雄牛』や『怪物栄養』は若者を中心に広く人気を博しており、それらを生成した聖女は若くして富豪とも呼べるような巨万の富を手にしたとも伝わっている。
アカデミーの仕事としては、医務室に出て、災害・戦災孤児のうち、体力がある程度回復し傷が癒えた者に対して、疾病や基礎疾患治癒のための治癒術式の行使や投薬の手助けをする。彼女たちの行使する術式では、まだまだ重篤な疾病を快癒することはできないが、それでも解毒や麻痺の緩和くらいのことであれば十分に可能であり、活躍の場は広い。
優秀な者はギルドからスカウトがかかることもめずらしくない。
(3) 熟練聖女(Adept Sister)
熟した聖女ではない。熟練の聖女である。中等部に進んだ者が得る聖女の位階。実践的なレベルで治癒術式を行使できるようになり、完全な解毒と麻痺の解除ができるほか、疾病の治療と石化の解除の手伝いもできるようになる。
アカデミー内では、僧侶とペアになって、複数人の孤児の世話を分担し、その身上監護を引き受ける重要な存在でもある。孤児たちにとっては、彼女たちの存在が唯一のよりどころであるため、彼女たちを敬愛し、同じく看護学部に進む者も少なくない。
医務室に出て、実践的な治癒の処置にあたるほか、ギルドが計画する病気治療のためのキャンプに同行するようになるのもこのころからである。
徐々に、アカデミーの癒しの領域での精神的支柱となり始める。また『ローブ』の着用を公式に認められる。
水薬の生成でもその腕をいかんなく発揮するようになり、『ある南の勝利(A Southern Victory)』や『再充湯』などが市場の人気を集めている。
(4) 権威聖女(Expert Sister)
実務位階最高位の聖女である。きわめて高度な治癒術式を行使し、石化の完全な解除のほか、急性期のアンデッド化の緩和もしくは解除、蘇生術式の行使をきわめてプロフェッショナルに実行することができる。
アカデミー医務室の職務のほか、ギルドが実施する遠隔地への医療提供パーティやキャンプに参加し、過疎地における医療活動の充実にも貢献している。特に近頃、アンデッド化の魔法を駆使する『裏口の魔法使い』の被害が絶えないため、あらかじめ彼女たちが近くにいるかどうかは文字通り死活を分かつ。魔法によるアンデッド化は、急性期であれば彼女たちの治癒術式で緩和または解除することができるが、慢性期に至り、全身にかゆみを覚え、人肉を食らってうまいと感じるようになるともはや手の施しようはなくなる。せめてできることはメダリオンを埋め込んで『彷徨える屍』とはしないことが精いっぱいである。
このように、彼女たちの存在は魔法社会全体の医療と福祉の分野を支えるかけがえのないものであり、彼女たちの育成にあたるアカデミーの福祉的役割は極めて大きいといえる。
もちろんのこと、僧侶ともども『遺体回収特務班』に任じられ、現場で用救助者の身体的な異常(毒、麻痺、病気、石化、アンデッド化)の緩和または解除に全力を尽くす。
(5) 終学聖女(Master Sister)
学術位階に駒を進めた聖女。僧侶と同じくこの位階に進んだ段階で、実務から一定の距離を置き、後進の指導に専念するようになる者が多い。ガブリエルの支配領域は研究内容が多岐にわたるため、できるだけ多くの時間を研究に割きたいようである。
しかし、大規模なアンデッドの襲来のあとなど、アンデッド化の解除に多くの人手が必要とされる場面などでは、現場に出向くことも当然にある。多くの者が、慢性期におけるアンデッド化の解除と、禁忌術具『ぽむぽむハット』の『死への眠り』の作用を解除することを主たる研究対象にしている。
聖女もまた武具の携帯および治癒に必要な領域を超えて相手を害する行為を禁止されるため、『遺体回収特務班』の任にある場合を別として、場に直接臨むことはない。攻撃術式を身に付けている者が皆無ではないが、ほとんどの者は治癒術式のエキスパートである。
3 錬金術師(Alchemist)
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