AI-愛-で紡ぐ現代架空魔術目録 付録 その8『魔術・魔法属性資料』
巻頭辞
自然摂理と科学から力を引き出す魔術にも、天使への信仰を通して神秘から力を引き出す魔法にも、どちらにも属性がある。特に、後者については、各領域を支配する熾天使の性質に応じた属性が設定されている。これは、この世界の真理であり、法則の一種であって、故に、属性に関する事柄は、ここ魔法社会のみならず、『北方騎士団』や『東の異国』、さらにそれらの先に広がる地域でも、等しく通用する共通性を備えている。
自らが司る力と相手が行使する力の、属性の相関関係をよく理解することで、事態・戦局を有利にすることができるであろう。
なお、自然摂理と科学には、生物化学、核、放射という破滅的な属性もあるが、非人道的なこれらの力は、使いたくとも使うべきでないのが明白なのであるから、本書では敢えて触れない。世界の意志によって人が滅ぶなら格別、人がその意志と力で自らの存在に手をかけ、世界を終焉に向かわせるようなことはあってはならぬ。それは、もはや語るまでもあるまい。
一方で、神秘から引き出される魔法も破滅的な力をもつが、こちらは世界の意志を体現するものである。故に、伝えておかねばなるまい。幸い、いかに大きな力を身に着けようとも、世界の意志がなければ、魔法を世界の破滅と人の滅亡の為に用いることはできない。しかし努々(ゆめゆめ)忘れてはならぬ。我らの手に、他者と世界を害し滅ぼす力のあることを。力は正しく用いられ初めて、世界の意志による祝福を受けることになる。善なき力は、己が身に大いなる禍をもたらすことになるであろう。
ダリアン・スリスウィスパー
1 属性とその支配者
各属性にはその領域ごとに支配者がある。まずは基本属性の種類とその支配者を一覧にしよう。
2 属性各論
01 物理
自然摂理と科学の諸効果を具体的かつ実践的に発現する最も基本的な属性。自然摂理と科学法則だけに依拠するその性質から、魔法的要素は全く持っていない。そのため、この属性に直接関与する熾天使はないが、熾天使長ミカエルは、力を与えるというその性質を結節点として、この属性に一定の影響力を行使することがある。従って、物理攻撃(白兵戦能力)を高めたいと欲する術士には、別途ミカエルの領域を学ぶ者もいる。発揮される力の方向性は、どちらかといえば破壊的だが、積み上げ、組み立て、構築といった建設的な要素も少なからず備えている。
相反する属性は特にないが、魔法による防御術式には弱く、全ての属性の防御術式が耐物理属性の性能を有しており、耐魔法使い戦では不利になる場合が多い。とういうのも、この世界における物理属性は、魔法使いを相手にするものというよりは、物理属性同士の衝突を想定しているからである。ただし、物理属性の攻撃側の力が、防御側の魔法使いの魔法出力に対して圧倒的に大きい場合には、勿論、防御障壁は打ち破られることになる。最近では、特に、錬金銃砲などといったような、機械的・科学的に物理属性の力を従来に比べて圧倒的に強化可能な武具が数多く登場するようになったため、物理属性を行使する者が魔法使いを圧倒する場面も少なくなくなってきた。
対アンデッド性能については、物理属性は、まだ腐肉(実体)を残すアンデッドにこそ一定の効果があるが、それでも、脳や心臓といった核心部分に対する以外の攻撃は、アンデッドの復活能力によって事後的に無効にされる。また、腐肉を失った霊体アンデッドに対する対抗力は皆無で、物理属性は全く役に立たない。
このように、この世界においては物理と魔法は相反するものではなく、優れて相補的な関係にある。特に、物理属性は、魔力の枯渇を心配しないで、行使者の体力が続く限り行使し続けることができることから、継戦能力という意味では圧倒的に優れており、戦場など、長く戦力を維持することが死活を分ける実際の場においては、強力な物理属性の担い手が味方として臨場しているかどうかで、勝敗・命運の趨勢を分けることになる。
02 火と光
熾天使長ミカエルが司る属性領域。力を生成し付与する性質を持ち、破壊的な性格が強いが、正義と力の象徴でもある。魔術師に最も強い影響を与える属性だが、自然摂理・科学的な力の応用としても発現可能であるため、術士もこれを用いる。炎熱だけでなく、爆破、熱傷という形での発現も可能であるほか、空気と圧力の属性とも親和性が高く、応用範囲が広い。半面、ウリエルの司る水と氷の属性とは極めて相性が悪く、互いに打ち消しあう相反関係にある。それらが直接にぶつかった場合には、『魔法出力』(「魔法威力*10段階の魔法力*要素数」で求められる)の大きい方が打ち勝つ。ただし、一方が防御術式の場合は、『魔法出力』に圧倒的な差がない限り、防御側が勝るようになっている。差が大きければ、防御障壁を抜くことができる。
極めて基礎的な属性で、日常生活とも密接に関係する。魔法使いの火おこしは基本的にこの属性をもつ魔法によるし、明かりも通常はこれでまかなわれる。
攻撃術式として、特に有機体に対する破壊力に優れるほか、アンデッド効果に特に秀でている。腐肉を残すゾンビやグールなどのアンデッドはもちろんのこと、既に肉体を失い霊体と化したアンデッドの駆除にも等しく効果を発揮する。対アンデッド戦の切り札となる属性である。半面、鉄や鋼などの無機質かつ頑強な素材への効果については、応用の仕方と場合による。炎熱の術式に圧力や振動を加える、冷やしてから熱するなどの工夫を適切にしなければならない。
魔術師や、一部の術士が得意とする属性で、魔法の灯火や着火といった基礎術式の他は、ほぼすべてが強力無比な攻撃術式を取り揃えている。
03 水と氷
熾天使ウリエルが支配する属性。力を奪い制御する働きをし、その通りに、熱を奪って炎を消し、冷凍と凍結によって生ける者の生命力を奪うといった性能を発揮する。同時に、氷を用いた造型や水の生成も可能で、臨機応変な道具・武具の生成や、生命維持や水薬の素材としての水の逐次提供の能力を通して、長丁場の旅や、伸びた戦線における生命維持の基礎としての機能も果たす、応用範囲の広い属性である。そのため、優れた血統により、生来の魔力量と魔法的資質に優れる純潔魔導士が最も得意とするが、自然摂理と科学法則においてその力を引き出すことも、もちろんできる。ただし、一定範囲の気温を絶対零度まで下げるといったようなことは、よほど卓越した術士でない限りは無理な相談で、それらはやはり、もっぱら魔法の素質に優れる純潔魔導士の役目となるわけだ。
魔術師や暗黒魔導士もこの領域の術式を身に着けることはできるが、魔術師が得意とする火と光の術式とは力の方向性が相反するし、暗黒魔導士が得手とする閃光と光の術式とは、結びつきが弱いという事情があって、純潔魔導士以外にこの領域を好んで習得しようとするのは、生命の操作に関して水を必要とする死霊術師/屍術士と、一部の術士に留まっている。
制圧力の高い術式が少なくないが、力を奪うという特性上、殲滅性という意味では術式が高位になるほど、火と光や閃光と雷に先を行かれるようになる。そのため、純潔魔導士は、その力を維持するために、常に自己の属性を強化し続けるための工夫と応用を求められることになるが、血統的に魔法の素養がとびぬけて高い、いわゆる天才の多い純潔魔導士にとってみれば、それはさほど難しいことでもないようで、魔術師や暗黒魔法使いに劣ることのない、領域型の殲滅術式などが今でも次々と開発されている。努力や創意によってというよりは、才能で使いこなす属性であると言えよう。
ただ、この属性には致命的な弱点があり、それは対アンデッド性能である。腐肉を残すアンデッドへの効果にこそ問題はないものの、腐肉を失い完全に霊体と化したアンデッドに対しては、凍り付かせて一時的に動きを封じるくらいのことしかできない。そのため、霊体アンデッドに対する場合には、他の職能を伴なっていなければ致命的となる。
04 空気と圧力(大分類は自然)
大きくは、自然属性に分類されるが、特別に熾天使ラファエルの加護下にある下位の属性領域。この属性に連なる術式にも単独で効果の高いものは諸所あるが、その真骨頂は、他の属性の術式と組み合わせて応用することで発揮される、変わり種の属性である。それは一説に、ラファエルの、社交的で相互協力的な聖格が関係していると言われており、神学において盛んに研究がされている。
属性単独で用いるなら、強風や竜巻、空気振動、衝撃波の術式があるが、水と組み合わせれば、超高水圧の水砲を撃ち出したり、あるいは水圧を刃に変えて繰り出して相手を切断するような応用が可能である他、火と組み合わせれば、極めて貫通力の大きい高圧の熱線を撃ち出したりすることも可能になる。あらゆる術式の応用の起点となる属性であり、使う者の術式制御における才覚と閃きが試される属性であると言えるだろう。力のある魔術師や純潔魔導士は大抵この属性を、自分の専科となる属性と併せて学習し、修得している場合が多い。
対アンデッド性能という意味では、単体ではさほど効果的な術式を持たないが、火と組み合わせることで、屍の群れを覆いつくす炎の波を生み出したり、水との組み合わせでは、高水圧を見舞って屍を群れごと粉砕するといったようなことができる。また、火、水、閃光の3つと組み合わせると、アンデッドを聖光で焼き尽くす、領域殲滅的な対アンデッド術式の行使も可能にする。
自然摂理と科学でも引き出すことのできる力だが、魔術の範囲では、これといった強力な術式はない。せいぜいその場の空気を流す(火おこしや火に流れを与えることに役立つ)、気圧を変えて水の沸点を下げるくらいの実践がされるのみである。ただし、領域限定的に空気を奪い去って、有機体を窒息させる強力な即死性の術士はいくつか存在している。また、圧力については、有能な錬金術師であれば、その応用により対象を強力に圧縮する錬金爆弾を製造したりすることができるようである。
05 閃光と雷
空気と圧力がラファエルの副次的な支配領域であるとするならば、こちらはその主要な属性領域であると言えよう。文字通り、強力な閃光と雷を操ることを可能にするもので、火と光の属性に勝るとも劣らない圧倒的な殲滅性発揮する攻撃魔法術式の花形属性である。自然摂理と科学による力の引き出しも当然に可能で、魔法を行使できず魔術のみの術士たちに対しても、大きな力を賦与する属性であるため、優先的にこの属性を学ぶ学徒は多いが、特に暗黒魔導士の職能と親和性が高い属性領域であるとされている。
ただし、さすがラファエルの支配領域の属性だけあって、例にもれず他の属性領域との親和性も高く、例えば、火との組み合わせで電磁スパークを発生させ、高度な電磁的錬金機器を内側から機能不全にする、水と組み合わせて雷の影響範囲と威力を倍増させる、死霊術と組み合わせて使役する生ける屍を自走型の高電圧爆弾に仕立て上げるなど、その応用の仕方には枚挙に暇がない。優れて、術式構成の発想力とセンスが問われる属性である。
雷はその発現の結果として火を伴なうので、対アンデッド性能でも隙がない。腐肉を残さない霊体アンデッドに対しては、強力な閃光でそれらを浄化することができる。このように、四方に隙がない属性であると言えるが、それだけに留まらず、水生生物やその他の水と氷の属性に連なる相手に対しては、なんと特攻効果を持つ。特攻効果とは、相反ではなく一方的に有効であるという意味である。
こうしてみると、閃光と雷の属性が万能であるかのように感じられるが、扱いが極めて難しく、他の属性の術式と組み合わせることによって真価を発揮するというその性質上、魔力消費量が等比級数的に大きくなりやすく、高威力で行使すると下手をすれば一発で魔力枯渇(ガス欠)を起こすことしばしばで、継戦能力の維持という点では非常に問題のある属性領域でもある。また、閃光はともかく、雷は照準にランダム性があるためとにかく当たりづらいという性質があり、当たれば勝てるが、外すとそれまでという博打性の高い術式が多い。もちろん、命中精度をコントロールすることはできるが、その場合には当然にして魔力リソースを制御に割く必要が生じるため、精度を上げると威力が下がるという負の相関に悩まされる。
圧倒的先制や、起死回生の切り札としては大いに役立つが、そうした単調な戦術で決着がつく場面の方がむしろ少ないため、実はこの属性を得意とする暗黒魔導士が、一般的な場においては一番足手まといになりやすいというジレンマもある。その意味でも、とにかく自己管理と絶えざる工夫が求められる難しい属性でもあるわけだ。
06 生命と霊性の均衡
自然摂理と科学ではその力を引き出すことのできない魔法専用の属性のひとつ。この属性に連なる力を行使するためには、伝道の熾天使ガブリエルの加護を受けるより他に方法がない。生と死の両方に関する属性であり、本当に力を発揮しようと思うのであれば、生と死の両方の理解を深めなければならない。魔法的な難しさだけでなく学術的な難しさを伴なう属性であることは特筆に値しよう。
一方で、ガブリエルは慈愛の熾天使でもあり、熱心に道を探求する者には惜しまず力を授ける聖格をしている。そのため、生と死の両方について研鑽し、その力を極めて行けば、ガブリエルの加護を二重に受けることができるようになる。なお、死霊召喚を行う必要のある都合上、召喚術式はこの属性に組み入れられている。
ガブリエルの加護は、生命と霊性の均衡に専門特化しており(磁場と磁力に関する領域もあるにはあるが)、そのため、ラファエルの支配する属性とは対照的に、応用範囲の極めて狭い属性である。属性内における応用例こそいくつか存在するが、属性外の応用で、効果的かつ有意義な術式はいまだにほとんど開発された実例がない(皆無ではない)。
言うまでもなく、死霊術師/屍術士が専属的に扱う属性である。主要な術式は、死霊の召喚、死体の使役だが、生命に関する知識を併せ持つため、回復・治癒の術式も多い。神聖属性にも回復・治癒の術式はあるが、生命を直接支配するこの属性から引き出される回復・治癒術式の力は実に大きく、遺伝情報さえ完全に保存されていれば、身体のごくごく一部からでも死者を復活させられるといったような強力な蘇生術式も備えている。
ほかにも、召喚した死霊を消尽することでそれらを生命力や魔力に還元して自分や仲間の回復を測ったりできるほか、究極の応用として、自分の生命力と魔力を依り代に、その場にいるすべての味方の傷病を完全に回復する(死者の復活は不可)禁断の術式まで存在している。
攻撃面でいえば、特に大規模戦闘においては、死霊の召喚や死体の使役ができるかどうかが、その規模とともに文字通りゲームチェンジャーの役割を果たす。中には師団規模の悪霊を一気に召喚できる高位の死霊術士もいるが、それはもはや戦術的を越えて戦略的な力を発揮する存在であると言える。そのため、高位の死霊召喚や死体使役ができる死霊術師/屍術士の存否は、時に、場において死活的な意味を持つことになる。
死霊術を駆使する性質上、おそろしい属性に思われがちだが、支配者のガブリエルは極めて慈悲深く温厚であるため、その影響を直接に受ける死霊術師/屍術士にもまた、気立ての良い者が多い。
術式には悍(おぞ)ましいものも多いが、ガブリエルの加護にあるこの属性は決して呪わしいものではなく、むしろ生命への尊厳と賛美で満たされている。
to be continued.