「VR酔い」を予測する指標をニュー・サウス・ウェールズ大学が発表【#72】
今日のトピックは「ニュー・サウス・ウェールズ大学シドニーの発表したVR酔いの原因と新しい理論」について。
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UNSWがVR酔いの新説を発表
ニュー・サウス・ウェールズ大学(the University of New South Wales, UNSW)シドニーのJuno Kim博士らはVR酔い("Cybersickness")の原因に関する新しい理論を発表しました。
VR酔いとは、一般的な「乗り物酔い」と同じように、VR ヘッドマウントディスプレイ(HMD)で目の前に見ている画面と感覚とのずれによって生じる動揺病(加速度病)の1つです。
VRはVRChatやゲーム、ライブ演出のような単なるエンターテインメントではなく、教育、研究、医療など幅広い分野で利用されるだけに一層重要な問題となっています。
「乗り物酔いは、私たちが見ているものと他の感覚が私たちの動きについて信号を送っているものとの間の感覚的なミスマッチであるのに対し、サイバース病は肉体的な動きを必要としません」とKim博士は答えています。
私個人としても乗り物酔いはほとんどしたことがありませんが、VR酔いは非常に頻繁に起きます。逆もまた然りなので必ずしも乗り物酔いする方がVRを忌避する必要はないと思われます。
シーンの不安定性から生じるVR酔い
VR酔いの原因を説明する理論は既にいくつかあり、例えばthe sensory conflict theoryでは視覚系と前庭系の葛藤、the eye-movement theoryでは眼精疲労と焦点合わせが困難になることでVR酔いが引き起こされていると説明されています。
一般に「ラグ」すなわち遅延がVR酔いを引き起こす要因。これに直結する表示の遅延について、Oculus Quest、Oculus Riftのような最近のHMDでは、非常に低い値を実現してきました。しかし、待ち時間のスパイク(瞬間的な信号変化)が時々発生することがあり、これに着目したのが今回の研究です。
※Oculus(Facebook傘下)のVR研究についても以下で取り上げています。
関連記事:FacebookがVRでアイコンタクトを可能に【#37】
今回のKim博士らは「シーンの不安定さ(仮想環境での頭の回転と実際の頭の回転する量によって生じる差)」によってVR酔いを説明できると発見しました。
このバーチャルとフィジカルの頭の角度の違い(Different in Virtual to Physical、DVP)が理論の肝になっています。
例えば、HMDを装着した状態で頭を回転させると、センサがそれを読み取って仮想の頭(カメラ)がそれに追従しますが、そこには少なからずずれが生じます。それによって仮想空間の地面が実際の頭が回転しても地面と一致せずずれてしまうことで不安定な印象を引き起こします。つまり地面がガタガタと揺れているような錯覚です。
Image: Juno Kim
本研究では、30人の参加者にOculus Riftを装着したまま仮想空間を移動してもらって検証実験を実施。人為的に遅延を発生させることで、例えば、DVPが増加する要因として頭の回転の速さ(0.5 Hzと1.0 Hzで比較)が判明しました。表示の遅れが大きくなると、VR酔いとシーンの不安定さの両方が大きくなりました。この指標には乗り物酔いと同じ20ポイントのスケールが用いられています。
研究は今後、DVPのピークの差によってVR酔いになる可能性を予測する方法やVR酔を最小限に抑えるソリューションに活用できると考えられています。
なお、オリジナルの論文は以下から入手可能です。
他のVR酔い対策
VR酔いを軽減する手法としては米国のスタートアップ・vMocionは頭につけた電極から微量の電気を神経に伝達することでVR酔い対策を試みています。
また、静岡大とヤマハの共同研究をまとめています。
関連記事:今週の「ヤバいVR」10選【Vol.2】~'20/5/17:2.静岡大とヤマハ発、音と振動でVR酔いを軽減と発表
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出典:JunoKim et al. Multisensory integration and the experience of scene instability, presence and cybersickness in virtual environments via UNSW newsroom