田舎だから周りの人と趣味が合わないんですが【高岩遼対談 part.1】
高岩遼さんは憧れの人だ。初めて知ったのは3年半前、俺がまだ神戸の大学生だった時、SANABAGUN.の「人間」という曲のMVを観て驚いた。曲も、リリックも、MVも、洗練されてるけど圧倒的に人間臭く、ユーモラスだけど品があって、自分がバンドに求めるもの、立ち上げたばかりのバンドを通してやろうとしていることを、先立ってやられてる焦りを覚えた。中でも、フロントマンとして立ってる高岩遼って男にとてつもなく惹かれた。
彼が他にも色んなバンドを組んでいることを知った。MVの関連動画を辿っていくと、ある時はストリートライブで警察に注意されていたり、ある時はスーツでバッチリ決めてジャズボーカリストとして歌声を響かせていたり、ある時はダンスを踊り、ある時はラップをしていた。正直、同世代からちょっと上くらいのバンドで、このボーカリストはかっこいいなって心から思えることは、あまりない。殊更、同性のボーカリストだともっとない。(これは、「嫉妬」によるものかもしれない)のだけど、高岩遼氏だけは心からかっこいいって思えた。そして、この人はジャンルや畑は違えど、「自分と似たものを好きな人なんじゃないか」という確信めいた思いがあった。
今回、前回の記事からホストとして話し相手になってくれている三宅正一さんの縁があり、居酒屋でたまたま遭遇して挨拶してたこともあり、遼さんと対談させてもらえることになった。お互いの地元の話から始まり、生い立ち、好きなものや美学の話。ところどころ交わったり、離れたり、勝手に憧れたり、それこそ嫉妬したりしながら、話は進んでいった。場所は、遼さんがやってるバンドTHE THROTTLEのアジトにお邪魔させてもらった。高岩遼さんのこと今まで知らなかった人、逆に俺のことを知らなかった人でも、面白い企画になってると思う。これから全3回、お付き合いください。
登場人物
・岩渕想太(パノラマパナマタウンVo.&Gt.)
・高岩遼(SANABAGUN.、THE THROTTLE、SWINGERZ)
・三宅正一(音楽ライター)
・出会い
岩渕「パーソナルな部分を発信するメディアとして、今回noteを始めたんですけど。三宅さんと生い立ちを話したり、自分の好きな人に会いに行ったりしようって企画の第一回なんですよ。本当に憧れの人で。」
高岩「マジで。出落ち感あるけど大丈夫?」
三宅「最高だね(笑) まあ否定はしないけど。」
高岩「否定はしないんかい。」
三宅「で、遼はさ、岩渕くんと下北の居酒屋で会ったりもしてるもんね。」
岩渕「その後、SANABAGUN.のライブに行ったりもしましたし。」
高岩「これはこれは。」
三宅「まずはさ、岩渕くんが遼のどういうところがかっこいいと思うかっての本人に直接言ったら?」
岩渕「そうっすねー。今めっちゃ緊張してるんすけど(笑) 俺、自分のことかっこいいって思ってる人が好きで。自分のことかっこいいってステージで言えてるボーカルが好きなんすよね。でも、遼さんって色々あってそう言えてる感じがしてて、バックグラウンドが透けて見えるというか、人生背負ってステージに立ってる感じがするんすよね。」
高岩「なるほど。人生背負いたいんだ。」
岩渕「人生背負いたいですね。例えば、今の自分がどこで生まれて、どういうこと考えてきて、こうなりたくてってことを、片っ端から音楽にしていったとしてもスッと終わる気がしていて。でも、遼さんのソロアルバム聴かせてもらったら、すげえ人生が壮大だなって思ったんですよね。それって色んなことがありつつ、それを全て音楽にしてるからだろうなあと思って。」
三宅「遼は、人生全てエンターテイメントにしてやろうってとこあるもんね。その生き様に惹かれてるんだと思うけど。さっきも話したけど、岩渕くんは、地元が北九州なんだよ。」
高岩「天神とかじゃなくて北九州なのね。」
岩渕「そうっすね。天神の人とは話合わないんですよ(笑) 大体福岡出身って話すと、相手が天神あたりを想像するから、北九州ですって言ったらわかんないですって言われることが多いんすけど。地元がシャッター街の商店街で、実家が餅屋なんですよ。それも、昔は栄えてたけど、自分が大人になるにつれ寂れていったところで。だから、未だにシャッター街がすげえ好きなんすよね。」
・岩手県宮古と福岡県北九州
三宅「遼も地元宮古のことすげえ愛してるじゃん。それこそ、地元の商店街ってどんな感じなの?」
高岩「それこそ一緒で、昔は栄えてたけど、大通りみたいなところは全部閉まってるね。若い奴らが全部外に出て行くから、戻って盛り上げようみたいなノリが俺の先輩くらいから始まってて、でもやっぱり震災の流れがあって。政府は震災で盛り上がってる節があるけど、そういうんじゃねえんだよなみたいな。まあでも確かにシャッター街、俺も懐かしさを覚えるところはありますけどね。」
岩渕「でも、昔は栄えてたんですね。」
高岩「昔つっても80年代とかのノリなのかな。」
三宅「ちっちゃい頃の記憶と今の街は全然違うの?」
高岩「いや一緒っすね。何もねえ。」
三宅「何もないってのはどのくらいの何もなさなの?」
高岩「岩手県の県庁所在地が盛岡で、その盛岡から車で2時間くらい。何十個の山を越えて行くんだけど、その分文化が入ってこないわけですよ。音楽とか服も然り。もちろん独特の文化の芽生えもあるんだけど、そういうものが物足りなくて出てきたのはありますね。」
岩渕「ああ。僕も北九州ってCD屋もなければ映画館も無くなってきてて、周りにそういうこと話せる人もいないから、絶対にこの街からは出たいなって高校の時はすごく思ってましたね。当時は「出たい」しかなくて、こんなシャッター街抜け出したいって気持ちだったんですけど、大学で神戸に行って初めて北九州のシャッター街のことを好きになりましたね。なんか浪漫あるなって。」
三宅「遼も離れてみて思うところはあった?」
高岩「俺もそうっすよ。マジつまんねえな、さっさと出てえなと思ったけど、出てきてからかな。レペゼンする必要があるって思ったのは。」
岩渕「新聞とか載ってましたもんね。」
(2017 9/29付の「岩手日報」に遼氏のインタビューが載っていた)
高岩「そうそう、自分で連絡して。」
岩渕「あれ自分で連絡したんすか(笑) 」
高岩「そうそう。まず新聞だべみたいな。東京支部の人がTHE THROTTLE2回くらいライブ観に来てくれて。」
岩渕「そっか。まず新聞っすね。」
三宅「そういや新聞自分で作ってたらしいよ。」
高岩「新聞自分で作ってたの?」
岩渕「親にしかあげてないっすけど。小学校の頃、140号くらい書き続けて、2日に1回くらい書いてましたね。」
高岩「マジで?すげえなそれ。何新聞って言うの?」
岩渕「『ソウタ・タイムス』って言いますね。」
高岩「めっちゃトレンディじゃん!(笑)」
三宅「ラジオもやってたから。」
岩渕「ラジオもやってましたね。ずっとカセットで録音して、『まいにちまいにち』って名前で。」
高岩「めっちゃヒップホップじゃん。やばいね。それDIYでずっとやってたの?」
岩渕「ずっとやってましたね。発信できる場所もないし、インターネットもないし、友達にそういうことする友達もいないから、そういうことでしか発散できない気持ちがありましたね。」
・文化の芽生え
高岩「でも、なんで神戸行こうと思ったの?」
岩渕「神戸って街にすごい憧れてて、大阪でも京都でもなく神戸がいいってなんとなく思ってたんすよね。もし上京するなら絶対横浜がいいとも思ってて。」
高岩「何を学んでたの?大学で。」
岩渕「社会学ですね。社会学と芸術学をやってたんですけど、好きな音楽や映画を研究してましたね。例えば、ゴダールの映画を芸術学的に捉えると作品をこう読むことができて、それがフランスに出た時に社会でどう反応されたかみたいのが社会学で。それを両方からやってましたね。」
高岩「そういうのが好きなんだね。」
岩渕「好きですねー。地元の九州の大学にはそういうことができる大学がなくて、でも神戸大学にはそういうことができるところがあるって沢山調べて行ったんすけど、全然勉強しなかったですね(笑)」
高岩「まあ、そんなもんだよね。」
三宅「遼は、音楽学びにこっち来たんだもんね。」
岩渕「高校卒業してから、東京の?」
高岩「まあ一応そうっすね。基本音大入る奴なんて特待生とかで学費免除だけど、部活しかやってなかったから、俺には指定校しかなくて、『十五流大学』に入ったわけなんだけど。」
三宅「『十五流』ってすごいね(笑)」
高岩「新しくないすか?まあそれで、私立入って、借金まみれだよね。今も。」
岩渕「今もですか?」
高岩「今もだね。奨学金がね。」
三宅「それまでずっとラグビーだもんね。」
岩渕「ずっとラグビーですか?中高ラグビー?」
高岩「いや俺は突然高校ラグビー。中学は柔道部で。当時の写真見る?」
(一同、ラグビー部時代の高岩遼氏を見て)
三宅「いやーでも厳ついね!」
岩渕「え、悪かったすか?」
高岩「いや悪の友達はめちゃめちゃいたけど、俺は違かったかな。真面目だったからね。」
三宅「そこが面白いよね。でも、ヒップホップのサグい感じとかもめっちゃ好きな訳じゃん。」
高岩「好き好き。中一からダンスやってたね。最初はマイケルの動きとかパクって、VHS借りてきてスローで練習したりしてたね。そこからクランプ(KRUMP)ってダンスに辿り着いて。ずっと宮古駅前でおじいちゃんおばあちゃん二人くらいのお客さんの中でやってたよ。」
三宅「(写真見ながら)でもこのラグビー少年の顔からダンスやってたってバックグラウンドを想像させないもんね。ギャップすごいよね。」
高岩「確かにね。高校はレイ・チャールズのコピーバンドやってて。朝練筋トレし終わった後、音楽室を使わせてもらって機材持ち込んでバンドやってたね。放課後は、部活終わって0時くらいから朝3時くらいまでダンスの練習やってみたいな毎日を送ってましたね。」
三宅「いやーやっぱあんまいないなあ。似てる人いないでしょ?」
高岩「あんまいないとは思いますね。文化の芽生え方が変というか。」
岩渕「自分バンドなかったすもんね。小中高バンド組んだことなくて、大学で初めて組んだんすけど。」
高岩「そうなんだ。何やってたの?」
岩渕「中学野球部で、高校帰宅部で、ひたすら家帰って音楽聴いたりしてましたね。バンドは組まなかったけど、先生disるラップ作ったりしてて。」
高岩「へえ、ラップ作ってたんだ。」
岩渕「いやーラップも見よう見まねで。RHYMESTERの踏み方参考にして、メトロノームだけ鳴らして、友達に聴かせるみたいのやってましたね。」
俺の日本語ラップとの出会い RHYMESTER『ONCE AGAIN』
高岩「めっちゃヘッズじゃん。いなかったっしょ周りにそういう人。」
岩渕「いなかったっすね。」
高岩「だよね。そうなるよね。なんでそうなったの?」
岩渕「なんでだろう。でも、親がすげえ音楽好きなんですよね。親がクラッシュ(The Clash)とかピストルズ (Sex Pistols)とか好きで。直接親から勧められはしなかったけど。親のCD棚には沢山音楽があったっすね。」
高岩「ああじゃあ。意識しなくてもそこにあったんだね。」
岩渕「イギー・ポップとか親から借りて聴きましたもん。」
高岩「ナチュラルに音楽やってる人ってすげえ強いと思ってて。そういう風に、カッコつけるために聴いてるんじゃなくて、身の回りにあったから聴いてる感じがすげえ強いと思ってて。割と自分はそうだなって自負してるんだけど、想太もそういう感じだろうね。」
岩渕「そうっすね。周りに一切出さなかったですもん。あったから聴いてたって感じですね。」
高岩「だから、田舎だからこそある話ですよね。そういうものって。」
ということで、今回はお互いの地元の話、そして生い立ちの話になりました。遼さんの出身は、岩手県宮古。言うには、「日本で北海道の次に朝日が昇る街」らしい。この対談から引っかかってて、俺も正月休みに岩手県に旅行しに行ってたんだけど、確かに田舎だ。時間の都合で、花巻や盛岡や一関は行けたけど、(これも今度noteを書こうと思ってる)宮古には足を運べなかった。だけど、推測するに、俺の地元北九州より数倍田舎だと思う。遼さんは、宮古のことを「何もねえ」と言うけど、宮古をレペゼンする必要があると言っていた。そしてそれは、自分が地元北九州に対して思う感情と全く同じだ。
遼さんは、レイ・チャールズを周りの仲間に「無理やり聴かせ」コピーバンドを組んだと言うが、俺には「無理やり聴かせ」てバンドを組む活力はなかった。ラグビーしながら深夜にダンスをやって、朝には音楽室でコピーバンドをやってたという話はすごく特殊な話だと思う。さほど大きな都会じゃない、地方都市や田舎には、俺みたいに好きなものはあるけど、それをどう活かしていいか分からないみたいな人の方が多いんじゃなかろうか。今は、インターネットがあるから話は違うけど。
北九州を田舎と呼ぶのは、ちょっと違うかもしれないんだけど、都会以外の場所で、自分の趣味を貫くってことは難しいことだと思う。俺たちのライブに来てくれる人でも、会って話すと、「会場まで2時間かけてきてます」とか「周りに音楽の話できる人がいなくて」みたいな話をよく聞く。すごくわかる、俺もそうだった。でも、遼さんと対談しながら思ったのは、周りに色んな文化が溢れてるわけじゃない環境で、自分の好きなものを見つけ出し、それに向けて全力になることってのは、すげえ面白い可能性を秘めてるってことだ。お互い、文化の芽生え方がちょっと変だった。遼さんなんか一本映画撮れるんじゃないかっていう、周りの人とは違う情熱を持っていた。でも、それってすごく強い。「ナチュラルに音楽聴いてるやつは強い」って言葉の意味が話終わってから染みてきた。
都市の想像力とは別に、郊外の想像力があると思うし、田舎の想像力があると思う。そして、そこに住んでるヤツにしかできないアートがあると思う。この記事を読んでる人の中にも、田舎在住で周りに好きなものについて話せる人がいない人がいるかもしれない。クラスメイトに内緒で、音楽聴いたり映画観たりしてる若い人がいるかもしれない。でも、ことさら東京に行かなきゃと焦る必要もないのかもしれない。そんな時代でもないしね。上京しといてなんですが、遼さんの話は、人に勇気を与える話だと思った。
次回は、好きな映画の話、バンドマンのファッションの話。遼さんの生い立ちは、とことん面白い。便利だから「変わってる」って表現をしたんだけど、すごくシンプルな人だと思う。
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