1-世界の扉-
「ナイアガラの滝、迫力すげえ!
なんだよこの龍みたいに長いお城!」
アルトは、画面の中の世界に胸を躍らせていた。
「ママ!パパ!オレが大きくなったら、絶対世界旅行に連れてってあげる!」
それがアルトの口癖だった。
2-うねり-
大学生になったアルトは、
国際交流や平和教育を学ぶため、留学の準備を進めていた。
突然、彼のナイアガラの滝が映る待ち受け画面に現れた通知と共に、耳をつんざくアラーム音が流れた。隣国からのミサイルの情報だった。
いつになっても、世界は仲良くなれない。
ただ家族と、この地球を見に行きたいだけなのに。
それでも、アルトはめげなかった。留学先のことを想像すると、ぐっと我慢できた。
「やっぱりまずはアメリカ。この目で滝を拝まなきゃ始まらないぞ!
そこから旅行でヨーロッパにも行きたいな。世界初の万博をロンドンで主導したのは、オレと名前が似たアルバートさんって言ったっけな」
この冬を越えれば、春から留学にいける。そう思うと寒さも感じなかった。
毎日、期待に胸を躍らせていた。
2019年の、12月のことだった。
明日もまた、同じ一日が始まると信じて疑わなかった。
世界の誰も、このパンデミックを予想できなかった。
世界の全てが止まった。
人と接触することができない。移動することができない。すぐそこにあるはずの幸せに、手が届かない。
世界は、隔絶された。
アルトは泣いた。
無力を嘆いた。
そんなアルトを嘲笑するかのように、世界はまたうねりをあげる。
アルトの携帯の画面に、それは飛び込んでくる。
大国が、軍事侵攻を始めたというニュースが、SNSを占領していた。
3-嘆きとは-
物価は上がり、物資の共有は滞り、仕事は潰され、いつでも混乱できた。
アルトの家族も例外ではなかった。
この事態の乗り越え方など、答えはどこにもなかった。
経済的に苦しくなったアルトの両親は、言い争いが絶えず、毎日不満をぶつけ合うようになり、程なくして離婚した。
どうしてこうも、仲良くできなくなってしまうんだろう。
誰も、互いを傷つけたいわけじゃない。
誰もが幸せに生きたい。自然や人類の叡智を、ただただ楽しんでいたいだけだろう?
幸せって、ただそれだけのことだろう?
アルトは、嘆きを希望に変えた。
「いつか仲直りできる。オレがさせる。
地球を一つにする。地球人全員が、地球の素晴らしさを知り、宇宙に誇るんだ。
父さん、母さん、いつか絶対連れてってやる、創ってやるさ、
”地球万博”だ」
これが、地球万博の始まりである。
____おしまい
改(かい@3分で読める物語)