2023年イワタ新書体「福まるごファミリー」PART.1
みなさま、こんにちは。
フォントメーカーイワタの畑中です。
私事ですが、この4月で入社して1年が経ちました!!
フォントが好き!という理由だけで就職してからというもの、本当にあっという間に1年が過ぎました。このブログを担当することで、自分自身の学習にも繋がっていると実感します。
そんな記念すべき(?)今回は、2023年2月に発表した新書体「福まるごファミリー」のご紹介です!
2020年3月に発売された「福まるご(以下、福まるごオリジナル)」
そのかわいらしいシルエットから、映画や書籍のタイトルなどによく使われている人気書体です。
最近は、動画のテロップなどでも目にすることが多くなりました。
たとえば、TikTokの動画編集画面で文字入力時に「ゴシック」を選択すると、福まるごオリジナルが表示されるんです!
身近なところにイワタの書体を見かけるたびにとてもうれしいです。
皆さんもよかったら探してみてくださいね。
そんな福まるごに、今回、非漢字(ひらがな/カタカナ/英数字/記号類)を新たにデザインした5書体が加わりました。
この魅力的な5書体を、実際に制作したデザイナー目線を交え、2回の記事に分けてご紹介したいと思います。
第1回目となる今回は「ウネル」と「カタル」の2書体です。
詳細な文字の特長を説明する前に、まずは「福まるごオリジナル」の生みの親でもあるデザイン部の本多育実さんに、新書体開発に至った経緯と福まるごオリジナルとの違いを聞いてみましょう。
1.新書体開発の経緯
本多:非漢字を複数つくろうという構想は、福まるごオリジナルの開発当初からありました。しかし、福まるごは殆ど曲線で構成されているため形状が複雑で、しかも5ウェイトを同時制作する必要があったので、試行錯誤の連続でした。
そのような理由から、まずはオーソドックスなスタイルのみを開発することになりました。
──こうしてできたのが、2020年3月に発売された「福まるご」です。
本多:そして2020年発売の福まるごオリジナルが好評なこともあり、2021年末に仮名のバリエーション制作を再開しました。
3名のデザイナーがスケッチから仕上げまで一貫して担当し、2023年2月発売に至りました。
──福まるごオリジナルは2013年に構想を開始し、2016年に本格的に制作が始まったフォントですので、少なくとも7年越しの完成となったわけです!
本多:新書体の制作工程はスケッチ/データ化/修整と、基本的には福まるごオリジナルのときと同じです。デザイン面ではオリジナルはもちろん、イワタ既存の丸ゴシックともキャラ被りしないように、それぞれに明確な特色を出すことを重視しました。
それでいて漢字と一部記号類は共通なので、それらと違和感なく調和することも大切にしています。
この5書体の方向性を定めるまでが、単体のオリジナル制作時にはなかった苦労であり、面白さでもあったと思います。
──なるほど、
ただでさえ新たなデザインを考えるのも大変なのに、既存フォントに仮名ファミリーを追加するということは、もともとのフォントと並べても違和感なく、でも特徴をださなければいけないという、一見相反しているようにもとれる挑戦をすることなのですね。
2.新書体のネーミング
書体名はどのようにして決まったのでしょうか。
これまで、仮名のファミリーフォントを制作した時は「かなA」「かなB」「かなC」「かなD」など、あまり個性のない名称でした。
そこで、今回の福まるごファミリーでは社員ほぼ全員を集めた検討会を開催!!
各自複数の案を持ち寄りましたが、それでもなかなかビビビっっ⚡っとくるものがありません……。
会議が煮詰まりだしたころ、ある若手社員から「物の名前とかだと書体のイメージに結びつくかどうか人それぞれだと思うので、見た目と名前が一致していると良いと思うんです。うーん、例えばうねってるから「うねる」とか?」
との発案が。
「それは新しいね!良いかも!」ということで、書体の特徴になぞらえて
「あそぶ(遊ぶ)」
「うねる(畝る)」
「かたる(語る)」
「たたずむ(佇む)」
「きざむ(刻む)」
という、今までのイワタ書体には無い斬新なネーミングとなりました。
本多:同ジャンルの5書体を覚えてもらいやすいよう、各デザインと親和性のある「書体名」「テーマカラー」「紹介フレーズ」を設けました。
「書体名」はデザイン的な特徴を動詞で名付け、カタカナ表記にすることでより印象的なものに。「テーマカラー」も同様に特徴からイメージし、その由来も込めた「紹介フレーズ」となっています。
──それでは、書体名の由来やテーマカラーも含め、いよいよ1書体ずつ見ていきましょう!
3.新書体① 福まるご「ウネル」
1書体目は、オリジナルも手がけた本多さんが制作した新書体です。
イワタ福まるご「ウネル」は右上がりで華やかな書体です。装飾的な曲線を多く用いた芸術「アール・ヌーヴォー」から着想を得たデザインで、その様式は浮世絵からも影響を受けていると言われます。
うねるような筆遣いは北斎の大波を想起させることから、テーマカラーは、波や海を連想させる紺色を採用しています。
曲線が組み合わさっている「アール・ヌーヴォー」が、ウネルのなかに生きています。
うねうねしている「ウネル」、とても覚えやすいです。
それでは、「ウネル」のポイントをデザイナーの本多さんに聞いてみましょう。
■こだわりポイント
本多:オリジナルが優しくフラットなデザインなので、反対にこってり濃厚で手書き感や個性を前面に出したものにしたいと思っていました。オリジナル制作のきっかけとなった岩田母型の古い見本帳の書体も参考にしています。
かなは筆と紙との摩擦を感じながら書くように力強く、英数字は渦巻き波打つ装飾的なエレメントで華やかに、本来性質の違う言語同士が融合することを目指しました。
また、この動きを見せるためオリジナルよりも少し細めに設計しています。
■苦労した点
本多:かなは制作初期からイメージが固まっていましたが、英数字はしばらく悩みました。
かながゆったりS字を書くような骨格なので、曲線を多用するアール・ヌーヴォーをモチーフに選び、装飾の形状をいくつも試作して今の形にまとまりました。
──こんな風に、試作を重ねて形になっていくのですね。
■組見本
福まるごファミリーの5書体は、全てL~Eまでの5ウェイトを展開しています。
情緒ある和のうねりの雰囲気にとても合います。
太いウェイトでは強い語勢にグッときますね。
英数字は華やいだ世界に引き込まれます。
4.新書体② 福まるご「カタル」
2書体目は、デザイン部の坂口さんが制作しました。
イワタ福まるご「カタル」は映画字幕などで使われていた特徴的な文字(字幕文字)をモチーフにした書体です。線画が長く高低差の少ない骨格と、線端の抑揚が手書きのイメージを伝えます。
レトロな映写機で映し出された名作が優しくゆっくりと語りかけるかのようです。
うねうねしている「ウネル」に対して、語りかけるような「カタル」。
テーマカラーは、古い映画のフィルムを彷彿とさせるセピア色。
文字の性格がネーミングとカラーにつながっています。
こちらも、「カタル」のデザイナー、坂口さんにポイントを聞いてみました。
■こだわりポイント
坂口:字幕以外にも用途を広げ自由にデザインしたことです。
福まるご全体の特徴でもありますが、5ウェイト展開というのはカタルにとって特に面白いポイントです。既存の字幕系フォントでは細めのウェイトに限られていたので、太いウェイトには今までになかった風貌が生まれていると思います。
また、英数字には字幕系とは違ったデザインを取り入れています。字幕文字の英数字は仮名ほどは特徴的ではないので、仮名からイメージを膨らませ両者に一体感をもたせました。
ナチュラルな筆勢や、几帳面な雰囲気を意識しています。
■苦労した点
坂口:全体の構想です。
すでにオリジナルの仮名がある中で、漢字になじみつつ他のバリエーションとも違う個性を持たせることに苦心しました。
また、映画字幕というコンセプトとは違う案で進めようとしていた期間もあったのですが、改めて確認すると製品案にたどりつくまでに半年もかかっていて驚きました。
──やはり、「オリジナル書体との融合」と「個性」は、仮名のファミリーフォントを制作する上でぶつかる壁なのですね。
デザインの変遷をみると、どんどんと特長に磨きがかかっていく様が分かって、とても面白いです。
■組見本
カタルの世界はこちらです。
物語を感じるのは字幕文字由来の形ならではですね。
ウェイトが揃っているので大きく使いたいタイトルにもバッチリはまります。
今回ご紹介したのは、5書体中の2書体ですので、
次回は、福まるご「アソブ」「タタズム」「キザム」をご紹介します。
それでは、ご覧いただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!