左投手が即戦力になりやすい理由と、それでも苦戦する左投手の傾向


右投手の大学プロBB%相関だけ出して満足してたので、確認のために左投手での相関を出してみたんですよ

左投手にしかできない戦略とは

左投手_NPB1年目BB% と 大学BB%

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鈴木昭汰、小島和哉、岩崎優が大学時代よりBB%を改善させているのです。プロではストライクゾーンが狭まるわけで、理由がわからず30分ぐらい固まっていました。こういうときはTwitterに頼ります。

これだ。先述の小島和哉について、動画を見ると大学時代のストレート球速は 137 ~143 km/h ほどだったようです。DELTA によれば、小島のNPB1年目のストレート平均球速は 138.8 とのことなので、大学時代の下限に近い球速帯で勝負していたことが伺われます。初見の左投手という優位性を活かし、球速を落とすことでコントロールの改善を図ったのではないでしょうか。

なお小島はNPBでの2年目 139.3 、3年目 143.3 と球速を上げていき、同時に、ほぼBB%を増やさない(8.6→9.8→8.4)など、大学時代の上限に近い球速のストレートを使うスタイルチェンジに成功しているようです。

鈴木昭汰は、大学時代はパワーピッチャーとしての面が強かったように思います。MAX150と称され、試合でも 146 ~ 148 は出していたようです。それに比べて、NPB1年目は 平均 145.1 とのことなので、やはり抑え気味な印象を受けます(小島ほど極端ではないですが)。
https://www.youtube.com/watch?v=2rqy-cBYJJY

先日のnoteで触れたように、左投手は捉えられにくい傾向があります。これを活かして、コントロールを重視して球速を落とし、プロのストライクゾーンに適応する戦略を採用しうるのではないのでしょうか。

それでもなお苦戦する左投手にみられる傾向

左投手は大学時代のBB%が右投手ほど良くなくても、球速帯が高ければ、球速を落とすことでコントロールが改善し、十分に通用しうる可能性が示されました。それでは、なお通用しない左投手は何を要因として苦戦してしまうのでしょうか? 普遍的な分析は難しいですが、気づいたことがあったので書いておきます。(これから話題に上げる上原健太選手は現役で、齊藤大将選手も育成契約みこみとのことで、まだ通用しなかったと決めつけるのは早計ですが、現時点ではということでご容赦下さい)

横山貴明の場合

DELTAを参照すると、2014 - 2016 のあいだ、一貫してストレート割合が50%を越えており、チェンジアップが15 - 25% 程度の間で推移しこの2つが主な球種だったようです。しかしながら、チェンジアップの価値(wCH)は一貫して大きなマイナスを記録しています。当時の試合評を見ても、コントロールと質の両面で苦労し、痛打されたようです。

また、2年目からツーシームを習得し15%ほど投げました。技術論には明るくないですが、緩急が付かないため、ツーシームだけで有効な投球をすることは難しく、他に有効な変化球が要るのではないかという印象を受けます。

齊藤大将の場合

DELTAを参照すると、2018 - 2020 のあいだでシンカー(スクリュー)の割合を増やしたようですが(6.3→13.1→25.8)、それ以外はストレートとスライダーの二択だったようです。しかしながら、軸であるスライダーの価値(wCH)は一貫して大きなマイナスを記録しています。データで楽しむプロ野球によれば、2020年のスライダーの被打率は.412、空振率 6.5%、見逃し率 16% とのことなので、コントロールは分かりませんが、少なくとも質には苦労した印象を受けます。

左右を問わず、スライダーは基本的な球種のひとつとされています。スライダーを捨てた、ストレート/シンカーの2ピッチというのは見たことがありませんが、成り立ちにくいのかもしれません。

上原健太の場合

DELTAを参照すると、登板が少なかった2016年を除き、2017 - 2021年の間でストレートが50%、決め球のフォークが15%程度で推移しています。2017年に使ったツーシームはそれ以降は使わなかったようです。チェンジアップが5 - 10%、スライダーが20 - 30%程度で推移しています。

価値を見ると、フォークが一貫して有効に機能していて、スライダーとチェンジアップは平均すると0程度のようです。それに対して一貫してストレートがマイナスを記録していて、フォークで作ったプラスを上回ってしまっています。ストレート球速は左投手としては十分通用しうる平均140ほどを担保しているようで、なぜ機能しないのか分析するのは難しいところです。

同じ日本ハムで加藤貴之もフォークを20%ほど投じる投手です。15-25%のスライダー、5-10%のツーシームとカーブを使い、2021年はカットボールにも取り組んでいるようです。2019年以降の田口麗斗も、割合は10%程度とやや少ないですが、左でフォークの使い手です。以前はスライダーが投球の軸でしたが、割合を減らし近年はフォークのほか、2020年のカットボール、2021年のツーシームと年に一つ新球種を獲得しています。そして両名とも、40%台だったストレート割合を減らし、2021年には30%台になっています。

フォークはボールになる球種のため、2ストライクに追い込むまで多投はできません。上原投手は追い込むまでのカウント球で、速くないストレートの割合が高く、狙われてしまっているのかもしれません。ストレートの割合を減らすことができる変化球の取り組みが重要な印象を受け、2021年のカットボール習得はそうした試みの一つではないでしょうか。

まとめ

* 左投手は捉えられにくい分、球速を落としてコントロールを良化させる戦略が可能。アマチュア時代のBB%が10%を越えていても、元の球速帯が高ければ対応することがある。

* それでもなお苦戦する左投手は、コントロールの他、有効な変化球の確保に苦しむ傾向がある。球種は現役中に獲得することが可能なので、「入団時の変化球の質」だけでなく、「プロで通用する新たな球種を獲得できる能力」が問われる。

* スカウティングの視点から言いかえると、単に現状の変化球を見るだけでなく、「新球種を獲得する能力」の評価が重要(できるのかは分からないが)。右投手については球速の上がり幅を評価することが重要だが、左投手については球速帯を下げることでコントロールを良化させる可能性についても並行して評価しなければならない。

* カットボールの習得が流行っている。

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