【映画レビュー】最後の決闘裁判(2021)
Filmarksに載せた「最後の決闘裁判」(2021)の映画レビューです。
ウソやホントを越えて、規範の歪みで真実が見えない人間のおろかしさを、才人たちその才を持ち寄って練り上げた逸品。
監督のリドリー・スコット。脚本兼出演のマット・デイモンとベン・アフレック。本当にいい仕事してます。見事、さすが、と賛辞を送りたいです。
「羅生門」スタイルです。でも、「羅生門」のようにウソかホントかはあまり関係ありません。
ウソかホントかはさておき、「最後の決闘裁判」は、規範(宗教、法律、慣習、因習などなど)の歪みが生む偏見に気づかない、人間の愚かしさを描いた作品だと思います。
古い規範の歪み、根拠のなさ、人権侵害ぶりをあげつらいながら、現在でも通用してしまっているそういう規範の愚かしさを、あぶりだす作品です。
中世のどんよりした空気を曇り空で描き続けて、最後だけ晴れ晴れさせる「セブン」的手法を使いこなすあたり、さすが巨匠リドリー・スコットだと思いました。
マット・デイモン、アダム・ドライバー、そして女優のジョディ・カマーもさることながら、個人的にうなったのは、ベン・アフレックの演技でした。権力者特有の、欲望を満たし飽きているのに、それでもさらに工夫して欲望を満たすことばかりに人生を浪費している人間がかもす、気だるさ。自分に都合が悪くなった時にみせる、巨大な権力の行使をちらつかせるときの、怖さ。演技に見入ってしまいました。
私としては、アダム・ドライバーの従者とジョディ・カマーの義母が通じている、って話になってくると、なにやらミステリー作品になっちゃうなと思ってみてましたが、そこに踏み込まないあたりも、さすがと思いました。
興行的にはふるわない映画だと思います。実際にそうだったみたいです。でも、興行成績がふるわずに話題に上りにくいけれど、良質さが練り上げられたこういう逸品に、たまに巡り合えることが、映画好きの本懐ですね。
改めて、見事、さすがでした。
(了)