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「情報発信」は、どうあるべき? クリエイターと広報のもやもや反省会。

どんな活動をしていても、関わってくる「情報発信」というテーマ。

「つくる」だけで仕事が成立すればいいけれど、つくったものを「伝える」ところまでしないと望む結果につながらない……。

情報発信は、デザインやものづくりを手掛けるクリエイターにとっても悩ましい課題の一つです。

クリエイターユニット「岩沢兄弟」も悩みながら情報発信に取り組んできました。そこで2019年から、広報・編集担当として中田一会さん(きてん企画室)に参画してもらいました。

ともに広報活動に取り組んで6年目。情報発信をめぐる成功秘話……ではなく、これまでの反省会をしてみました。その一部始終をお届けします。



登場人物紹介

たかし(いわさわたかし/岩沢兄弟)
千葉県千葉市で活動するクリエイターユニット「岩沢兄弟」の弟の方。音響や映像関係のディレクション、クライアントとの交渉、プロジェクトの企画、進行管理など、“よろずディレクション”担当。岩沢兄弟のなかでは言語化を担っている。

かずえ(中田一会/きてん企画室)
“伝える”ことに特化した企画事務所「きてん企画室」の代表。広報PR活動やコンテンツ編集の経験が豊富。2019年頃から岩沢兄弟に伴走し、ウェブ更新、メルマガ編集、SNS運営、兄弟の原稿編集などを担当している。


そろそろ「苦手な話」をしてみよう

たかし:
かずえさん、今日はありがとうございます。突然なんですが、自分も歳を重ねまして、「弱点をちゃんと公開するのが大事」と思うようになりました。それで今日は、正直、めちゃくちゃ苦手だと思っている「情報発信」の話をしたくて。

かずえ:
しましょう。苦手意識があるんですね。

たかし:
あります。情報発信やブランディングって、SNSでの発信が上手い人を横目に「へぇ〜」と眺めるような気持ちで過ごしてきたんですが、やっぱり大事。そもそも人に知ってもらわないと、必要な場に呼ばれないじゃないですか。だから発信しないといけないとは思っている。だけど自分の中にまったくメソッドがないことに気づいたんです。

かずえ:
たかしさんが私に相談してくれたのは、2019年頃ですよね。もともと知り合いではあったけど、「広報というか、編集の技術が必要なんです!」と、私が出演したイベントにきて言ってくれました。

たかし:
そう。それで、かずえさんと一緒にウェブサイトのリニューアルをして、会社名ではなく「岩沢兄弟」と名乗るようになって、月1回メルマガを出して、noteもはじめて、SNS更新も頻繁にできるようなりました。

2019年にリニューアルした「岩沢兄弟」のウェブサイト(https://battanation.com/

情報発信してみたら、依頼される仕事が変わった


かずえ:

みんなで頑張りましたよね。積極的な情報発信をはじめて変化はありましたか?

たかし:
「できること」「やってきたこと」「考えていること」が可視化されて、以前よりも、やわらかい手つきを求められる仕事が増えましたね。

かずえ:
この6年間で本当にプロジェクトが多様化しましたよね。オフィスデザインや家具デザインの比重が大きかったところから、アート関連の企画、配信スタジオの設計、福祉にまつわる場づくりまで。「納品」よりも「プロセス」を大事にできる仕事も増えた気がします。岩沢兄弟の持っているユニークな視点やクリエイティビティがあってのことですが、情報を発信してみるとそれを受け取った人から思わぬ仕事がくるのがまた面白いですよね。

たかし:
そう、最初狙っていたところとはちょっと違う、ふしぎなところに転がってたどり着いた感じがします。それには一定の達成感があって。でも次は「できないこと」をもっと伝えたり、そんなにやりたくないことは避けるような情報発信も必要かなと思ってるんです。

情報発信を見直すまでの仕事はオフィスデザインなど、企業から依頼をうけるプロジェクトが主だった。(写真:Rockaku|大塚オフィス、2019年1月竣工)
次第にアートプロジェクトの拠点づくりや、芸術祭や美術館などからの依頼が増えてきた。ときには「作家」として場作りをすることも。(写真:千葉市美術館|キメラ遊物園、2022年1月13日〜4月3日開催)

「プロセス」重視の発信からアートの現場へ


かずえ:

2019年に情報発信をちゃんとしようと決めたとき、広報の年間スローガンが「満を持して、主張しはじめる(おだやかに)」でした。2002年に法人(有限会社バッタネイション)を設立して17年目のタイミングなので、まさに「満を持して」でしたね。主張する内容は「つくる手前からはじめる」とか「つくりながら考える」こと。

たかし:
そうです。2018年までは、プロジェクトの最後に形をつくる制作部分のみ依頼されるとか、企画の「オモシロ」的な味付け役として呼ばれることが多くて。自分達としてはもっと得意なところがあるのになと思ってました。「ただしい召喚の仕方」をされたいということが情報発信の起点でしたね。

かずえ:
だからプロセスやプロトタイピングを大事にした記事をたくさん書きましたよね(※1)。どちらかというと「デザイン思考」とか「デザインリサーチ」的な仕事を狙って記事をつくってみたけれど、結果的にはプロセスを重視するアートプロジェクトの現場から呼ばれることが増えたりして。

※1 :代表的な記事は「リアルスケール・プロトタイピング(=実寸大で試行錯誤してみよう)のススメ」「「たらい」をつくる仕事」「すこしだけ迷子になる」など。岩沢兄弟それぞれが原稿を書き、かずえが編集してブラッシュアップする方式で執筆していた。

転機となった仕事のひとつは、東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京「東京アートポイント計画」の一貫で実施されていたアートプロジェクト「HAPPY TURN/神津島」の拠点づくり(写真は2019年10月頃)。プロセスを大切にするアートプロジェクトの空間づくりを担当したことがきっかけで、プロジェクト全体の伴走者にもなっていく。

「ゴール」や「ターゲット」はそんなに狙えない


たかし:

岩沢兄弟としては、「我々を渦中においてください」「その場に滞在させてください」というメッセージを発信してきたつもりなので、そこは狙えたのかな。アート現場の需要があるとは意外でしたけど。

かずえ:
アート関連の仕事、やってみてどうでした?

たかし:
拠点づくりとかプロジェクトメンバーに入るのはしっくりくるんですが、「アーティスト」として呼ばれるとちょっと違うときもあるかな。僕達は「ただひたすらプロトタイピングし続ける人」だと思われていたい気持ちがあります。

かずえ:
新しい肩書き……!なるほど。私自身は情報発信のゴールやターゲットって、そんなにコントロールできないものだと考えています。ただし「声をかけやすい雰囲気を出す」「得意なことを知ってもらう」とか、必要な場合には「依頼のハードルを下げる/上げる」みたいなことはできる。

たかし:
わかります。

かずえ:
情報発信はあくまでボールを投げることなので、それを受け取った人が「こんなことやってみない?」とスカウトしてくれるような形が一番いいですよね。だから思わぬ方向に転がったのはいいことだとは思ってます。

たかし:
それはそう。実際、「スカウト」される形で新しい領域に出会うのは面白いですよ。意外な可能性が広がって。

「TSURUMIこどもホスピス」のティーンエイジャー向けの空間ディレクションやアーティスト選定等にも関わった。福祉・医療的な視点での場づくりも近年関わるように。(2023年)

ミスマッチを感じたら「面倒くさく」見せる手も


かずえ:

でも、違和感を抱いたらチューニングはしていきたいですよね。どんな仕事にミスマッチを感じますか?

たかし:
たとえば、企業関係のプロジェクトだと「仕掛けをつくって人の行動を誘導するようなアイデア」を求められる仕事は向いてなかったかな。参加型のゲームに落とし込むような企画は僕達につくれないし、そもそも人の行動を決めちゃうようなことが苦手です。あと僕の場合、コロナ禍を経て、映像配信ディレクションの仕事も実は増えてるし稼げるけど、それだけをしていくのはあまり向いていない。

かずえ:
なるほど。前者は、「TMPR」(※2)でチャレンジし体験設計の考え方をもっと発信すると良さそうですね。あと「オモシロ」的な期待とか誤解を解くには、もっと積極的にわかりにくくてめんどくさいものが好きそうな感じを出すとか……。映像配信は完全に業界の口コミですよね。それで稼がなくてもいいぐらい他の仕事も必要だ。これからやることいっぱいですね!

※2 :TMPRと書いて、「てんぷら」と読む。岩沢兄弟、堀川淳一郎、美山有、中田一会によるアートユニット。不思議な目的を掲げたテクノロジー+まちあるき作品をつくり、CCBTで大々的に発表した。詳しくはnote記事「機械に指示されて街歩き!? AIが日記を生成!? 世界初のリサーチ拠点で"癖あり"イベントを開催!」をどうぞ。

たかし:
ですね。しかもそういっためんどくさい志向を持って「食べていけるぐらい稼ぐ」のが目標なわけです。がんばらないと。

かずえ:
今さら気づいたんですけど、ややこしいことしてますね!

アーティスティックリサーチユニット「TMPR(岩沢兄弟+堀川淳一郎+美山有+中田一会)」とし発表したTMPR「動点観測所」ワークショップ&公開観測。なかなかわかりやすい活動に落ち着けないのが、岩沢兄弟の長所でもあり……。

広報が運営する「公式アカウント」は別人格


かずえ:

話は変わりますが、岩沢兄弟のメルマガやSNSの文章、noteの記事などは、私やエリさん(※3)が書いたものも多いじゃないですか。ひとしさんやたかしさんの言葉じゃないけど、本人としてどう思ってます?

※3 :岩沢エリさん。岩沢兄・ひとしの妻であり、渋谷のクリエイティブエージェンシーでバリバリ働くマーケッター&コミュニケーター。多忙ななか、岩沢兄弟のプロジェクト整理や仕事実績コンテンツなどをサポートしている。意識とアイデアが拡散しがちな岩沢兄弟+かずえにとっての羅針盤的な存在。

たかし:
「もう一つの人格」だと思って眺めてますよ。アカウントが喋っている感じ。違和感はないというか、「岩沢兄弟」というキャラクターはこうなんだなって感じ。僕自身は個人の情報発信ってすごく難しいと思っていて。SNSアカウントは路上観察学会的な、みつけたものを写真と一言で投稿する記録の場にしている。その使い方はきらいじゃないんだけど、自分の活動や思いや仕事について語るかというとできない。

かずえ:
そうなんですね。たかしさんが個人アカウントを伸び伸び使っていくためにも、公式アカウントがしっかり情報だしていこうって思いました。

そこまで細やかな運用はできてはないけど、「岩沢兄弟が言ってそうだな」というパブリックイメージからはブレないようには気をつけています。「!」は語尾につけないとか、ちょっとそっけなくするとか。

岩沢兄弟のInstagramアカウント(@wasawa_bros._design)のテキスト執筆はかずえが担当。

「岩沢兄弟」と名乗りはじめて自我が芽生えた


たかし:

同じ場面にいても、かずえさんが岩沢兄弟アカウントでそのことについて投稿すると毎回関心するんですよ。「伝わる!」「そうそう!」って。言葉を仕事にしている人のSNS投稿って、ちょっとした書き方でも本当に違う。

かずえ:
なんと……恐縮です。たぶん、短い文の中に、背景や文脈の説明を入れ込んだ上で切り口をつくるような手つきが独特なんですよね。でもキャラクターをなりすまししているつもりはなくて……。

たかし:
わかります。別に岩沢兄弟になりきって「憑依」しているわけではない。あくまで公式アカウントという立場から「僕達いまこんな感じです。みなさんどうですか?」と話しかけている感じ。だから、先に公式アカウントに触れた人たちに仕事で呼ばれると、兄でも僕でもなく、「岩沢兄弟」というキャラクターをちゃんと内面化している感じがします。

かずえ:
いやではないですか?

たかし:
「自分たちであって自分たちでないもの」として受け止めてます。2019年に堂々と「岩沢兄弟」と名乗ったことで自我が芽生えたんですよ。自分たちの意識や立ち振る舞いも変わってきたと思います

 メルマガ「月刊 岩沢兄弟」。名刺交換をした方々向けに、役に立つようなそうでもないような不思議なレターが毎月岩沢兄弟から届く、一部で根強い人気がある媒体。

メルマガ配信が止まっている問題の根幹は……


かずえ:

では最後に、本日一番の反省ポイント、2019年からほぼ毎月だしてきたメルマガの配信が2024年8月を最後に約5ヶ月止まっている件について話しましょうか……。

たかし:
はい……。

かずえ:
本当にすみません。メルマガの編集をつとめる私が頑張らないといけないところだけど、岩沢兄弟と私が一緒に動くプロジェクトがあって、みんなで忙しくなるポイントで手が止まっちゃうんですよね。一昨年取り組んだアートユニット「TMPR」のときも、去年はじまった「千葉国際芸術祭2025」の企画運営も。情報発信としてはあるまじき状況です。

たかし:
気づいたんですけど、僕達って、ブランドやユニットを複数使い分けられない性分じゃないですか。拠点を増やすと前の拠点を全然使わなくなるということを繰り返してます(※4)けどそれと同じで。我々は「運用」が苦手なんですよ! かずえさん含めて。

※4 :西千葉のアトリエ「松波放送室(通称:松波)」、市場町のアトリエ「つくるにわ(通称:高田屋)」、市場町の拠点「アーツうなぎ(通称:安田)」 など、岩沢兄弟は千葉県千葉市中央区内で拠点を複数展開しているが、新しい場所ができるたびに物と活動を動かしてしまい、結果的に廃墟化している。あと名前をつけても通称で呼ぶ癖がある。

かずえ:
!!!!!……その……通り……です。

たかし:
しかも別に器用じゃない癖に増やしたがるんです。なぜならプロトタイプが好きだから。やってみたくなっちゃう。そして並行して動かすことが苦手で、運用が続かない。岩沢兄弟メルマガが止まっているのは、そのあいだに別拠点やユニットの活動に大集中しているからです。

かずえ:
すばらしすぎる分析。つまり私達には体制が必要ですね。

たかし:
そうです。コツコツ続けることが得意な仲間が必要なんです。そして仲間を増やすには、いろいろなプロジェクトやユニットや拠点を増やすしかない。その中で出会っていくことが大事。今後はその記録と情報発信をちゃんとしていこうね、というところが重要ですね。僕達が情報発信をしているのは、仕事がほしい以上に仲間がほしいからだと思っています。

かずえ:
本当にそうですね。そのためにも千葉国際芸術祭2025(※5)、頑張りましょうね。

※5 :千葉市で開催される「千葉国際芸術祭2025」では、千葉市内在住のクリエイターやプレイヤーが「地域リーダーズ」として運営に携わっている。たかしはアートプロジェクトディレクター、かずえは広報ディレクターであり、二人ともそっちに気がそぞろでメルマガ発行が滞っていました。

千葉国際芸術祭2025 記者発表会の様子。岩沢兄弟もかずえも企画運営メンバーとして参加。

適正規模のクリエイションを支える情報発信


かずえ

話は戻って、少しまとめを。情報発信で「伝えたいことを全部ただしく理解してもらう」ことはできません。でも「誤解」される範囲のコントロールはできる。岩沢兄弟の情報発信は特にそれを大事にしていて、遊び心を大切にしつつ、誰かに紹介しても大丈夫だと思えるような、信用に関わる情報を残すことは続けていきたいです。でもズレていて気になるところはチューニングしましょう。

たかし:
かずえさんが最初の方で言っていた『「こんなことやってみない?」とスカウトしてくれるような形が一番いい』ってことですよね。あと手紙を届けるような感覚でやっていますよね。ウェブサイトに乗せるプロジェクト情報でクレジットを細かく記載するのも、仲間を大事にする意味で重要だなと思ってます。

かずえ:
岩沢兄弟の場合はマスでウケるとか、バズる等はなくていいと思うんです。大事にしているサイズのクリエイションをそのまま伸び伸びと続けられる環境を情報発信でも支えたいです。

岩沢兄弟とかずえで企画運営した「オープンスタジオ2023」。千葉市を拠点にしてから仲間がすこしずつ増えてとても賑やかな日だった。小さくて楽しくて、その先の仕組みにつながるようなことを続けていきたい。

そもそも炎上しない世界に向けて

たかし:
結局、僕達、岩沢兄弟は「もやもやするしかない」「解決されない」って物事が大事だと思っていて。考え続けたり、試してみたりし続けたりするしかない、だからプロトタイピングを続けているんです。でもそのためには、やってみたことの過程や考えについて、まとめたり発信したりする必要性を痛感しました。淡々としていてもいいから、記録に残すことはもっとチャレンジしないと。

かずえ:
記録、がんばりましょう。6年つきあってますが、本当に岩沢兄弟のスタンスは一貫してますよね。そのうえで手つきがずいぶん優しくなったなあと。

たかし:
自分もそう思います。昔は炎上している現場を沈静化して振る舞うことが自分の役割だと思っていたけど、今はそもそも炎上するようなことが起きてほしくない。マス志向の仕事って、個の大切なことがないがしろになってしまうから苦手です。小規模なことを大切に、でもそれが仕組みに活かされるようにもう少し大きいことも手掛けられるようにしていきたい。そのためには得意じゃないけど情報発信はこれからも頑張りたいです。

かずえ:
はい、私も同じ気持ちです。方法を探っていきましょうね!

(2025年1月対談/文・中田一会)


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