今、なにをなすべきか

コロナは、人間が社会的動物であると言うことを巧みに突いた感染症です。例えばワクチンで熱を出して一日休むとクビになるからとワクチンを受けられない中小企業の労働者がいます。発熱して夜間外来に来てコロナ陽性と分かっても、コンビニバイトを休めない若者がいます。

もしその若者がコンビニに「コロナに罹りました」と言ったら、即座にクビでしょう。そして店長はそれ以上何ら適切な処置を執らないはずです。当然その店の従業員は皆感染の可能性がありますが、コンビニ自体が大企業に利益を吸い上げられて自転車操業しているのですから、店長には本人をクビにする以外手立てはありません。

このように、コロナは人間の社会矛盾をビシリと突いてきます。社会的弱者をホストにし、免疫学的弱者を確実に殺していく。語弊はありますが「敵ながらあっぱれ」です。

こうした面に目をつぶり、「自分は医者だから社会や政治は関係ない。ただひたすらワクチンを打つ」という医者はダメです。ワクチンの効果は、ファイザーがなんと言おうと、リアルワールドでデルタ株には確実に低下しています。それにどうやらイスラエルの状況を見る限り、ワクチンの効果は一年程度のようです。

ですから、ワクチンをひたすら打っても人類はコロナに勝つことは出来ません。従来株なら感染するのは若者で、重症化、死亡するのはもう寿命に近い老人でしたが、今の重症化の主流は40代、50代、社会の主流です。それに30代まで重症化が進んでいます。

「感染者」という分母が多ければ「重症者」という分子も増えるのは当たり前です。しかもデルタ株では分母と分子はかなり重なりつつあります。治療の決定打が無い以上「感染者」という分母をできる限り抑えるしか手立てはありません。

武漢の例を挙げます。当初武漢当局は問題を隠蔽しました。しかし中国国内のSNSで虚実折り混ざった情報が膨大に飛び交い、中国中央政府の統制が効かない事態にまで発展したのです。

そこで習近平政権が取ったのは、まず武漢の過ちを中国中央政府自体の過ちと認めて国民に詫び、責任者を処罰したこと。これは国民の支持を取り付けるのに絶対必要でした。その上で、中国は二つのことをしました。

まず新型コロナに関しては情報隠蔽はぜったいにしてはならないと言うことを学び、それを実行しました。何省何市何県(中国では市が県より広い行政単位)、何街で何人感染者が見つかり、何人重症者が出たと言うことを全国あまねく毎日報道しました。これによって国民の疑心暗鬼を収束させたのです。

そしてもう一つ大事なことは、当初武漢で自宅隔離を試みたのですが完全に失敗したのです。自宅隔離は家庭内感染を拡げ、家庭内感染した人は職場や地域で感染を拡げました。ダメだと悟った中国政府は、たまたま建設中だった武漢の二つの建物を急遽感染者、軽症者の収容施設にし、感染者は全て施設隔離にしたのです。その頃武漢で救急治療に当たっていた医師がオンライン講演で、「あれで漸く燭光が見えた」と述べていました。その他にも大学の学生寮とか、ホテルとか、使えるものは全て使って感染者を隔離したのです。

ですから今日本政府が言っている「自宅隔離」は武漢で中国が失敗を痛感し、またアルファ株感染だった関西でも失敗した方法で、また失敗をくり返す意味はありません。パンデミックに陥った関東圏では、早急に「全例施設隔離」というはっきりした目的のために大規模検査をやり、感染者を隔離すべきです。分母を減らさないといけないのです。ただ検査を増やせば良いというものではないという反論はその通りです。しかしここで私が主張しているのは、可能な限り感染者を見つけ出し、全て施設隔離するために大規模検査をやれという具体的な目的をはっきりさせた話です。

どこに施設隔離するか。デルタ株の重症化率を見る限り、バイタルチェックが可能な大規模施設を作らなければなりません。それはあります。選手村です。

パラリンピックは中止し、直ちに選手村を大改造して酸素吸入まで対応出来る施設に作り替えるべきです。いや選手村はマンションとして分譲してあるし、事故物件になるし、などと言ったことは、後で散々悩めば良い。武漢の時中国政府も大学の寄宿舎から学生全部追い出して隔離施設にしたのですから。大災害の時は今を優先すべきです。下らぬそろばん勘定をしているときではありません。

勿論、五輪客を当て込んで急増されたホテルも今ガラガラですから、収容施設に使えるでしょう。しかしデルタ株の重症化率を見ると、ホテルを収容施設にするのは危険です。東京分散しているホテルを改造して酸素吸入とバイタルチェックが出来るようにするのは技術的に難しいでしょう。しかし無症候感染者についてはそれをやるべきです。

ともかく、「感染者」という分母を減らさなければなりません。最終的にはロックダウンも射程に入るでしょう。しかしご存知の通り、ロックダウンは今すぐ出来るものではありません。法制化が必須ですし、例え法制化しても今の政権では民衆を説得出来ないでしょう。民衆からそっぽを向かれることをやり続けたのですから。

従って、当然の結論として、司令部は変えなければなりません。戦のさなかに将を変えるは下策と言いますが、もう短期決戦では無く長期籠城戦になったことが明らかなのですから、ここで軍勢を立て直さなければなりません。慌てても仕方が無い。つまり一定の犠牲が出るのはもはや仕方が無いと言うことです。孫子が言った「多少の犠牲や譲歩をしても戦は短期で納めろ」の完全に逆をやったのですから、多大な犠牲が出ることを覚悟して長期籠城戦への布陣に変えるべきです。

まず早急にパラリンピックは止め、選手村を収容施設に大改造する決意を持つ政府。そして冒頭に私が挙げたような、ワクチンの発熱で休むとクビを切られるような中小企業の労働者とそのクビを切らざるを得ない中小企業両方に、またコロナと分かってクビになるのでバイトを休めない若者とそのコンビニオーナーの両方に、つまりコロナが確実に突いてくる社会的弱者に充分な補償をし、保護し、そして隔離する。感染性がなくなれば確実に復帰出来る事を保証する。そう言う政府を作らなければ、日本はコロナに負けます。

社会や政治や経済から目を背けてひたすらワクチンを打ってもダメなのです!医師法第一条を思い出してください。

「医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする」。

これです。医者はワクチンを打つ機械ではありません。「医療及び保健指導を掌る」者です。今ほどこれが問われているときは無いと私は考えます。


いいなと思ったら応援しよう!