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咲くやこの花館-虫を食べる植物展2023-(2023/8/5)
1.はじめに
おはようございます。こんにちは。こんばんは。IWAOです。時期的には、前のものになってしまいますが、今回は、咲くやこの花館の特別展示である食虫植物を見に行きました。食虫植物とは、何者か、どのようにして虫を捕るのかについて紹介されていました。是非、ご覧ください。
2.構成
このブログでの構成は、「食虫植物」とはどのようなものがいるのか、「食虫植物は虫を食べてばかりではない・植物である面」、「ウツボカズラ」の3点にテーマを設定し、この特別展示について紹介していきます。
植物の生体が、展示の構成の中心となっていましたが、一部は、標本なども利用されていました。
3.食虫植物とは?
書いて字のごとく、「虫を食べる植物」のことを指します。ただ、これで終わりません。皆さんは、虫を食べる植物と聞いた時、どのように虫を食べる植物かをイメージしますか?落とし穴に落とすもの、ふたを閉めてムシを閉じ込めるものなどと虫の取り方は、多様です。ここでは、食虫植物にはどのような種類のものがいるのかについて紹介していきます。
まず、食虫植物の代表は、「ウツボカズラ」でしょう。ウツボカズラは、壺上の袋を作り、その中に消化酵素を含む水をためて虫を待ちます。袋から出る蜜やニオイに誘われた虫が、袋の中に落ち、消化・吸収されるという「落とし穴式」の食虫植物になります。この落とし穴方式をとる食虫植物がおり、「サラセニア」の仲間がそれに該当します。下向きの毛が生えているため、滑りやすくなっています。
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次は、「タヌキモ」になります。こちらの植物は、湿地帯に生息しており、「吸い込み」式の食虫植物になります。スポイトのようなものも持ち、センサーとなる糸に生物が近くに来たことを感知した時に、水と生き物を一気に、そして、一瞬で吸い上げます。ゆっくりと時間をかけて水だけを吐き出して獲物の栄養を吸収します。
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この丸っこいので、近くを通りかかった微生物を捕食します。
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*下のリンク先から、タヌキモの捕食の瞬間が見られます。(1:25辺りです。)
そして、「粘着式」では、モウゼンゴケ、ムシトリスミレが挙げられます。葉の表面にネバネバした液を分泌し、虫を捕まえます。その液には、消化液が入っています。また、モウセンゴケの場合、腺毛という葉があり、その葉が、虫を感知した時に、折れ曲がって虫を取り囲んで捕食します。
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こちらも腺毛を持っているのが分かります。
さらに、「二枚貝式」というのがあり、こちらは、「ハエトリグサ」がその代表例になります。2枚の葉が重なり合って、虫を捕るという取り方をしています。また、片面に3本、計6本の感覚毛を持ち、それがセンサーの役割を持ち、2回触れると葉が閉じるという作りになっています。ハエトリグサは、葉の「開閉」に非常に大きなエネルギーを使います。よって、いたずらにつついて閉じる様子を見るのは、やめましょう。
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赤丸を付けた箇所にセンサーとなる感覚毛があります。
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オレンジ丸は、感覚毛です。
最後は、捕虫用の葉を土の中に伸ばして小さな生物をとる「誘い込み式」になります。ゲンセリアを代表としており、Y字形でねじれた葉を持ち、そのねじれた切れ込みの隙間から水と獲物を吸い上げて、生物もろとも吸収してしまうという採食法になります。
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(*筆者作成)
以上が、今回の咲くやこの花館の特別展で紹介された食虫植物です。ここで紹介した食虫植物をまとめると以下の図のようになります。
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食虫植物の生物の採り方と言っても、手段が非常に多いことが分かります。何故、虫を食べるようになったのか、どのような環境にいたのかなど要因は、植物によって、違いがあると思われます。それでも、虫を捕るための手法一つだけでもここまで多様な手法を発展させたのには、驚かされました。
4.食虫植物は植物である
食虫植物というと第一に「虫を食べる」ことになりますが、それ以前に彼らは、植物です。しかし、「虫を食べる」以外の面の食虫植物の姿を知っている人は、あまりいないのではかと思いましたし、私もそうでした。ここでは、食虫植物は、「虫を食べる」以外の生態について紹介していきます。
まず、食虫植物は、虫だけを食べる「偏食家」ではありません。つまり、虫以外からも栄養を得ており、当然、光合成も行っています。実際に栽培している場合、「虫を食べさせなくても栽培でき、むしろ、虫だけを食べさせると枯れてしまう上、虫は補助的な栄養だ」と教えてもらいました。また、本来は、「栄養の少ない地域に生息し、栄養を補うために虫を食べるように進化した」との説明を受けました。すべての食虫植物にあてはまるわけではありませんが、過去に、下記のようなことを教えてもらった記憶があります。ウツボカズラのような低地に生える食虫植物は、このような環境にいたからこそ、虫を食すように進化したのではなかと考えました。
旧日本軍の戦死者の多くは、飢餓に原因がある。熱帯は、生物の種類やバイオマスが多いが故に食料も得られやすいと思うかもしれないが、地面付近は、極度に栄養がない。よって、地面付近で活動するため、旧日本軍に餓死者が、溢れた。
しかし、この状態も原因だと思います。
今回の特別展示では、食虫植物の「花」を見ることができました。ここでは、サラセニアとモウゼンゴケの花が展示されていました。どちらも、食虫植物だから、それらしい花の形をしているのかと思うと、決してそうではありませんでした。つまり、花で食虫植物かどうかを見分けえることはできません。食虫植物の花を見たら、私たちがイメージする花と変わりませんし、花だけ見ても食虫植物と思うえる要素がないくらいに普通の花でした。
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赤枠で囲っている所に当たります。
ここでは、食虫植物の繁殖についても紹介されていました。植物と言われている以上、「種子」を作ることで、食虫植物は、子孫を残します。今回は、ドロソフィルム、モウセンゴケ、ハエトリグサ、サラセニアの種子と果実を見ました。私が、食虫植物の植物としての一面で一番面白いなと思ったのが、「サラセニアの種子」になります。こちらは、熟すと中の種子がはじけて飛びます。他の食虫植物で、種子がはじけるという繁殖法をとる者は、いなかったはずです。
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赤枠部分から、種子が見えます。
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食虫植物の「虫を食べる」以外の面を見れば、やはり植物だなと思わされます。しかし、植物であるという共通点を持ちつつ種ごとに違いがあることが分かります。
5.ウツボカズラの多様性
最後は、ウツボカズラについて紹介します。今回の食虫植物の特別展示でのメイン展示となり、最も種類と数が多く展示されていました。ウツボカズというと、壺みたいなもの持ち、そこに虫を落とす植物であるというイメージを持つ人が多いと思います。
しかし、その壺の形は、どれも同じ形をしているとは限りません。つまり、多種多様な種がいるということになります。壺の形だけでなく、色が緑がかったり、赤みがかかったり、中央がくびれているもの、手の平サイズよりも大きいものから小指サイズのもの、スマートなものから太いもの…と壺の形とあり方は、一つでは決してまとめることができません。下に今回の特別展示だけで展示されていたウツボカズラをまとめました。こんなに種類があるのかと驚かされますが、極一例でしかありません。
(*青い定規は、15㎝の定規です。)
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ウツボカズラは、本来、壺のような形をしたある一種のみを指すものだったそうでしたが、現在では、ウツボカズラのような植物が、たくさん見つかるようになりました。その上、新種も多く見つかり、見つかり続けています。それゆえ、現在は、ウツボカズラというと種ではなく、「属」、つまり、種をまとめたものをウツボカズラを指しています。それゆえ、ウツボカズラの種類は、180種類あるとも言われています。
この種類の多さで、ちょっと面白いな思ったものがあります。それは、「栽培品種」とプレートに書かれていたことです。ウツボカズラを食用等の理由で家畜、栽培品種にした・なったとの話は聞いたことがないため、私は、「鑑賞目的」で改良品種が作られたのだと思います。野生で多様化し、種類が多いだけでなく、改良品種が作られて、種類が多いということに驚かされました。また、改良品種が作りやすいということは、「飼育の難易度が高くない」ことも意味するはずです。ウツボカズラが、花屋さん等で売られている、飼いやすいなどと言われることも納得できます。
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ウツボカズラは、非常に多くの種類を持つことが、ここまでの説明で感じれたと思います。しかし、ウツボカズラの持つ多様性は、「種数の多さでの多様性」だけを意味しません。それは、「利用のされ方」に多様性があります。つまり、虫取り以外でも役割を持っているということです。ここでは、ツバイ(*ネズミの仲間)、コウモリ、カエル、アリによる利用のされ方が紹介されました。ツバイは、ウツボカズラが蓋に作る蜜を舐めに来て、ウツボカズラの壺をトイレとして利用します。コウモリの場合、ウツボカズラをねぐらとして、カエルの場合、ウツボカズラの中をオタマジャクシの住処といて、なんと、昆虫のアリは、食べられる側ではなく、ウツボカズラの葉や茎などを住処として、壺を食料を得る場所としても利用しています。以上のようにウツボカズラは、昆虫を食べるだけでなく、利用されている面も同時に持ちます。上記の利用をまとめると以下の表のようにまとめられます。
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(*筆者作成、筆者の考察も一部入る。)
上記の表を見て気づいてほしい点があります。それは、ウツボカズラは、決して損をしているわけではないということです。つまり、ウツボカズラも恩恵を受けています。ツバイやコウモリの場合、勝手にトイレにされ、住処にされて気の毒と思うかもしれませんが、彼らが、そこで糞などをすることで、ウツボカズラの栄養になるため、利用されることにメリットがあります。場合によっては、ウツボカズラの餌食になってもおかしくはないカエルやアリが、ウツボカズラを利用するなどとは、人によっては、自ら地獄に突っ込んでいるようなものなので無理はありません。アリの場合、どう見てもウツボカズラの寄生虫のような存在に見えるかもしれませんが、虫が落ち、消化しきれなかったものを利用するなどとウツボカズラの衛生状態を保つ存在であるらしいです。また、ウツボカズラに寄生する寄生バエがいます。そのハエをアリが食べて、利用することで、ハエが成虫になった時に持っていかれる栄養をアリが使いつつウツボカズラにも回されるため、結果的にウツボカズラは、栄養を自身の元へと取り戻すことができます。
ここまで読んでもらえれば、利用されるウツボカズラは、こき使われる可哀想な存在なのか?と言われると決してそうではないことが分かります。むしろ、利用者とウツボカズラの双方が、おいしい関係にあると分かります。つまり、「双利共生」にあるということです。これは、イソギンチャクとクマノミ、クエとホンソメワケベラの関係性と同じです。
どのような経緯で、作られた関係性かは分かりませんが、カエルやアリの場合、ウツボカズラが作り出す強酸性の消化液に耐えられなければならない上、関係性を共に気づいているということから、ウツボカズラと利用者は、共進化」の事例としても非常にいい事例になると感じます。つまり、関係性を持つ生き物同士が、互いに、影響を与えつつ受けながら進化が進んできたのだと感じます。また、共進化において下記のような非常に興味深い記述があります。
植物の多様化はまた、昆虫の多様性を生み出した。深い花筒の中の蜜を飲むための長いストロー状の口器や粘性の高い蜜を集めるためのブラシ状の口器、花粉で子育てをする生活史など、花の利用に長けた昆虫のグループが次々と現れた。植物の方もつぎつぎと新しい昆虫にあわせ花を進化させてきた。このように、複数の生物の間でお互いが影響を与え合いながら進化が進むことを「共進化」と呼ぶ。被子植物の爆発的進化は、送粉者との共進化に駆動されたものだったかもしれない。
上記ので書かれていることは、被子植物が多様化したのは、「昆虫との共進化の結果」であるとのことです。ウツボカズラにも共通することは、多いのではないのでしょうか。ウツボカズラは、受粉する虫との関係性というより、どのようにウツボカズラを利用するのかという生物との関係性を多く築いていくことで、ウツボカズラ自身が、多様な生物になっていく要因になったと思います。ウツボカズラと利用者との関係により、共進化してきたのではないでしょうか。
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(*須磨水族館にて撮影)
咲くやこの花館では、ウツボカズラが栽培されていますが、徹底的に管理された状態での管理をされているという感じではありませんでした。ウツボカズラの状態に任せて管理されているような感じでした。どのようなウツボカズラがあるのかを見て回った際、葉の先から蔓のようなものが伸びているものもあり、これから壺ができる状態を観察することができるなど、ウツボカズラの「成長」を生で見ることできました。
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この蔓のようなものが、あの壺になります。つまり、ウツボカズラの壺は、葉からできています。
ウツボカズラの成長だけでなく、咲くやこの花館でのウツボカズラは、実際に虫を食べていることが確認できました。施設のスタッフに虫を撮っているのかを確認した所、「ここでは、ゴキブリが良く獲れ、バックヤードにいる個体では、ハチが良く獲れる」と教えてもらいました。
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今回、ウツボカズラが、実際に虫を捕らえている所を生で見ることができました。ウツボカズラの縁の部分は、非常に滑りやすくなっており、ここから壺の中に虫が落ちます。私が見たのは、蚊が壺の中に落ちるのではないかという瞬間でした。最初は、体がズルズルと下へと落ちていき、つかまっている足が、一本一本少なくなり、4本で支えていた足が最後は2本だけになり、宙ぶらりんの状態になってしまいました。後は、落ちるだけの状態で、完全に摘んだと思いました。しかし、この蚊は落ちるのではなく、体勢を立て直し、最終的には、飛び去って行きました。この勝負、蚊の勝ちです。実際に虫が食べられているという事実を知るのもいいですが、このような食うか食われるかという生の「戦い」、特に、植物と生物においては、初めて見ることができ、我々の自然では、このようなことが、日常で起こっているのかと改めて考えさせられました。
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いや、使わざるをえないくらいいいものでした…
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その後、飛び去っていきました。今回は、蚊の勝ちです。
実際に虫が食べられている様子を見ることで、人工的・簡易的ではありつつも、咲くやこの花館で、ウツボカズラと生物の「食う、食われるという関係性」つまり、「小さい生態系」ができているなと感じました。実際の自然ではないのですが、「自然での出来事を追体験する」という機会に出会うことができたと感じます。ウツボカズラは、どういう生態を持っているのか、何者であるのかを知識として知る以上のものを見ることができました。「本物を見る」ことの醍醐味を味わうことができ、いい経験になったと思います。
6.まとめ
以上が、咲くやこの花館の特別展示「虫を食べる植物展2023」なります。 食虫植物の多くは、貧栄養下の環境で生息しているという共通点があるものの、収斂進化で同じ形・生き物の獲り方になるのではなく、虫の取り方、形態まで全く違うものになるのが、面白いなと感じました。どのようにしてその姿・形になったのかについて知らないことが多いですが、考えてみることにも面白みがあると思います。
私が、意外だなと感じたのが、「植物としての食虫植物」です。食虫植物は、大々的に「虫を食べる」ということばかりに注目されがちですが、本来植物であり、どのような繁殖戦略を持っているのかを知っていくと改めて、「食虫植物は、植物なのだ」と思わされます。
最後になりますが、食虫植物というと、ほとんどで「ウツボカズラ」が取り上げられることが多いなと感じます。何故、ウツボカズラが、そんなに取り上げられるのかな?と疑問を持っていたのですが、今回、その疑問が晴れた気がします。その理由は、「多様性」だと思います。種が非常に多いことに加え、利用者とも多くの関係を築いていることにあることが、ウツボカズラが、ここまで注目される存在であると思います。また、「生物多様性」の定義は、「遺伝子」、「種」、「生態系」の3つで構成されています。今回の場合、「種」と「生態系」について減注しました。ウツボカズラとは、どのような植物なのかを見てみると、「生物多様性」の在り方そのものを表している存在だと感じました。つまり、多様性は、その生物自身だけで作り出すものではなく、他の生物とも関り会うことで、築かれるものでもある。そういうことを教えてくれる存在がウツボカズラではないのかと感じます。
以上になります。ここまで読んでくださり、ありがとうございます。