BankART NYKの跡地に、オフィスビル?
日本郵船が三菱地所と組んで、地上22階建ての複合ビルを横浜市の海岸通3丁目に建てるという。
2021年5月25日 神奈川新聞
実はこれよりも前に、こちらでも報じられていた。
日本郵船と三菱地所は、横浜市で延べ約9万㎡の複合施設「(仮称)横浜市中区海岸通計画」を整備する。計画地内の一部に立地している横浜郵船ビル(横浜市景観計画で歴史的建造物に位置付け)の大部分は、保全・活用する。2023年から既存施設を解体し、都市計画手続きを経て24年に着工、28年以降の供用開始を目指す。三菱地所設計が作成した計画段階配慮書で示した。 規模は、地下2階地上22階建て塔屋2層延べ約8万8600㎡で、最高高さは約112m。オフィスや商業施設、教育施設などで構成する。1-2階に商業店舗、1-3階が教育施設となり、4階以上にはオフィスを設ける。
配置計画として、海岸通第7001号に面する敷地南西側に、一部7階建ての歴史的建造物部(横浜郵船ビル)、その後ろに高層部を配する。計画区域の水際には、一般の人が利用・通行できる水際線プロムナードを整備する。
整備に当たっては、地上部の緑化や省エネルギー機能の導入などで、建築環境総合性能評価システム(CASBEE横浜)のAランク以上の取得を目指す。
所在地は中区海岸通3-9の敷地約1万0550㎡。このうち約8600㎡を建築面積に充てる。
私にとって思い入れが深いのは、ここがもともとBankART NYKがあった場所だからだ。
BankART NYKは横浜市の創造都市政策の一環でうまれたアートセンターで、ここでは展覧会やスクールなどが行われていた。惜しまれつつ解体されたのが2年ほど前のことである。
さて、一見するとよくある、普通のビルの開発の記者発表にも思えるが、水辺ならではの特殊事情が絡んでいて、とても大切な話なので解説したいと思う。
港湾法と臨港地区規制
記事には一切触れられていないが、この場所は横浜港の水面に面していて、港湾法の適用がなされる土地である。歴史的経緯としても港湾物流のために使われてきた。都市計画法の適用下にもあり、二重線引きとなっている。
港湾法では、港湾水面に面して、港としてもっぱら使う場所の近くに、臨港地区という場所を指定できることになっている。
臨港地区とは、港湾区域に接続し、それと一体として機能する陸上の区域で、港湾法に定められています。
ちなみにややこしいが、臨港地区は都市計画法の扱いでもある。
臨港地区には用途によって、さまざま分区が指定できることになっている。
分区の目的にあわない構築物は建設できません
横浜市では、臨港地区に商港区・工業港区・マリーナ港区・修景厚生港区の4つの分区を設けて、「横浜港臨港地区内の分区における構築物の規制に関する条例」(外部サイト)により、それぞれの分区の目的にあわない構築物の建設や用途の変更を禁止しています。
ちなみに、この海岸通三丁目の土地は、臨港地区の商港区という分区指定がされている。商港区に建てられる建築物の用途は厳格に決められていて、報道がなされた今回のオフィスビルは本来立てることができない場所である。
ではなぜ、今回このような報道に至ったのであろうか?
*オフィスビルとして建てられるのは、そのオフィスが上の表に記載の業務を行なっている場合のみ。いわゆる港湾のサービスに関係する業務に関するオフィスは建てられることになっているが、22階建のビルに需要が埋まるとは思えない。
ちなみにこの表には小さく但し書きが書いてあって、この限りでない場合がある。それがこれだ。
市長案件の匂いがする・・・
ちなみに、この土地に、もしオフィスと飲食店などからなる複合施設をもし建てるとなったら、港湾法の適用除外にするか、分区を商港区から無分区という区分に変更するしか方法はないはずである。実際にはどうなっているのか気になった。
実際港湾局に確かめてみた。ポイントは2つ
・港湾局に事前相談はあったのか?
・分区の変更に関する手続きはすすんでいるのか?
回答:(横浜市港湾局管財課の担当者Y氏)
・事前相談はない
・分区の変更に関する手続きはない
ちなみに港湾局のこの担当者も報道で知った、ということで全くの寝耳に水だったようだ。その後なんどかお電話をするときに、環境創造局の環境影響評価課が環境アセスで配慮書を公開していると教えていただいた。
港湾法の扱いについて、港湾行政に相談なく、環境アセスに移行するなんて、考えられるのは市長とグリップしているから、ぐらいしか思いつかない。ちなみに、環境アセスの担当者(k氏)にも電話で確認し、当然港湾法に関しては埒外であることは確認した。
都市整備局には事前相談はあったのか?
都市行政にも関わることなので、都市行政には事前相談はあったのだろうか?担当者に聞いてみた。
都心再生課担当者(N氏)の回答
・事前相談はあった
・港湾法の扱いについてはわからない。たしかに臨港地区の用途制限がかかるものだと思われるが、今後協議ですすめていくものなのではないか?
話を総合すると、①都市行政には事前相談があった②港湾行政には相談していない③環境アセスの段階に進むぐらいに計画は進んでいる
やはり、港湾行政だけが蚊帳の外であることが気になる。
想像の域を出ないが、市長の権限が・・・
②の港湾法適用について突破するためには、正攻法であれば分区の変更が必要になるが、そういう手続きがなされているようには思えない。そこで思い出されるのが先ほども掲出したこれだ。
市長とのグリップがあるとおもわせるなにかがあるのだが、真相はいかに。
港湾法の規制緩和の影響は?
港湾法で定められた規制をいずれにしても緩和しなければこの計画は成立するものではない。それではこの港湾法の規制緩和によって、一般市民はどのような影響があるのだろうか?
1.まず規制緩和前と後で比べると、土地の価値ははかり知れなく上がっていることが言える。これは土地のオーナーに利益がもたらされるものである。もちろん、この土地がうまくつかわれて固定資産税収入があがり、法人市民税が得られるのならば、横浜市の財政には大きく貢献するものになることは想像できる。
しかしながら、オーナーにとってはクズのような土地が、横浜市の裁量ひとつで一等地に変換されるわけだから、こんなに美味しい話はない。しかし、考えるべきは、この価値があがることのプロセスに、市民が付託している行政が介在しているのであれば、市民の立場に立って行政はこの決定を下さなければならないはずである。オーナーだけが利を得るのではなく、市民もひろく公益的な価値を得られるべきなのではないだろうか?
2.港湾法の規制緩和の裁量は、すべて港湾管理者にある。横浜港の港湾管理者は横浜市港湾局にある。
横浜市は「まちづくり」という言葉が発祥した都市であるから、市民参加が盛んなまちなのだが、残念ながら港湾行政には市民参加もまちづくりの概念も希薄である。なぜなら、港湾法にそのような規定がないから。港湾法はそもそも物流を円滑にするために港湾行政に強い権限をあたえ、責任のなかで事業者の利害調整をする。そこに都市計画法のようなきめこまやかな民意が反映される仕組みはない。そもそも法律として3文字法なので、位が港湾法の方が高い。
港湾法がかかっているエリアでも、これまでたとえばみなとみらい地区でも、都市計画法の二重線引きであることで民意の反映が担保されてきた。ところが、今回の場合、都市行政は通常のプロセスはおこなうであろう。しかし、今回港湾法に基づく分区の変更に関するプロセスには、民意が反映されない可能性がある。なぜなら、先にも書いた通り、港湾法には市民参加プロセスがまったく歌われていないことと、今回市長決済だけですすんでしまうことも可能性としては否定できない。
これだけ港湾エリアが都市化されているにもかかわらず、この大切な決定において、基礎自治体の民意が反映されづらいのはまったくもって港湾法の瑕疵であるとしかいいようがない。市長裁量の大きさも、物流機能の円滑化に市民参加があまりかんけいなかったという法律の歴史的経緯が関係しているようにも思う。
ここは横浜市だけではどうなる話でもないので、全国の都市化が進むインナーハーバー地区をもつ基礎自治体(大阪、名古屋、東京、福岡など)は基礎自治体の民意の反映について、港湾法の適用を訴えるべきだと思っているが、それはまた別の機会に。
結論:まずは知ろう!あなたにも関係することだということ
まだこの計画は環境アセスの段階で、都市計画法の審査のプロセスには至っていない。また港湾法の適用についてはなにも議論がされていない(もしかしたら港湾経営にたずさわるリーダーたちはしっているかもしれないが)ので、これからのプロセスで、いかにしてこのプロジェクトで利することになるデベロッパーサイドに市役所の建築指導、港湾担当者、都市行政担当者、景観デザインの担当者がタッグをくみ、デベロッパーに対して市民の利することを交渉することをはたらきかけをするべきである。
特に充実している横浜市のまちづくりクラスタが担うべき役割は大きい。明確な指標が必要でもあり、どのような公益をもたらすことで市民福祉の向上につながるか市民が有識者も交えて議論すべきであろう。
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