見出し画像

【観光コラムKITENE~IWAKURA~】「大寒の のんぼり洗い」の入浴剤を開発し損ねている話


1.  はじめに


 
わたしは、愛知県岩倉市で観光まちづくり事業を企画・運営する「NPO法人いわくら観光振興会」で働いています。岩倉市は、愛知県の北西部、西尾張地区にあり、市のほぼ中心を流れる五条川は日本の「さくら名所100選」に選ばれたお花見処で、毎年春に行われる“岩倉桜まつり”が有名です。
今回は、岩倉初春の風物詩であり、おまつりでのデモンストレーションが人気の「のんぼり洗い」をテーマにした商品開発に挑んだ際のお話です。
 

2.  岩倉市初春の風物詩「のんぼり洗い」


みなさんは「のんぼり洗い」をご存知ですか?
「のんぼり洗い」とは、鯉のぼりの染付の際に使った糊を、川の水で洗い流す作業工程のことです。
岩倉市内はこの伝統的作業工程を受け継ぐ幟屋さんが2軒あります。

写真:岩倉市公式HPいわくらフォトアルバムより

鯉のぼりは、白い生地に糊を置き、色染めをしたあと糊を落として乾かし、縫製して作られています。糊の部分は染まらず、マスキングのような役割を果たします。糊は、もち米を主原料にヌカと塩を調合したものなので、川で落としても安全でコイの餌になっています。SDGsですね。
春に開催される“岩倉桜まつり”では、「のんぼり洗い」のデモンストレーションが行われ、集まった花見客に昔ながらの手法と歴史を伝えています。
岩倉五条川の初春の風物詩として、東海農政局から「東海美の里百選」にも認定されています。

3.  「のんぼり洗い」って今もやってるの?


今年の春に行われた「のんぼり洗い」のデモンストレーションを見学したお客さまからこんな質問がありました。
 
「初めて見たんですけど、歴史としては、いつまで行われていたものなんですか?」
 
昔から続く作業工程ではあるけれど、今現在も行われているものだ、という旨を説明すると、大変驚いた様子でした。

写真:岩倉市公式HPいわくらフォトアルバムより

わたしがこのような質問を受けるのは、今年が初めてではありません。過去のまつりの際や、観光ボランティアをした時などにも、今も川で糊を落としているとは!と、びっくりされることが度々ありました。 本来「のんぼり洗い」は端午の節句に向けて、大寒(1月下旬ごろ)から作業を始めるのが通例です。 春の桜まつりのデモンストレーションで多くの方に見てもらえる半面、寒い時期に作業する光景を知ってもらうことにおいて、観光のセクションを担うわたしに、何かやれることがあるのではないか?と感じていました。

写真:中島屋代助商店の職人さんが注文品の鯉のぼりを洗う様子。/筆者撮影

4.  「いわくら入浴剤」まさかの新作開発へ?!


ところで2022年、岩倉市が市制50周年を迎える記念事業の中で、弊会からちょっと変わった(筆者はそう思っていませんが)名産品が誕生しました。岩倉五条川の桜の香りの入浴剤と、市の特産品である名古屋コーチンをテーマにした入浴剤です。温泉のない岩倉市でなぜ入浴剤?!と、多くのメディアに取り上げていただきました。
 
●観光コラムKITENE~IWAKURA~
【ケッコーな湯加減で♡「名古屋コーチン」の入浴剤を開発した話】

 

写真:いわくら入浴剤/各250円 岩倉市観光情報ステーションで販売中

開発から2年が経ち、新しい種類を仲間入りさせたいなと思っていたところでした。そう、わたしはひらめいてしまったのです、「のんぼり洗い」を入浴剤にすることを!(笑)
 
さっそく企画書をまとめ、メーカーに打診。イメージは冷たい川で行う大寒の時期の「のんぼり洗い」。入ったら、お湯はあたたかいのになんだかひんやりする。ヒエヒエな入浴剤!
メーカーからは、ハッカやミントでヒエヒエを演出したらどうか?と提案があり、試作品が送られてきました。試しに自宅のお風呂で使ってみますが、においが強いだけでヒエヒエとは言えません。その後も、試作や打ち合わせを進めるも、良いインパクトが残る品に、なかなかたどり着けません・・・。(現在進行形)

5.  伝統と観光


岩倉市にとって「のんぼり洗い」は、五条川の桜並木と並んで大切な観光資源の1つです。しかし一方で、わたしがずっと感じているのは、「のんぼり洗い」はあくまでも商品を作る作業工程であり、本来は誰かに見せるためだけのエンターテインメントではないということです。
デモンストレーションで「のんぼり洗い」を知ってもらった後は、職人さんのお店で買い物する人がたくさん現れてほしいし、楽しかった思い出や、見学の時に感じた伝統の素晴らしさをできるだけまわりにたくさん話してほしい。
商品開発はあくまで観光(岩倉市を知ってもらう)のための入口であり、今回の場合は、伝統技術が持つ魅力をより多くの人に知ってもらいたい、ということが本当の目的なのです。
わたしは「のんぼり洗い」のデモンストレーションの先にある、職人さんの技術の素晴らしさやその想いまでを多くの方に知っていただくきっかけを、これからも“まちづくり人”として増やしていければ、と思っています。

写真:クリアの下敷きに鯉のぼりを印刷したもの。川にかざすと、いつでものんぼり洗いを体感できる。「どこでものんぼり洗い」と命名。筆者私物。