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1hourトリップ:渋谷『名曲喫茶ライオン』
1hourトリップ:渋谷『名曲喫茶ライオン』
私は渋谷が苦手。駅は迷路みたいに分かりづらいし、人が多い。渋谷に来るだけでどっと疲れる。でも名曲喫茶ライオンを知ってから、渋谷は行きたくない街から、行ってもいいかなと思うくらいの街に昇格した。
打ち合わせで来ることも多い渋谷。私は1日に3件以上の打ち合わせがあるとぐったりする。人の反応を気にしすぎて疲れたり、自分の発言に反省したり。HSS型HSPは共感力が高い様で、例えば、会議中に他人が責められている様子を見るだけも責められている人の気持ちに共感してしまい、胸が苦しくなる。
そういう時は、渋谷百軒店に向かう。いかがわしさとレトロさを兼ね備えるエリア。夜はちょっと歩くのが怖いくらい。再開発で新しいビルばかりの渋谷で今や貴重な場所ではないだろうか。
ランチはカレーのムルギーでサクッと済ませて、ライオンに向かう。世田谷区池尻育ちの父もよくムルギーで食事をして、ロック喫茶やライオンに行っていたと言う。親子2代で時代を超えて、同じ味や空間を共有できることはとても貴重で、長く店を続けていただいていることに感謝したい。そして、ムルギーはサクッという表現では申し訳ないくらいに、個性的で美味しいカレーである。
ムルギーから少し歩き、名曲喫茶ライオンに到着する。レンガ造りの建物。蛍光色のライムグリーンとイエローの看板。創業は1926年、昭和の時代にタイムスリップしたようなレトロな景観。かすかに音楽が聞こえて来る。重厚な扉を開けて中に入るとそこは異世界。薄暗い吹き抜けの店内にドーンと鎮座するど迫力の巨大スピーカー。全席が、スピーカーに向き合うように配置されている。会話も写真撮影もNG、全ては音楽を音を楽しむため。圧倒的な音質でクラシック音楽が流れる。私は目を閉じて音を浴びる。全身に音楽が響き渡る。瞑想のような、祈りを捧げているような不思議な感覚。サウナには行かないから“整う”という感覚はわからないが、私にとっての“整う”場所はここだ。
お客さんは老若男女、海外の方も多い。海外では生演奏が一般的で、レコード音源を静かに聴く時間を楽しむスタイルは世界的に稀だと言う。本当の“クールジャパン”ってこういうことじゃないのだろうか。豊洲市場ではなく、築地市場に観光客は集まる。私は今はなき、場内市場の雰囲気が大好きだった。一度壊してしまえば、もう二度と取り戻せない。その国にしかない、古い建築物やそこに息づく伝統、空気感を求めて人は集まる。百軒店には再開発の話も出ているという。文化的な渋谷の魅力をこれ以上壊さないで欲しい。