いわきりなおとのトーハク見聞録 重文「不動明王立像」
◎怒って導くお不動さん 重文「不動明王立像」
東京国立博物館(トーハク)が所蔵する重要文化財「不動明王立像」(平安時代・11世紀)は、目を見開いて唇をかみ、歯をむき出しにした怒りの表情です。
なぜ怒っているのでしょうか? それは仏様が人々を優しく教え導くのに対し、教えを聞かない者や欲を捨てられない者を、激しい怒りで導くためです。
日本における不動明王信仰は、平安時代初期に空海が中国から持ち帰った密教とともに広まりました。空海は中国で学んだ知識や持ち帰った図像を元に、不動明王像を作らせました。
それまでの仏像とは全く違った怒りの表情や青黒い肌、剣を持った姿に、当時の人達は相当驚いたことでしょう。
空海の真言宗だけではなく、天台宗も中国から新しい不動明王を持ち込み、〝お不動さん〟は広く信仰されるようになりました。年代や宗派によって違いはありますが、怒りの表情、剣と縄を持って左肩に弁髪を垂らした姿は共通しています。
トーハクの「不動明王立像」は制作者不明で高さ約165センチ。右目を見開き、左目はすがめた(細めた)怖い顔です。一方、ふくよかでおっとりとした表情と体つきは平安後期に流行した作風で、親しみやすさもあります。
怒りを表現する火炎の動きや、右半身に体重を掛けた姿勢の表現も見事。目の前に立てば、背筋がピンと伸びるような気持ちになります。
(談 いわきりなおと/記事編集 共同通信 近藤誠)
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