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プレッシャーは感じない。まっすぐにゴールへ向かう。FW谷村海那②【Voice】

第18節終了時点で9ゴールを挙げているストライカー・谷村海那選手。入団3年目までは交代出場がほとんどだった谷村選手が信頼を勝ち取り、J2の得点王争いでトップに肉薄するまでの成長の軌跡をうかがっていきます。

▼プロフィール
たにむら・かいな

1998年生まれ。花巻東高→国士館大
2020年いわきFC入団

■一番大きいのは「慣れ」

いわきFCの今季初得点は第2節・ファジアーノ岡山戦でのことでした。後半アディショナルタイム7分。MF山下優人選手が蹴ったボールを混戦の中で押し込んだのは、FW谷村海那選手でした。

そして翌週の第3節・鹿児島ユナイテッド戦。33分にDF石田侑資選手のクロスに頭で合わせてゴール。61分には山下優人選手のFKを再び頭で決め、2点目。さらには67分に山下選手のゴールをアシストし、2ゴール1アシストの大活躍。この日のゴールについて、谷村選手は笑いながらこう語ってくれました。

「この日の2ゴールはとても印象に残っています。2ゴール目は山下選手さまさま。もともとヘディングはぜんぜん得意ではないんですよね。むしろ苦手です(笑)」

勢いは止まりません。翌週の第4節・ロアッソ熊本戦でも後半にゴールネットを揺らし、3試合連続得点。その後も谷村選手はチームを牽引し、いわきFCは開幕戦の悔しい負けから復調。着実に順位を上げていきます。

第18節終了時点で9ゴールを挙げ、得点王ランキング2位。チームのJ2初年度となった昨年は41試合出場で7ゴール。今年は折り返しを待たずに昨年以上のゴールを挙げています。

「一番大きいのは慣れです。昨年はチームとしても個人としても、自分達より明らかに上のチームがあったというか、一部のチームを格上に見すぎていた。でも今年は慣れた分、昨年ほど相手DFのプレッシャーを感じていません。

昨年は50/50のボールが来ることを多く、相手と競り合いながら自分から受けに行くことも多かった。でも今年はやっているサッカーが違い、それが上手くいっている。例えばDF照山颯人がビルドアップで相手を剥がしてくれたり、MF西川潤が中盤で時間を作ってくれるから、自分はどんどん前に行ける。それがゴールにつながっているし、勝ちにつながっていると思います」

谷村選手はJFL時代の2020年に入団。今年はいわきで5シーズン目となります。MF山下優人選手に次ぐ古参の選手で、同期入団はMF山口大輝選手。

実は谷村選手へのインタビューは、入団2年目の2021年に次ぐ2度目になります。

もともとサッカーセンスが高く、関東リーグ2部の国士館大では中盤の王様。優れたサッカーセンスは入団時から折り紙つき。でもスタミナに欠け、走れない。そんな谷村選手が身体と心を変え、ストライカーとして覚醒するまでを、前回のインタビューではうかがっていきました。

当時のインタビュー内で、田村雄三監督は谷村選手をこのように評していました。

田村「もともとトリッキーなパスを出すのが好きな選手で、ボールをもらった時にシュートイメージを持っていなかった。シュート力はあるので、優先順位を間違えずにプレーできたら、もっと強くて嫌な選手になれるはず。今後の戦いにおいて、面白い存在になってくれることに期待しています。ただし、本気でやっているのはまだこの3カ月ぐらいの話(笑)。これをずっと続けてこそ本物です」

では当時から今に至るまで、谷村選手はどのように努力を続けてきたのでしょう。この3年間の答え合わせをしていきます。

■「頼むから90分使ってくれ」

JFLで迎えた入団1年目のシーズン。谷村選手に、いわきFCのプレースタイルを体現するフィジカルが備わっていなかったことは明白でした。1試合を通じて負荷の高いスプリントを繰り返すには身体を絞る必要がある。それはわかりつつも、ついつい肉体改造を先延ばしにしていました。

1年目は7試合出場2得点。シーズンが終了すると、満足のいく活躍ができなかった選手、期待を裏切った選手の多くがチームを去っていきました。プロの厳しい現実を知った谷村選手は考えを改め、生き残りを懸けて身体作りを見直していきます。

毎日の練習やストレングストレーニングに対する姿勢を変え、練習後には自主的にランニング。疲労の回復を考えて食事に気を遣い、しっかりと睡眠を取り、翌日のトレーニングに備えました。そして、苦手で嫌いだった守備にも積極的に取り組み、試合出場機会を少しずつつかんでいきます。

信頼を勝ち得たきっかけは、2021年5月22日の天皇杯1回戦・ソニー仙台FC戦のゴールでした。身体を絞り、精悍な顔つきになった谷村選手はMFバスケス・バイロン(現・FC町田ゼルビア)選手が右サイドから上げたクロスに頭から飛び込み、劇的な同点ゴール。この得点をきっかけに、出場機会は増加。谷村選手は攻撃にパワーを与える存在として主に後半から出場し、チームのJFL制覇そしてJ3参入に貢献してみせました。

そして迎えた2022年。3年目のシーズンはJ3昇格初年度でした。この年のフォーメーションは4-4-2。2トップと両サイドハーフのスタメンには有馬幸太郎選手や有田稜選手(現・モンテディオ山形)、岩渕弘人選手(現・ファジアーノ岡山)、鈴木翔大選手(現・鹿児島ユナイテッドFC)らが起用されました。

谷村選手はこの年も、主に後半から出場する役割を担いました。スターティングメンバーに入れないのは、まだスタミナと守備面に課題が残っていたからでした。

「前の年まで45分以下の起用がほとんどで、スタートから90分間フルに走り続けられる信頼がまだなかった。それがとても悔しかったです。だから毎日の練習も含めて、動きに休みを作らないことを意識しました。もちろん、守備もしっかりやりました。いわきFCのFWは、守備もしっかりやらなければ試合で使ってもらえませんから。

当時は毎試合『頼むから90分使ってくれ』と思っていました。勝つための戦略として、後半からの出場でも仕方ない。でももちろん、スタートから出たい。試合を見ていて、J3には正直、心の底から強いと感じるチームはなかったし、実際に勝てていた。自分自身としても、やれる自信は十分あった。それなのに出場時間をなかなか伸ばせず、本当に悔しかったです」

そんな谷村選手が出場時間を伸ばしていくのは、2022年シーズン中盤から。7月のJ3第14節・松本山雅FC戦で初先発。そして翌週の第15節・テゲバジャーロ宮崎戦で先制ゴール。谷村選手にとって、Jリーグ初ゴールでした。

「大君(日高:現ジェフユナイテッド千葉)がドリブルで切れ込み、前にいた弘人(岩渕:現ファジアーノ岡山)や有田(稜:現モンテディオ山形)が崩してくれて、そこに走り込みました。狙い通りでしたね。まあラッキーというか、ごっつぁんゴールです(笑)」

その後第17節・アスルクラロ沼津戦、第23節・AC長野パルセイロ戦、第27節・カマタマーレ讃岐戦、第28節・ガイナーレ鳥取戦、そして最終節のYSCC横浜戦でゴール。チームが圧倒的な強さでJ3を制したこの年、主に試合後半から計29試合に出場して6ゴール。しかしこの結果は、決して満足のいくものではありませんでした。

「この年はたくさん外した印象があります。でも後半からの出場が多かったので、出場時間さえもらえたら、絶対にもっと取れる。そう確信していました」

■ボールが来る前に、常に先の選択肢を2つ3つ用意しておく

「今年こそ絶対に、スターティングメンバーに定着する」

翌2023年。谷村選手は強い決意とともにシーズンインしました。

「この年はキャンプから調子がよく、身体のキレもよかった。特に大切にしていたのが、シュートへの意識。ゴールから逃げるプレーをしない。ボールを持ったら常にゴールへ向かう。負荷の高い守備をしながらも、シンプルにゴールに直結するプレーをする。そして、90分間しっかりと走り切ることを意識しました」

決意の通り谷村選手は開幕からスタメンに定着し、しっかりを結果を出しました。第1節のホームゲーム・藤枝MYFC戦でゴールを挙げると、第2節水戸ホーリーホック戦、第5節徳島ヴォルティス戦でもゴール。第5節までに3得点を挙げました。

しかし、このままゴールを積み重ねていけるほどJ2は甘くありません。序盤戦から負傷者が続出し、チームは思うように勝てません。5月には清水エスパルスに1対9で大敗し、降格圏へ。チームが不調のどん底に落ちるのと同じくして、谷村選手もゴールから遠ざかっていきます。

「J2では、守備の一つのミスが直接失点につながるし、たった1回のチャンスをモノにできずに負けることもある。そして、相手CBのプレッシャーもJ3とはぜんぜん違いました。J2は十分にやり合えるチームもありますが、大きな差を感じるチームもあった。例えば昨年大敗した清水エスパルス。最初の戦いでは、ほぼ何もすることができませんでした」

浮き彫りになったのが決定力不足。J2を経験し、FWとして考えるスピードを高めなくてはいけないと実感しました。

「ボールが来てからその先の動きを考えているようでは、J2のDFには簡単に奪われてしまう。ボールが来る前に、常に先の選択肢を2つ3つ用意しておくことを意識するようになりました」

チームは田村監督の再就任とともに復調。同時に、谷村選手もゴールへの感覚を取り戻していきます。

第22節・大宮アルディージャ戦で17試合ぶりのゴール。そして第25節・水戸ホーリーホック戦でゴール。そして第37節・FC町田ゼルビア戦では、3バックの左WBで出場。41分にボックス外から素晴らしいミドルシュートを突き刺し、首位・町田を倒す殊勲の2点目を挙げました。

「町田戦は個人としてもチームとしてもすごく調子がよかった。あの時は味方にパスを出した後、クリアされたボールが目の前に転がってきたので、思い切って打ちました」

そして迎えた第39節。相手は前半戦で大敗を喫した清水エスパルス。

前期に大敗を喫した清水に対し、いわきは真っ向勝負を仕掛けていきます。しかし、試合は清水が前半に3点を先制。厳しい状況の中、谷村選手は意地を見せました。自らが奪ったボールを右サイドの有田稜選手に預け、有田選手からのクロスを決めてゴール。

「有田がいいパスをくれたおかげです。前期の戦いでは何もできなかったけれど、後期の戦いではそれなりに戦えた。試合は1対7で大敗しましたが、チャンスはそれなりに作ることができた。やれる手応えはつかめたので、あとはゴール前の動きとシュートの質を高めること。それができれば、清水相手でも十分に戦っていける。そう確信しました」

このシーズンは41試合で7ゴール。1年を通じてコンスタントに先発出場した初めての年でした。

谷村選手の魅力の一つが、身体の頑丈さ。丈夫で負傷が少なく、ライバル達がケガやコンディション不良で調子を落としていく中、大きな負傷をせずに1年間試合に出続けたことで、チームの信頼を勝ち得ることができました。

入団2年目から気持ちを変え、地道に身体作りと食事の改善に取り組んできた成果が、はっきりと見えたシーズンでした。

■試合を通じて前向きでプレーできているし、チャンスも作れている。

多くの選手が移籍した2024年シーズン。新加入メンバーがスタメンの半数を占める中、谷村選手は開幕からスターティングメンバーの座をつかみました。

これまでもさまざまなフォーメーションでFWを務め、昨年はWBにも挑戦してきましたが、今季は3-4-2-1のシャドーや3-1-4-2の2トップのポジションを務めています。

「今年は戦い方が変わりましたが、CBやボランチからのくさびのパスを確実に落とし、しっかりとした判断を持って攻撃にも守備にも関わっていきます。もっと個人で状況を打開できるようになりたいですね。個人技で相手を剥がしていければより多くのチャンスが来るし、ゴールももっと生まれる。そのために意識しているのが、より相手をしっかりと見ること。目の前の選手だけでなく、その奥にいる2枚目の選手もよく見ることを心がけています」

今年の第10節では、昨年に2回大敗を喫している清水エスパルスとホームで対戦。谷村選手はこの試合でもCKから頭で合わせ、昨年に続くゴールを挙げました。

「ゴールは5試合ぶりでしたが、いつか取れると思っていたので焦りはなかったです。清水からは、昨年ほどのプレッシャーは感じませんでした。今年は攻撃のクオリティが昨年よりずっと高いし、試合を上手く進めることができている。2年目を迎え、やれる感触は十分あります。試合を通じて前向きでプレーできているし、チャンスも作れています」

今季のJ2では18試合に出場して9ゴール。特筆すべきはそのバランスのよさ。利き足の右足で4ゴール、左足で1ゴール、そして「苦手」と言っていたヘディングでも、すでに4得点を挙げています。

谷村選手がいわきFCで生き残り、ここまで活躍してこれたのは、もともとケガの少ない頑丈な身体にしっかりと筋肉をつけ、戦えるコンディションを作り、毎試合それを継続したことでしょう。普段、選手をあまり褒めない田村監督ですが、谷村選手についてはこのように語ります。

田村「1年目はほとんど試合に出られなかったし、2年目も後半から交代で出る選手に過ぎなかった。そこから意識と身体を変えることで、少しずつ出場時間を伸ばし、プレーが変わってきた。もともと努力をアピールするのは嫌いなタイプ。だから本人はおちゃらけて話すでしょうが、身体を絞るために食事に気を使い、夜な夜な一人で走っていたことも知っています。そうやって身体とメンタルを少しずつ変え、頑張れるようになったことでもともとのセンスが開花し、大きく進化した。時間をかけて、やっとアスリートになりましたね。
紆余曲折を経て、いわきFCのプレースタイルを体現する選手に成長してくれたと思います。特によくなったのはゴールに入る形やシュートの精度。ごっつぁんゴールに思えるゴールもありますが、それはいい所にいるからです。ただし、ここで満足してほしくありません。ストライカーとしては今も発展著上。これからもまだまだ伸びるはず。だから、今後に期待しています」

若い選手が多い中、入団5年目を迎え、2020年の同期入団で今もチームに残っているのはMF山口大輝選手だけ。すでにベテランに近い谷村選手は、今後の展望をこのように語ってくれました。

「やはりJ1でプレーしたい。今のJ1は外国人FWが多いけれど、彼らに負けない点を取れる選手になることが目標です。もちろん一番は、このチームでJ1に行くこと。だからこの先のシーズンも頑張っていきます。ここから全試合にスタメン出場して、15点以上取りたいです。そうですね。確かにチームでは年長者ですが、リーダーシップを取ることは意識していません。自分が引っ張らなくても、みんなやれますから。自分はいつも通り生活するだけです(笑)」

▼谷村海那選手をもっとよく知るQ&A
Q:食事は自炊が多いそうですが、どのようなものを作っていますか?
A:最近はあまり凝ってないですね。昨年までは鶏ハムを作ったりといろいろ工夫していましたが、時間がかかってしまうのでシンプルなものに変えました。今は鶏肉ばかりじゃなく、豚肉などいろいろなものを食べています。しっかりと栄養指導をしていただいているので安心です。

Q:オフはどのように過ごしていますか?
A:休日はあまり出かけませんが、暖かくなってきたのでそろそろ釣りに行きたいです。釣りは昨年始めましたが、リラックスできていいですね。

Q:ゴルフも上手だそうですね。
A:たまに有馬や加瀬、速水、照山などと一緒に行きます。スコアは自分と有馬が100を切るぐらい。加瀬が105ぐらいです。

Q:普段仲良くしているのは誰ですか?
A:いつも一緒にいるのはMF山口大輝です。数少ない同い年ですから(笑)。あとは照山、有馬ともよく話しますね。

次回は1年目の大型FW近藤慶一選手の登場です。お楽しみに!

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