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誰よりも戦う。最後まで諦めない。MF加瀬直輝【Voice】

小柄ながらも抜群のスピードで右サイドを切り裂くMF加瀬直輝選手。入団2年目の今季は開幕から右WBのスタメンの座を確保し、コンスタントに活躍を続けています。そんな加瀬選手に、これまでとこれからを語っていただきました。

▼プロフィール
かせ・なおき

2000年生まれ。尚志高→流通経済大
2023年いわきFC入団

■YouTubeでの珍回答

皆さんはいわきFCのYouTube企画「【〇〇王】加瀬直輝を1番よく知るのは誰? 第1回加瀬王!」をごらんになりましたか!?

加瀬直輝選手が、スタッフからのさまざまな質問に回答。その答えをMF山口大輝選手、FW白輪地敬大選手、MF嵯峨理久選手(現・ファジアーノ岡山)の3人が当てる、という企画です。

その中で「自分を生物に例えてください」という問いがありました。3人は加瀬選手のキャラを意識し、悩みながら「ハムスター」(山口)、「チーター」(白輪地)、「犬」(嵯峨)と回答します。

しかし残念ながら、全員不正解でした。
答えは何と「ハエ」。

独特のおとぼけキャラで愛される加瀬選手らしい珍回答。3人は「こりゃ無理だろ(笑)!」(嵯峨)、「自分のことハエに例えんなよ!」(山口)と大爆笑です。

でも実は、回答には理由がありました。加瀬選手はなぜ、自らをハエと例えたのでしょう? 

その種明かしをする前に、加瀬選手の今季の活躍ぶりをご紹介します。

入団2年目の今季は開幕から右WBのスタメンの座を確保。数々の試合で印象的なシーンを演出してきました。最初に存在感を見せたのが、第1節・水戸ホーリーホック戦です。

開幕の緊張感も手伝い、水戸のハイプレスに押し込まれる中、8分のことでした。右DFに入っていた大西悠介選手からボールを受けた加瀬選手は水戸の守備陣をあっさりと剥がし、瞬く間に4人を抜き去る圧巻のドリブルを見せたのでした。

そして第9節・横浜FC戦では、前半16分に右サイドを爆走。すさまじいキレのあるスプリントがPKにつながるファウルを誘発しました。また、中断期間明けの第25節・ブラウブリッツ秋田戦では開始早々の4分、中盤で粘ったMF西川潤選手からのパスを受け、右サイドを上がって中央を走るFW谷村海那選手にクロス。谷村選手の先制ゴールを見事にアシストしてみせました。

まずは加瀬選手のこれまでを振り返っていきましょう。

■「尚志高に入ってプロになる」

千葉県旭市で育った加瀬選手。サッカーを始めたのは幼稚園の時でした。

「兄が少年団のサッカークラブに入っていて、本当は小学生からしか入れないのですが、特別に入れてもらいました。たぶん当時から、ドリブルは上手かったと思います(笑)」

小学校時代から地元の旭FCの他、フットサルクラブも含めて3つのチームを掛け持ち。サッカーにのめり込みました。

「当時はボランチでした。実は、足はあまり速くなかったんです。でも、プロサッカー選手になりたいという夢は小学生のころから持っていました」

当時、高校サッカー好きだった加瀬選手。特に心を動かされたのが、東日本大震災で大きな被害を受けながらも勇敢な戦いを見せた、福島県の尚志高サッカー部でした。

「高校サッカーを特集したDVD作品で知りました。震災で学校が壊れたりと苦しい状況の中、被災地をサッカーで勇気づけようと戦う姿に感動し『この学校でやりたい』と思いました。それで小学校の卒業文集に『尚志高に入ってプロになる』と将来の夢を書いたんです」

中学時代は地元のFCカラクテルでサッカーに打ち込み、念願の尚志高に進学。郡山市での寮生活が始まりました。ただし、仲村浩二監督率いる名門・尚志高サッカー部のトップチームで試合に出るのは簡単ではありません。身体が小さかった加瀬選手はボランチからサイドにポジションを変更。これをきっかけに、スピードを上げるトレーニングに必死で打ち込みました。

「とにかく足を速くしたかった。練習後にウエイトトレーニングで下半身を鍛えたり、あとは夜に寮の前の砂場をダッシュをしたり。トレーナーさんに相談しながら、さまざまなことに取り組みました。するとある時、急に足が速くなったんですよ」

スピードに自信をつけ、加瀬選手は2年生でトップチーム入り。2~3年生の時に全国高校サッカー選手権に出場しています。特に印象的な活躍を見せたのが3年時の3回戦・青森山田高戦でした。この年、選手権を制することとなる青森山田高は元いわきFCのバスケス・バイロン選手(現・FC町田ゼルビア)らを擁する強敵でした。決戦を前に緊張していた加瀬選手に、仲村監督はこう声をかけました。

「深く考えずに得意のドリブルで仕掛けろ。そして、試合を楽しめ」

決して器用ではないけれど、爆発的なスピードを武器にがむしゃらに走る。そんな、今も変わらぬ加瀬選手のキャラクターを知り尽くしているからこその言葉でした。

「監督の言葉で気が楽になったことをよく覚えています。小学校時代から今に至るまで、どの監督も他の選手に『加瀬にはあまり多くの指示をするな』と伝えてくれるんです。おかげで助かっていますね(笑)」

仲村監督の言葉を胸に、加瀬選手は躍動しました。試合は現在、東京ヴェルディでプレーするFW染野唯月選手の3ゴールで3対3。加瀬選手は2アシストを記録するなど、素晴らしい貢献を見せました。尚志高は惜しくもPKで敗れて大会から去りましたが、持ち前の圧倒的なスピードが全国の舞台でも通用することを、加瀬選手はしっかりと示してみせました。

■半年間、寮のトイレ磨きを続ける

大学は流通経済大に進学。1年上の先輩にGK鹿野修平選手、元いわきFCのDF家泉怜依選手(現・北海道コンサドーレ札幌)・MF永井颯太選手(現・鹿児島ユナイテッドFC)らがいました。加瀬選手はドリブルを武器に入学後すぐさま頭角を表し、サイドハーフとして活躍。トップチーム入りを果たします。

ただし名門・流経大サッカー部での生活では、苦労も多くあったようです。

「実は2年生の終わりから3年の春にかけて、半年間チームでサッカーをしていないんです。寮生活でちょっとやらかしてしまって…。監督に厳しく怒られ、五厘刈りで謝罪しました。

この時期は苦しかったですね。最終的に『将来どうなりたいのか』とその理由をレポートにして提出し、寮長としてすべての風紀に責任を持つ。それを条件に復帰を認めてもらいました」

このころすでに、プロサッカー選手は現実的な目標となっていました。しかしコロナ禍の影響もあって、4年になってもなかなかチームが決まりません。そんな中、いわきFCに入団することになったきっかけは、当時ゼネラルマネージャーだった田村雄三監督との出会いでした。

「4年のリーグ戦を終えてから、大学時代はめちゃくちゃ細かったし、筋トレもぜんぜんやっていなかった。だから正直、いわきFCには怖いイメージを持っていました。GK鹿野選手などの先輩から『筋トレやスプリントトレーニングがめちゃくちゃきつい』と聞いていましたから…。でもJ2昇格がほぼ決まっていたし『このチームなら成長できる』と思ったのも確か。『勝負するしかない』と腹をくくりました」

■最後まで諦めてはいけない。簡単に倒れてはいけない

尚志高でたくさんの思い出を作った加瀬選手にとって、福島県は第二の故郷。夢だったプロのキャリアをいわきFCでスタートさせるのは、本当に喜ばしいことでした。

「加入のリリースが出た後、多くの人が『福島にまた加瀬君が来てくれる』と喜んでくださり、たくさんメッセージをくれました。福島でまたやれることが本当にうれしかったから、皆さんをどうにかして喜ばせたい。プレーで元気を届けて、福島に恩返ししようと誓いました」

チーム加入後、双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館を訪ね、震災の被害と復興の模様をしっかりと目に焼きつけました。

「わかってはいたつもりでしたが、実際の映像や写真を見て衝撃を受けました。当時から前進している部分も多くありよかったと思う反面、まだ道半ばの現状もある。クラブがどんな状況で生まれのかをよく理解できたし、クラブが背負ってきたものを感じました。いわきFCの一員となった以上、絶対に最後まで諦めてはいけない。簡単に倒れてはいけない。その思いが強くなりました」

一方でチームの筋トレの厳しさは、聞いていた通りのすさまじいものでした。

「入団してから他の選手のトレーニングを見ると、みんなめちゃくちゃゴツいプレートを付けたバーベルを使っている。でも自分はプレートすら付けられない。バーだけを担いでスクワットをしているのを大倉社長に見られ、笑われました。他の選手やトレーナーさんに『前代未聞のレベル』と言われていましたね(笑)。

今はみんなと遜色ない重さでやれるように…まぁ一応、なったかな(笑)。今年チームに入った(西川)潤もウエイトトレーニングの経験がぜんぜんなくて、軽い重さで苦しんでいたんです。彼の姿を見て、昔の自分を見ている気持ちになりましたね」

加瀬選手は4-4-2の右SHとして2023年3月5日のJ2第3節・レノファ山口FC戦(ホーム)でデビュー。第4節のベガルタ仙台戦(アウェー)で初先発し、チームの勝利に貢献。その後もたびたび先発出場を果たします。

「シーズン序盤はいい動きができていました。自分のスピードはプロの舞台でも確実に通用するという実感を得ることができましたし、楽しんでプレーできました」

しかしその後、相手守備陣に止められる場面が増えていきます。持ち前の思い切りあふれるプレーは、徐々に鳴りを潜めていきました。

「ドリブルで前に向かっても相手DFに縦のコースを切られ、ボランチが2枚サポートに来てボールを奪われてしまう。そんな状況が増え、どうすればいいのかわからなくなっていった。チームも点を取れずに連敗する中、自信を失ってしまいました。

今思えば、自分が仕掛けることばかり考え、視野が狭くなっていた気がします。ただ速いだけの選手ならJ2には山ほどいる。武器のスピードを生かすには、まずクロスの質を上げる必要があると思いました」

加瀬選手は必死でクロスの練習に取り組みました。シーズン後半に入ると、練習の成果は少しずつ発揮されていきます。

第27節の大分トリニータ戦(アウェー)では右サイドの深くまでボールを持ち込むと、ゴール前の岩渕弘人選手(現・ファジアーノ岡山)にグラウンダーのクロスを送ってゴールをアシスト。そしてシーズン最終戦となった第42節・藤枝MYFC戦では、前半12分に右サイドでボールを受けると、ゴール前に走りこむFW近藤慶一選手にテンポよくアーリークロス。先制ゴールを演出してみせました。

「ゴールに入る人を狙うことも大事ですが、まずは速いボールを入れること。スペースを見て早く判断し、相手が嫌な位置に速いボールを入れれば、何かが起こる。慎重になりすぎず、もっと積極的にクロスを入れることを心がけたつもりです」

27試合に出場し14試合に先発、0ゴール2アシストで、プロ1年目のシーズンは終わりました。シーズン後半にはっきりと努力の一端が見え、成長を示したことは確か。でもチームを上位に押し上げる活躍はできず、決して満足のいくシーズンではありませんでした。

「自分を変えなければ、生き残れない」

幼いころからの夢だったプロサッカー選手であり続けるため、加瀬選手は変わる決意をしました。

■チームのために誰よりも走り、戦い続ける

「来シーズンも、いわきFCでプレーさせていただくことになりました。プロ1年目はなかなか結果が残せず、悔しいシーズンとなりました。そんな中、サポーターの皆さまの温かさは励みになりました。本当にありがとうございます。来シーズンは数字にこだわり、チームにとって必要不可欠な選手になれるよう頑張ります! 来シーズンも共に戦いましょう!」

 2024年の契約更新がリリースされ、加瀬選手はこのようなコメントを残しました。今季のいわきFCは3バックを採用。左右のWBは攻撃のキーマンです。加瀬選手に求められるのは、まずクロスの質を上げること。そして裏抜けばかりに固執せず、足元でもらって低い所から味方を使うなど、プレーの幅を広げることでした。

「幸いキャンプからいい入り方ができ、自信を持ってシーズンに臨めています。キャンプ中のトレーニングマッチでは何度かチャンスを作り、アシストを記録できました。同じJ2のレノファ山口FC、藤枝MYFCとの練習試合で武器をしっかりと発揮でき、今年はやれるという確信を得ました」

今年は開幕からスタメンの座をしっかりと確保し、第34節終了時点で32試合に出場。4アシストを記録しています。圧倒的なスピードで敵陣に侵入する加瀬選手の走力。もちろん今や全チームが認識済み。相手DF陣は加瀬選手を執拗にマークし、クロスを上げさせないようにしてきます。そんな中で、頼りになるのは仲間の存在。今季は他の選手をよく見て、しっかりとコミュニケーションを取ることを心がけています。

「昨年はボールを持っても周囲のサポートが少なかった。でも今年は違う。周囲の選手のフォローが厚く、昨季よりもずっとやりやすい。ボールを持って仕掛けに行くと周囲の選手が来てくれるので、縦を切られても連携で崩していける。みんなが自分の使い方をわかってくれているし、ボールを求めてくれるようにもなりました。

特にMF西川潤選手、FW谷村海那選手とは、お互いを生かし合う関係性ができています。自分が相手に囲まれそうになったらフォローしてくれるし、もちろん自分も彼らのサポートに回ります。西川選手は自分がボールを持つといつもそばに来てくれます。互いをオトリに突破したり、相手が嫌がるプレーもできています。そして谷村選手は前を向いた時、いつも一つ奥で待ってくれている。自分の武器をよく理解してもらっています」

現在、目標のプレーオフ圏内入りに向け厳しい戦いを続けるいわきFC。加瀬選手がチームの掲げる「魂の息吹くフットボール」の象徴の一人であることに、疑いの余地はありません。シーズン終盤に入り、相手の厳しいマークを受けてプレーの展開に悩んだり、疲労の蓄積で先発を譲る試合も出てきました。加瀬選手はそれでも、がむしゃらに前へと走り続けることをやめません。

「今年のシステムは特に激しい上下動が求められますが、とにかく誰よりも走り、戦い続けたい。そして、このチームと一緒にJ1に行きたいです。チームのために戦えば、おのずと結果はついてくる。難しいことは考えず、目の前の試合に全力で戦っていきます」

さて、最後に冒頭の質問の答えです。
加瀬選手はなぜ自分を「ハエ」と言ったのでしょう

「僕は雄三さんに『ハエ』と呼ばれているんですよ(笑)『お前はすばしっこいだけで、他は足りないものだらけ。相手にとってスピードは脅威だけと、今はまだブンブンうるさいだけのハエ。まだまだハチじゃない』と…。今季まだゴールがないので、早くひと刺しできるハチになりたいです(笑)。

特にこの先のゲームでは、アシストと得点にこだわってやっていきたい。昇格プレーオフ圏内入りに向け、難しい試合が増えます。1対0、2対1といった堅いゲームが続く中でも、点を取れる選手になりたいです」

▼加瀬選手をもっとよく知る5つのQ&A
Q1:オフは何をして過ごしていますか?
A1:昨年の終わりに始めたゴルフですかね。ベストスコアは86です。

Q2:よく出かける場所は?
A2:小名浜のイオンモールですね。オフの日は時間があるとイオンに行って、ご飯を食べてゲーセンに行きます(笑)。サポーターの方に「いつもいるけど、イオンに住んでいるの(笑)!?」と言われました。

Q3:仲よくしている選手は誰ですか?
A3:DF速水修平選手など、同期入団の選手はみんな仲いいです。先輩では大学で一緒だったMF山口大輝選手やFW谷村海那選手。あとGK立川小太郎選手や鹿野修平選手は一緒にゴルフに行く仲です。

Q4:国内外でイメージしている選手、目標としている選手は誰ですか?
A4:伊東純也選手のプレー集の動画をよく見ます。あとはレヴァークーゼンのMFフリンポンのプレーも参考にしています。

Q5:好きな女性のタイプは?
A5:ショートカット一択です(笑)。"乃木坂系"のかわいい子がめちゃくちゃ好きです。

次回は今季セレッソ大阪からの期限付き移籍で加入し、活躍を続ける「NJ」ことMF西川潤選手の登場です。お楽しみに!

(終わり)

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