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【FM店主日記Day28】ウサップ寓話1 カラスとキツネ

ウサップ寓話1 「カラスとキツネ」

夏の終わりの夕暮れ時。カラスは大きな肉を咥えて、高い木にとまっていた。見渡す限りの深い山林の風景を眺めては、この世界を支配しているのは俺だ、レベルの見下し感で世界に対してマウントを取ろうとしていた。カラスはこの世界を憎んでいた。

カラスがこの世界を憎むようになったのには理由がある。ひとつ目は小学校三年生の頃、親の仕事の事情で家族全員が引越せざるを得なくなり、新しい学校へ転校生として迎え入れられたことだった。それまで住んでいた町の学校には数多くの他のカラスたちもいたし、鳩や雀、時には鷺などの鳥類が主だったが、新しい学校では、ウサギやキツネ、たぬきや時々イノシシなど、鳥類以外の、主に子供向けのスナック菓子などにおいてよくカテゴライズされるいわゆる「森のどうぶつたち」などが新しい学校の主なアニマル種セレクションとなっていた。

突然に自分語りを始めたカラスにキツネは話しかけた。

「おい、お前、さっきからなんかよくわかんない映画の冒頭でありがちなキャラのプロフィールみたいな、おい、これストーリー展開にいるの?プロットと全然関係ないじゃん?地面師たちのタワーオフィスで立ちバックしてるシーンみたいにプロットと関係ないじゃん?みたいな細かすぎて伝わらない詳細みたいな映画のオープニングみたいなこと呟いてたけど、だいじょうぶか?最近おまえちゃんと飯食えってっか?」

「おまえ、そうやって、話しかけたらオレが肉落とすんじゃないかと思って話しかけてんだろ?その手には乗らねえよ。こないだからオレも成長したんだよ。もう前のオレとはレベチなんだよ」と肉を嘴で咥えたままカラスは答えました。

「なんだよその態度。心配して言ってんのわかんないのかよ?それに、そもそもおれは2年前からグルテンフリーのビーガン食に切り替えたから肉そんな食べたいと思わないんだよ。余計な脂肪がつくと動きにくくなるのがやなんだよ。血圧も気になるしよ。もう和牛なんか食べるとしても一枚で十分なんだね。もう逆にオージービーフとかの赤肉の方がもたれなくていい。そういう意味で言うとお前が咥えている肉の塊くらいならまぁ朝飯前にぺろりと食える感じではあるがな」と、キツネはカラスを見上げて言う。

「おお、意外と健康に気使ってんだな。オレはまだ和牛イケるな。まぁ、たしかに脂肪がつきすぎるとお前らちょっと旨そうに見えるからな。ぶっちゃけ、まずそうに見えた方が得な時もあるしな」とカラスが答える。

「ま、お互いいい歳だし、ちゃんと健康診断だけは毎年いっとけよ。お前らは顔色じゃ判断つかないから難しいんだけどよ」キツネが言う。

「そうなんだよな、あれが定期検診が重要っていうもんな。正直ちょっと怖いけど、しょうがないよな。んー、そうだな、やっぱ今年も行こう。今決めた。さっそく嫁に病院予約してもらっとくわ」とカラスが言う。

「おう、そうしな。ついでに奥さんによろしく伝えといてくれ。じゃあな」キツネが言う。

「おう、伝えとくよ。いまだに嫁と時々お前の話して笑ってんだよ。あの中学校の卒業式の練習の時の」とカラスが言うと、

「その話はもうよせよ」とキツネは言って少し笑った。

「そうか。まあ、またこんどゆっくり。元気でやれよ」とカラスは言って飛び去って行った。

「元気でやれよ」とキツネも言った。

池の中にオレンジ色の絵の具をぶちまけた水彩画風にぼんやりとした泡のような夕暮れだけがそこに残されていた。次の夜、キツネは死んだ。高速道路を渡ろうとして人間の割と大きめのファミリータイプの自家用車に轢かれ、内臓がアスファルトにこすりつけられて、パンに塗るペーストみたいになっていた。

(完)

イソップ寓話「キツネとカラス」

あらすじ
鴉が大きな肉をくわえて高い木にとまった。いざ食べようとしたときに狐に声をかけられ、容姿についていろいろと褒められる。鴉は肉を食べることを忘れ、しばし聞き入ってしまう。そして狐が「きっと素晴らしい声をしているんだろうなあ。ああ、声を聞いてみたい」と言うと、鴉は「カー」と高らかに鳴き、くわえていた肉は下にいた狐の口に収まってしまう。

教訓
褒められていい気になりすぎると、痛い目をみることになる。

イソップ寓話 - Wikipedia


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