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【FM店主日記Day30】コインランドリーでの恐怖体験。

コインランドリーで洋服を乾燥機にかけていた時のこと。

乾燥機が終わるまでの二十分あまりの時間、特にすることもなく店内に座って待機していたのだけれど、僕が濡れた洗濯物を持って来た時には女性の先客がいた。僕と同じように彼女は待機している様子で、天井に備え付けられた小さなテレビを眺めていた。

目があったので軽く会釈すると、彼女は何やら僕に話しかけて来た。先日の雷がどうとか、最近の豪雨がどうとかいった当たり障りのない天気の話だったし、特に気に留めるような内容でもなくしばらくすると会話も途切れ、沈黙が訪れた。店内には乾燥機の回る音とテレビからこぼれる音楽や声が小さく響いた。

二十分あまりの時間を待ち、乾燥機のサイクルが終了すると、僕は乾燥機から洗濯物を取り出し、全ての洗濯物が乾いていることを確認すると、店内に置かれた白いテーブルの上で洗濯物を畳み、洗濯物を入れて持って来た袋にしまった。

コインランドリーはなんだかんだと忘れ物をしやすい。うちに帰ってから靴下が一つなかった、なんていうことも頻繁にあるし、その都度、わざわざ戻ってくるのもなかなかしんどい。何度も戻って来た経験を持つ僕は店を去る前に忘れ物チェックを入念に行うことにしている。

テーブルの上、乾燥機の中、かごの中、座っていた椅子の付近などを指差し確認しながら忘れ物チェックを行い、忘れ物がないことが確認できたので店を出ようとした。

その時に気がついたのだ。今この店内で乾燥機はおろか洗濯機も靴洗い機もどれもこれも稼働していなかったのだ。

さっきの女性は相変わらず店内でテレビを眺めている。何かを待っている風にテレビを眺めているのだが、僕は気がついてしまった。彼女が洗濯機が終わるのを待っているわけではなく、乾燥機が終わることを待っているわけでもないことを。

世にも恐ろしい考えが僕の頭に浮かんだ。もしかして、もしかしてこの人は金目のものを洗濯してそうな人を待ち伏せしていて、その人がいなくなった時に何かを盗もうとしているのか?こんなに悪いことなんて縁もゆかりもなさそうな痩せっぽちのおばちゃんがそんな悪いことを?

いや、待てよ。もしかして。もっと恐ろしい考えが僕の頭に浮かんだ。ひょっとしてこの人はここにテレビを見に来ているのか?テレビを見に?テレビを見にコインランドリーに行く?なぜ?しかもテレビを見ると言っても、特定に番組が見たいわけではないようで、なんの変哲もないニュースを見ているだけだが。恐ろしい。僕が店を出た時もその女性はいたって自然な感じでテレビを凝視していた。僕が軽く会釈すると、彼女も軽い会釈を僕に返した。

それ以来その女性とそのコインランドリーで遭遇したことはない。

フェルマータ店主 KAORU

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