【FM店主日記Day69】私を嫌いになっても、ハワイのことは嫌いにならないでください
「わー、うらやましい!」という言葉を日本ではよく耳にする。これを言われた人はちょっと自慢げな、満足げな顔をしながら、「いや、そんなんじゃないから」とまんざらでもない表情で自分なんてそんな大したことない、みたいなことを述べる。ジャパニーズケンソン、というやつだ。
「ハワイに行ってきた」
「うわー、うらやましい」
これは日本語の教科書に書いてある定型文か何かなのかもしれない、と最近では思っているのだけど、その教科書をたぶん自分が通っていた学校では採用していなかったせいか、この会話をする意味も必要性もまるで理解できない。
たしかにハワイに行く、というのは良いものだし、自分もかつて一度だけではあるがハワイに行ったことがあり、その当時はまだ家族がアメリカで暮らしていたので、たまには日本とアメリカの中間地点であるハワイで集合しよう、という話になり実現した。年末の時期のハワイは、まるでハワイのように温かく、日本では真冬だと言うのに海にも裸足で入れる気温であり、まるでハワイのように快適であった。たしか家族みんなで一週間ほど滞在し、パイナップル農園を見に行ったり、サーフィンレッスンを受けたり、ハイキングや水族館に行ったりしてすごした。パイナップルがあんな低いところになっている果物だとは知らなかった。
いや、たしかにハワイには否定する要素が何一つなくハワイ旅行というのはその言葉が象徴する通りに、ここは夢の国か、と思うほど心地よく、ここまで朝から晩まで心地よさがずっと続くなんて、地球広しと言えども女性用のナプキンのCMの謳い文句以外であるのかそんなこと?とその現実味を疑ってしまうほどであり、まるでハワイのように楽しい時間が過ごせるのだ。
かの高倉健さんも好きな旅行先はどこか、と聞かれ、思わず、ハワイ、と間髪入れずに答えてしまったほどハワイはいいところであり、体を柔らかく包み込むような甘美な風が顔を撫でるように通りすがるところであり、まことに持って結構な場所なのである。素敵すぎてハンバーガーにパイナップルがうっかり挟まっていても、野菜の一種かなにかと勘違いしてかぶりつき、「こんな美味しいものは初めて食べた!」と衝撃を受けるほどである。
しかし、である、ハワイに行く時にかかる飛行機代、そして現地でのホテル代、食事代、ウクレレのレッスン代、ウクレレの代金、アロハシャツの購入費用などは大抵の庶民の場合、自己負担、つまり自腹であり、有給休暇を取得するために忖度をして回るのも自分であり、自分が自分のために根回しをしてようやく休暇を取得し、パスポートの有効期限を確認して、ESTAを取得して、靴を脱いで荷物検査を受け、出国審査をクリアし、Duty Free Shopの誘惑に打ち勝ち、ついには飛行機に乗り込み、ビーフオアチキン、などの厳しい質問にも果敢に答え、入国審査をサイトシーイングなどの呪文を唱えることで見事に潜り抜けてようやくハワイに辿り着けるわけであり、これはなかなかの労力とコストの賜物であり、これほどの努力を惜しまなかった人に対して、そもそもパスポートすら所有していない人が無責任にも「わー、うらやましい」とのたまうのはいかがなものか、と見識を疑うとともに、なんでもかんでもうらやましいとか思う必要なんかないし、うらやましいと思ったら自分でやれば良いだけの話だし、やらないってことはつまりそんなにはやりたくないわけなので、うらやましいなんていうのは所詮は礼儀とか立前とか社交辞令みたいなやつで、このうらやましいと思ったり思われたりする文化というのは、自分からしてみると理解不能であり、ちっともうらやましくなんかないのだけれど、その一方で、「わー、うらやましい」とそれほどまでに純粋無垢に誰かをうらやましがれるのはいちいちこんな面倒なことを考えたりしない人の証であり、それはそれで幸せそうな人生であり、そんな光景に遭遇した時、図らずも、「わー、うらやましい」と思ってしまったり、しなかったりする人生なのであるが、これまでの人生で学んできたことの中で自信を持って言えることが一つだけある。すなわち、それは、ハワイは良い、ということであり、ハワイは、まるで南国のような温暖な気候であり、ハワイはまるでハワイのように快適である、ということであり、ワイハーは最&高であるということであり、またぜひ行きたいし、ハワイに行く人を見ると、なんならパブロフの犬よろしく、ハワイという地名を耳にするだけで、無条件に「わー、うらやましい」と思う気持ちが湧いてくることは人として至って自然なことである、という客観的事実である。
それでは、今日の講義はこれまでとする。異論もイーロンも認める。
フェルマータ店主 KAORU
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