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【FM店主日記Day43】BLANK PAGE 空っぽを満たす旅

BLANK PAGE 空っぽを満たす旅という内田也哉子さんの本をオーディブルで聴き終えた。

樹木希林さんと内田裕也さんというビッグネームの2人の間に生まれた娘である、というおでこにシールが貼ってあるような状態で人生を生きてきた彼女が両親を立て続けに失い、空っぽになってしまった状態からたくさんの人に会いに出かけ、その人と2人きりで話をする、という企画の本だった。

まず、会いに出かけた相手のセレクションが素晴らしい。谷川俊太郎、小泉今日子、中野信子、養老孟司、鏡リュウジ、坂本龍一、桐島かれん、石内 都、ヤマザキマリ、是枝裕和、窪島誠一郎、伊藤比呂美、横尾忠則、マツコ・デラックス、シャルロット・ゲンズブールという錚々たるメンバーで、もともと好きだった人もいれば今回初めて知った人もいたし、知っていたような気になっていたけれど、改めて話を聞くと全く違う側面しか見ていなかった、ということを実感した人もいた。

特に、横尾忠則さんは名前こそ見たことはあったのだけれど、どういう作品を作る人なのか、どんな人生を歩んできた人なのか、どんな人物なのか、というのを知らなかったので、今回の本を聞いたことで彼の考え方や生き様に触れられたのはとても嬉しいことだった。というか、岡本太郎とかと匹敵しそうなくらいすごい人だったのに、知らなかったというのは全く持って不覚だったとしか言いようがない。

特に、自分はあれこれ考えないで人に言われたことに素直に従って生きてきた、という彼が話している部分は衝撃的だった。本を読まない、というのも、デザインはただの仕事だと思っていたというのも、スケール感の大きさになんだか圧倒されてしまった。そして、45歳で突然画家になった話もとても興味深いものだった。

他の人たちもみな素晴らしかった。坂本龍一さんもそうだし、養老さんの話も安定の養老さんだったし、中野信子さんと内田也哉子さんの対談「なんで家族を続けるの」も考えさせられる本だったし、マツコ・デラックスとのとてもいい意味の「らしくない話」もとてもよかった。絶妙のバランス感と人の悲しみとか痛みとかを味わったことがある人にしかだせない哀愁というか、いろんな人生のフレーバーが溢れ出して生きている感じが行間から滲み出ていて、音声で聴いた後にもう一度活字で読んでみたいと思うほどの一冊だった。

人生とは既視感との戦いであり、虚無感との戦いである。戦わない、という選択肢があったとしても、最後は結局戦ってしまっているような気がする。

坂本龍一さんとの対談も良かったけれど、娘の坂本美雨との対談もぜひ読んでみたい、と思ったし、同じような企画でまた本が出たら読んでしまうと思う。

言葉と気持ちと体温と距離感と。

フェルマータ店主 KAORU

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